タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/06/26


「そういえば私サンジくんに口説かれたことないな」
「え」

 ぺき、とサンジくんの握っていたペ鉛筆が折れる音がして思考回路が口からこぼれ落ちていたことを悟る。向かいに座ってレシピを書いていたサンジくんはノートに顔を向けたままあからさまにおどおどしている。そもそも女の人がいるのにサンジくんが大人しくレシピノートを開いて書き物をしているのがまずおかしい。ここにいるのが私じゃなくて、ロビンちゃんやナミちゃんならメロメロうるさくしてじっとなんてしてられない。私の時だけ、サンジくんはとても大人しい。へしゃげた鉛筆を握りしめたまま可哀想なほどかちこちに固まって視線だけがおどおどと彷徨う様は哀れでこれ以上つつくのが申し訳なくなってくる。だけどなんだか今日はちょっと、意地悪がしたい気分。

「サンジくんに口説かれない私ってそんなに魅力ないのかなあ」
「そ、ッんなこ、ひっ」

 あーあ、とルフィですら嘘だと気付くだろう大根演技でわざとらしくため息をついて呟けば、固まっていたサンジくんが否定しようと勢いよく顔を上げてピッタリと視線が合った瞬間にまた固まる。にっこり笑えばボンッと爆発でもしそうなほど真っ赤に肌を茹で上がらせたサンジくんに喉を鳴らした。
 サンジくんに言葉で口説かれたことはない。
 だけど、目は口ほどに物を言うをここまで体現されてしまえばかわいくて、くすぐったくて、言葉で口説かれたことがないことに気落ちなんてしたことはない。恥ずかしいなら目を逸らせばいいのに、一度あってしまった視線を引き剥がすのも難しいのか、はふはふと息も絶え絶えに私から目を離さずに戸惑う姿はとても愛らしくてむくむくと意地悪な気持ちが育ってしまう。ころりと表情を変えまたわざとらしく落ち込んだ振り。ただでさえ優しいサンジくんがおかしくなってしまっていて私のわざとらしい演技に面白いほどあっさり引っかかる。

「悲しいな、サンジくんに口説かれないほど魅力がないなんて」
「だっ、そっ、」

 えーん、とここまですれば騙そうともしていないわかりやすい嘘なのにサンジくんは顔を青くしたり赤くしたりして全く気付く様子がない。

「れ、れで、れでぃ、は、す、すごくきれ、」
「ん?」
「ひ、」

 顔を真っ赤にさせて潤む瞳で言葉に詰まりながら頑張るサンジくんが可愛くて頬が緩んでしまう。たったそれだけでこれ以上赤くなる余地なんてなかったはずの白い肌がまた赤く染まって、くるくるとしたチャームポイントの眉毛のように目がぐるぐると渦巻いている。狼狽しているサンジくんは可哀想なのに可愛くて、優しくしたいのに意地悪したい。そんなたまらない気持ちにさせられる。可哀想なサンジくん。もっと優しい人はそこら中にたくさんいるのにこんな私に引っかかって。ききききき、と壊れたトーンダイヤルのように言葉をうまく再生できないサンジくんは私の頬が緩んでしまっているのに気付かない。