タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/03/14


 朝目を覚まして慌てて起き上がらずにきょろきょろするのが癖になったのは、ある男のせい。まず目を開いた瞬間に見えた天井がいつもの女部屋の木目じゃなく、冷たい色をした無機質な素材だった。もうその時点で察した。察したけど悪足掻きがしたかった。ちら、と右を見る。いなかった。左を見た。いた。いました。私たちのキャプテン、ルフィが同盟を組んだ、死の外科医が同じように寝転んで私を見ていた。

「おはよう」
「おはようじゃないんですよね」
「朝の挨拶はおはようだろ。なんだ? こんにちはがよかったか?」

 私がため息をつくより先に朝の挨拶とやらを寄越してきた同盟相手に一言返してから今度こそため息をつく。

「挨拶の前に謝罪でしょ……」
「なにを謝れと?」

 さっぱりわからないと言わんばかりに瞬いてくるから頭痛すらしてくる。まあ会話が通じないのはこんなことを何度かされてる時点でわかってる。

「……同盟相手を寝てる間に誘拐するのは謝罪すべきことでしょ」

 深いため息とともに呟いて顔を覆う。今頃ナミちゃんとロビンちゃんはどうしてるだろう。私の代わりに石か何かがベッドの上にポツンと乗っかっていて心配してくれてるだろうか。もう二人も慣れて、またか、と思いながら特に気にせず朝の身支度をしてるんだろうか。

「前もそんなことを言ってきたから今回はあいつらにちゃんと話を通した」

 私聞いてませんけど??

「だから誘拐じゃない。そもそもちゃんと毎回帰してるだろ。誘拐するならそもそも帰さない。帰さなくて良いなら、」
「帰してほしいです」

 チッ、と舌打ちが聞こえて口を挟んで良かったと安堵の息をつく。いやそもそも勝手に連れてこないでほしいんですけど。今回はなぜか当人に話を通さず周りにだけきちんと話を通したらしい目の前のふてぶてしい男に次はどう言えばきちんと伝わるだろうかと考える。

「どうして毎回寝てる間に勝手に連れてくるの……。ちゃんと私に聞いてよ」

 この潜水艦がサニー号の近くに来るたびに、私は勝手にこのベッドにご招待される。一度目はパニックに陥って号泣。みんなの名前を叫びに叫んで泣く私にさすがに不憫に思ってくれたのか一瞬で帰してくれた。忘れた頃に二度目だったからその日も泣いた。三度目にようやく現状把握をしようと対話を試みるも今日のように会話は通じなかった。何度か繰り返してようやく敵意はないことがわかっただけ。

「お前の顔を眺めるのは飽きない。起きるのを待っていたら寝てる間の顔が見れなくて時間がもったいないだろ」

 だから手を退けろ、と顔を覆っていた手を掴まれてまた視線が絡む。時間がもったいない。いつ死ぬかもわからない海賊なんだから当然の意識。だけど理由を考えたことはあるんだろうか。こうなる度に会話を繰り返して、敵意がないことは分かった。他の感情があることも。だけどいつも攫ったくせにすることは一日同じ船で過ごすだけ。行動と、柔らかな視線と、ハートのクルー達の生暖かい視線にさらされて、察せない方がおかしい。だけどそれを本人に言われたわけじゃない。

「どうして」
「今答えただろ」
「どうして私の顔を眺めたいの」
「……それは」

 いい加減くたびれて質問して、初めて会話の主導権を握れた気がする。珍しく言い淀んだ目の前の男は戸惑いに視線を揺らしていて、考えたこともなかった、そんな感情がありありと浮かんでいて苦笑した。
 女部屋で眠ったのに目を覚ましたら勝手に誘拐されていて違う船、だなんてことは今日限りで終わらせる。同じ部屋で一緒に眠って眠る前と同じ部屋で一緒に目を覚ます関係になればいい。そのためには目の前の男がまず自覚してくれないと話にならない。答えを聞くまでは帰らない。どうして、と重ねて問いかけ続ける。幸いにも今回の誘拐はナミちゃんやロビンちゃん達には話を通しているらしいし、慌てて帰らなくっても時間はたっぷり残っている。眉根を寄せて賢い頭をフル回転させているローを飽きずに眺めて、また、どうして、と重ねて問いかけた。