タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/07/05


「何それなんの病気?! そんなのあるの?! キャプテンには言った?!」
「まあそのうち治そうとは思ってるし今は別にいいんだよ、気にしない、「おい」デッ?!」

 食堂から聞こえてきたベポの悲痛な声と、当事者のはずなのにどこか他人事のような呑気な声に苛立って自分でも聞いたことがない腹の底で煮尽くしたようなドス黒い響きの声が出てベポにも馬鹿にも飛び上がるほど驚かれた。ベポは一瞬で気を取り直して病気なんだって治してあげてとおれに縋り、当事者が逃げ出そうとするから首根っこを掴んで捕まえる。医療室直行だ。

「それで? どこが悪いんだ」

 医療室へ患者を投げ込んで問診を始める。問診が尋問に変わるかどうかはこいつの態度次第だ。ひと月前に行った定期検診では何も悪いところはなかったはずだ。おろおろと慌てながらも不調を何も言わない患者に焦れて膜を張る。スキャンをして隅から隅まで眺めても何一つ悪いところは見当たらなくてほっとしたいのに、患者本人が治すものがあると自覚しているせいで安心できずに目を凝らす。おれの知らない症例で、見逃しているだけなのか。今は別にいい、ってなんなんだ。治療するのに時間がかかることを気にしてるのか。そんなもの、気にする必要なんてない。どんなに忙しくても、どんな状況下でも、お前らクルーの命が最優先に決まってるだろう。それなのにどうしておれに不調を報告もせず、今は別にいいと遠慮までするんだ。

「くそッ」
「きゃ、キャプテン、別に私、悪いところなんてどこもないでしょ? 大丈夫だから、」
「そんなにおれは頼りないか」

 不甲斐なさに患者に当たる医者は、頼りないという言葉がぴったりだ。おれの言葉にギョッと目を見開いて慌てる姿にもう一度スキャンしたって何一つ悪いところなんて見つかりやしない。

「ご、ごめんなさいキャプテン、病気は病気だけど、お医者様が必要な病気じゃないんです、」
「は?」

 体の隅々まで見渡して降ってきた言葉に眉を顰める。謎解きやってんじゃねェんだぞ。顔を上げて視線を合わせた瞬間、さっきまでは平常だった体温が急激に上がったのか皮膚が真っ赤になったのを見て慌てる。やっぱりおれの知らない病気にかかってるのか。

「ごめんなさい、キャプテン。キャプテンはすごく真面目に私を心配してくれてるのに、そういうんじゃないんです」

 そういうんじゃないってなんだ。病気にそういうんじゃないも何もないだろ。

「恋の病、的な、そういう……ベポはわからなかったみたいで心配してくれて、それで、……こんな大騒ぎになると思わなくて、ごめんなさい」
「こいのやまい」
「……はい」

 恋の病。頭の中で漢字変換をして、脱力する。椅子の背もたれに背中をべったりとくっつけて天井を見上げて溜息をついた。誰も悪くない。人間の言い回しを知らなくて驚いて騒いだベポも、ただの世間話でよくある言い回しをしただけの女も、それを聞いて勘違いした医者も、……いや、勘違いしたおれが悪いな。冷静に聞けば笑い話になったはずのそれを大袈裟にしたのはおれだ。

「……そのうち治すとか呑気なこと言ってたから、カッとなっちまって、……悪かった」
「いえ、その、私が悪いので……」

 背筋を戻して視線を合わせる。恥ずかしいのか真っ赤に頬を染めたまま申し訳なさそうに謝られて余計に申し訳なくなった。