タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/07/08
※現パロ


 同窓会で見かけた女の薬指にぴかぴか光る指輪がつけられていて息を呑んだ。息を呑んだ瞬間、そいつのことを好きだと気付いて、気付いた時には好きな女は既婚者で手遅れだった。恋をしていたことに気付かなかった間抜けな男に呆れかえる。馬鹿だ。そして、わざわざ出来立てほやほやの傷を自分で抉りにいくのも大馬鹿だ。

「どんな男なんだ」
「え〜、まあ、やさしくて〜……」

 酒が入っているせいか、それとも照れているのか血色の良い頬で答えてくれる。学生時代にそんなに話したこともない男に唐突に結婚のことを根掘り葉掘り聞かれても席を立とうとはしないからどんどん自分で傷を抉る。どうせなら、殺してほしい。きちんとこの恋にとどめをさして帰らせてほしい。

「当たり障りのねェ答えだな」
「だってローくんに言うのは恥ずかしいっていうか、虚しくなるじゃん」
「なにが」
「本物の良い男の前でこういうこと言うの」

 んへへ、と照れたように笑われて目を見開く。殺して欲しいと願ったのに、焚き付けるようなことを言われて混乱する。こんなの、リップサービスだ。近所を出歩いて小さな頃から見知っている久しぶりにあったおばさんやおじさんが、良い男になったね、と誉めそやしてくれる、そんなのに似たお世辞なのはわかっているのに言った相手が変わるとこんなに心臓が跳ねてしまうものなのか。あんまり仲良くもなかった男に結婚相手のことを詮索されるのが恥ずかしくて、相手に気持ちのいいお世辞を言いながら濁す処世術だ。わかってるのに、浮ついてしまう。きちんととどめをさしてもらうのが目的なのに。

「……それでも世間一般的に良い男と呼ばれるやつなんかよりそういう男の方がよかったから結婚したんだろ」

 そうだ、とお世辞を撤回されるのを待つ。それでもとどめにはならないのはわかっている。恋心に気付いたのはさっきのくせに喋れば喋るほど気持ちが膨らんで何度刺しても死ねなさそうな気配に苦く笑った。

「んん、別に周りにうるさく言われなきゃよかっただけだから」
「は?」
「この歳になると周りが結婚しろ結婚しろってうるさいの、ローくんだって覚えがあるでしょう? そういうのがめんどくさかったからこれつけることにしたの」

 ひら、と指輪を見せつけるように左手を振って言われた言葉に呆然とする。なんだそれ。うふふと恥ずかしそうに頬を染めて惜しげもなくするりと外された指輪に茫然とする。指でころころと悪戯に触って、ローくんは?と急に渡されたバトンに口籠る。おれが、なんだ。

「ローくんは、どうやってそういうの受け流してるの? お医者様だともっとすごいでしょ? 私は逃げ方、これしか思いつかなくて。参考にさせてよ」

 戸惑うおれに言葉を付け足されても眉を顰めるくらいしか動けなかった。結婚しないのか、と釣書を持ってこられたことは何度かある。そんなの普通に断れば良いだけじゃないか。今は興味がないとか、好きなやつがいるとか。逆になんでお前はそんな極端で自分を安売りするような方法しか思いつかなかったんだ。参考にさせてよ、だなんて、薬指に輪っかを通した時点でもう参考の必要もないくせに。永遠の愛を誓った大事なはずのそれをつまらなそうにカウンターに置いて人差し指で弄ぶ姿にカッと頭に血が昇りそうになる。ただ煩わしいことから逃げるためだけに、どうでもいい男のものになったくせに。おれのことを良い男だと言ったのなら、そんなどうでもいい男に頼らずおれに打診をかけてくれればよかったのに。黙り込んだままのおれに、ローくん?と不思議そうに指輪からおれへ視線を戻す女に、箍が外れた。

「……そんなことのためだけにどうでもいい男と結婚したのか」
「え? あ、」

 指輪から目を離しているのを忘れて手遊びを続けたせいで、指先から指輪が離れてころころとカウンターを転がっていく。それを追いかけようとまた視線が外されて手が動いたのを手を重ねて止める。薬指にもうそれをはめられないように覆い隠す。

「誰でもよかったならおれでもいいだろ」
「……はぇ?」

 指輪を追いかけようとしていた目がおれの方にまた向いてほんの少しだけ満足する。からん、と指輪が床に転げ落ちた音がして、その音に気付かず目を丸くしておれを見つめている姿に胸が空く。

「誰でもいいならその場所、おれにくれよ」

 ぎゅ、と薬指を握りしめてみっともなく懇願した。