タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/07/07


「何その指輪!!」
「あら、結婚したの?」

 ナミの絶叫と、ロビンの静かな声がそれぞれ重なって、ついで一瞬でお祭り騒ぎだ。ただひたすら驚くやつ、おめでとうと祝うやつ、おれが相手だよねと涙ながらに縋り付くバカ、誰とだ誰とだと相手探しを始めるやつ、みんながみんな寄ってたかって二十年後から来たと言う女に詰め寄っている。うふふ、と楽しげに笑う姿は知っているやつのはずなのに知らないやつのようで目が離せない。ぎゅ、と眉間に皺を寄せて睨みつける。お前なんて知らない。そう言いたいのに言えないのは、本人だってわかってるからだ。二十年の月日が重なったその姿も、声も、中身も、今のお前と線で繋がっていて、疑いようがないから。なのに否定したくなるのは、その、左手薬指に光る指輪の存在。たったひとつ、その存在が太陽に照らされて光るたびに、お前なんて偽物だと叫びたくなる。そんなに相手が気になるの?と不思議そうに笑った瞬間、耳を塞ごうとしたのに塞げなかった。

「世界一の剣豪にプロポーズされたの」

 途端にまた静まり返って、そしてまた爆発するように騒ぎ出す。

「鷹の目?!」
「あら、あなたと接点なんてあったかしら」
「これからあるってこと?! お、お、おっかねェ!」

 うるさくまとわりつかれてもそれすらも、懐かしい騒がしさ、なんて微笑ましそうにもみくちゃにされながらもみくちゃに撫で返している女の姿に心臓が痛いくらいに締め付けられる。そうか、お前、結婚すんのか。鷹の目と。凍りついたように動けなかった体をどうにか動かして甲板の隅に座り込んで床を睨みつける。くそ。

「なんでゾロ怒ってんだ?」
「怒ってねェよ」
「じゃあ泣いてんのか?」
「あ゛? 泣いてねェ」

 未来のことに興味はないルフィが飽きたのか輪から外れておれのそばに座り込んで馬鹿げたことを言うから睨みつける。

「嬉しくねェのか?」

 未来の仲間が幸せそうなのに? 不思議そうに首を傾げるルフィに毅然と睨みつけた視線が弱まる。仲間が幸せなことを嬉しくねェことなんてあるわけないだろ。あるわけがない。ぐつぐつと煮えたぎる思考回路に腹が立つ。幸せを祝えないおれに、腹が立つ。あいつを幸せにする権利を他の男に奪われた未来のおれに、腹が立つ。

「あ〜でも未来のこと聞かされんのってつまんねェもんな、わかるわかる」

 うんうん、と腕を組んで一人勝手に納得しだしたルフィに眉を顰める。

「でもよォ、まだわかんねェ未来のこと聞かされたわけじゃなくて、当たり前のこと聞かされただけなんだからそんな怒んなくてもよくねェか?」
「……あいつが結婚すんのが当たり前のことなのかよ」
「世界一の剣豪とだろ? ああ! 幸せそうでよかったな!」

 煮えたぎった音が外に飛び出て、なのに間抜けなほどに明るい声で跳ね返されて怒りも萎む。お前の中では、そう見えてたのか。何もかもおれの一人相撲だ。泣いてねェ、と勇んで返したのに鼻がつんと痛くなった気がしてルフィから目を逸らす。

「……そうだな、鷹の目となら、幸せになるだろうよ」

 声が震えた気がする。男の嫉妬はみっともなくてこれ以上何も喋りたくないと口をつぐんだ。

「鷹の目? なんであいつらもお前も急に鷹の目の話するんだ?」

 のに、ルフィが素っ頓狂で間抜けな声を出すから思わずまた視線を戻して目を見開く。

「あいつ、未来からきたんだろ? なら、その頃には世界一の剣豪はゾロだろ」

 不思議そうに首を傾げて紡がれた言葉に固まって、目を逸らしていた女に視線を向けた。未だにもみくちゃにされながらも一瞬でおれと絡んだ目が見たことのないほど甘くとろけて微笑んでひらりと手を振られて、あれほど見たくないと思った指輪を食い入るように見つめた。