タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2022/06/28
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おいで、と白魚のように美しい指がおれを呼ぶ。その瞬間おれの脳と体はびりびりと痺れて固まってしまう。不思議そうに首を傾げてもう一度、おいで、と囁かれても、まるで石化でもしたかのように指一本、動かせなくて息が詰まる。きれいだ。どうしてそんなに綺麗なんだ。レディの美しさに跪かない男はいない。跪かない男は、跪かないんじゃない。跪けないんだ。今のおれみたいにレディの美しさに見惚れて固まってしまうから。
サンジくん、と甘い声がおれの名前を呼んで意識を取り戻す。いや、意識はずっと目の前のレディに囚われていたから戻るも何もないけど、とにかくゆめうつつにびりつく体をどうにか動かしてようやく一歩足を踏み出せた。右足と一緒に右手も動いたかもしれない。どうやって体を動かしているのか自分でもわからない。固まっていた体は今度は勝手に動いて止まらなくなってみっともなく足をもつれさせながらレディに近付く。
「そんなふうになっちゃうんだねえ」
レディの目の前まで辿り着いたと同時に膝がかくんと崩れ落ちて跪きながらレディを見上げる。不思議そうに、楽しそうに笑うレディにおれもへらりと笑う。笑顔、可愛い。
ちょいちょい、とまたたおやかな指がおれの目の前で蠢いて、それに引き寄せられるように顔を突き出せば柔らかな指がおれの頬に触れて息が詰まる。溶けてしまいそうだ。
「よくわからない魚、食べちゃダメだって前にもチョッパーにあんなに怒られてたのに、果物ならいいと思ったの?」
レディの言葉に首を傾げる。果物。果物、あのレディの唇のように赤くて瑞々しいあの実のことかな。レディも食べたかったのかな。レディにお出しするならどんなふうに手を加えればいちばんおいしく味わっていただけるだろうか。目の前にレディがいるのに目の前にない果実に思考が逸れてレディの指が頬を滑る感触に意識が戻る。ぱちんと絡んだ目は困ったように微笑んでいて、何がレディを困らせているのか考えてもレディの美しさの前に思考が定まらない。
「惚れ薬って存在するんだねえ……」
「レディのこと?」
「ん?」
「レディがそこにいるだけで、野郎ならみんな惚れちまうから、レディは惚れ薬?」
「あはは!」
小さな口を大きく開いて笑う姿は無邪気で屈託なくってとっても可愛い。
「かわいい」
「レディはもちろんかわいいよ」
「んふふ」
おれの頬をふわふわ触ることの何が楽しいのかはわからないけど楽しそうに何度も指でなぞられてだらしなく頬が緩む。
「ほんとだったらこんなかわいいサンジくんを見られるのはサンジくんの好きな人だけなのに、覗き見しちゃって申し訳ないな」
ごめんね、と謝りながら、だけど笑って頬を撫でつけられて首を傾げる。
「おれの好きな人はレディだよ」
「ふふ、かわい」
いつも冗談に覆い隠していたはずなのにぽろりとこぼれ落ちた本音。言ってしまったと後悔するはずだった。だってこんなおれに好かれても、きっと迷惑にしかならないから。なのに、隠すはずだったそれが今日に限ってこぼれ落ちても全然、まったく後悔の気持ちが湧き出てこない。それどころか一度言ってしまった今はタガが外れたかのようにずっと隠していたかったはずの言葉をレディに、世界中に向けて言い放ちたいくらいの焦燥感に駆られる。
「君に恋してる男に、君に触れる許可をくれる?」
いつもだったらレディの答えを待つ余裕を見せられるのに、今日のレディはいつも以上に可愛らしくて、綺麗で、美しくて、答えを聞くほんの少しの時間も我慢できなくて頬に触れるたおやかな指にそっとおれの手を重ねる。レディの小さな手はおれの手で簡単に覆い隠せて、その小ささにまた愛しさが募る。
「二年前からずっと、ずっとこの手に触れたかった」
「に、ねんまえ?」
今までずっと楽しそうにおれを見つめていた瞳がまんまるに見開かれて不思議に思う。どうしたって今日は本音を隠せそうにない。ずっと隠すつもりだったのに。なのに今日はなぜかレディの美しさに抗うことができなくて、抗う必要性も感じられなくて、ぽろぽろと言葉がこぼれ落ちる。頭のてっぺんから足のつま先までおれの体の中にぎゅうぎゅうと押し込めたレディを想う気持ちが、きっと今日で満タンになっちまったんだ。だから溢れた想いが口からこぼれていく。レディの表情が可愛らしく固まったままで呼吸ができているのか心配になる。はじめて見るその姿にまた好きが溢れて口から二年間ずっと溜め込んでいた好きがこぼれおちていく。隠せない。隠したくない。
二年前からずっと、君が好きだよ。
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