タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/07/09 ロビン
声は途切れて・ぬるくなるミルク・手の中にある専用回線


「ロビンちゃんと付き合いたいんだけど信じてくれないの」

 レディに温かなミルクを差し出した瞬間艶やかなため息と共に落とされた言葉に間抜けにもぽっかりと口が開いたまま閉じなくなる。付き合う、……付き合うってなんだっけ、付き合う? レディと、レディが? ぱちぱちと何度も瞬いて考える。即物的な21歳の男の脳内は一番わかりやすい裸と裸のお付き合いの光景が浮かんで、勢いよく鼻血を噴き出してしまった。本当にごめん。誰にどう謝ればいいのかわからないなりに謝罪を胸に刻みながら倒れ込みそうになる体を机に手をつくことでどうにか耐えてレディを見つめる。面白い珍獣を見かけた時と同じ愛らしい表情で見守ってくれていたレディと目が合って誤魔化すようにへらりと笑った。

「サンジくんが考えた通りのことをロビンちゃんとしたいの」
「ぐっ」

 どぷ、とまた鼻血が溢れてとうとう腰砕けになって床に崩れ落ちた。ちょっと意識も飛んだかもしれねェ。ゼェハァと荒くなる呼吸を無理矢理落ち着けてとりあえず這うように椅子を登ってレディの前に腰を落ち着ける。とりあえず、向かい合わなければ。光栄にもレディに相談相手として選んでもらえたのだから、きちんと真面目に話を聞きたい。どうしたって鼻血は止まらないけど、気持ちだけは本物だ。

「すげェ応援したいし、なんでも手伝いたいけど……でもおれ、相談相手に向いてるかなァ……」

 だからこそ不安になる。おれが相談相手でいいのかな。レディも知っての通り、おれがレディの心を射止められたことは一度もなくて、なんの参考にもならないというか。申し訳ない気持ちで反省したおかげで鼻血は止まったのだけはよかったけど。レディがきょとんと不思議そうにおれを見上げる姿が可愛い。だめだ、反省がすぐ彼方へ飛んでいく。真面目に。真面目に。

「相談というか、ラブコックなサンジくんにも聞いてほしくて」
「レディとロビンちゃんのためにおれ頑張る!!」

 なんの疑いも持たない柔らかな瞳でまっすぐな信頼を向けられたらそりゃもう男として頑張るしかねェ。おれの決意表明に何を頑張るの?とくすくす笑うレディにおれも釣られて頬が緩んだ。聞くのを頑張るし、できることならラブコックとして何かお手伝いができるように頑張るんだよ。

「ロビンちゃんのどこを好きになったんだい? そりゃもう魅力的なレディなことはおれも十分知ってるけど」
「ぜんぶ」

 簡潔に告げられた三つの音はどろどろに甘く煮詰められていて、おれに向けられた想いじゃないのはわかっているのにどくりと心臓が高鳴った。うっとりととろけた瞳でもう一度ロビンちゃんの全部が好きと改めて呟いたレディに意識が飛びそうになって、ふわりとテーブルの下に花が咲く気配がして意識を取り戻す。

「まだ私たちに慣れてない時の偽物の笑顔も綺麗だったけど、最近の本当に楽しくて笑ってる顔が可愛くて好き。頭が良いのに時々天然なところが可愛くて好き。可愛いものが大好きなロビンちゃんが可愛くて大好き」

 止めどなく流れ出てくる好意の洪水におれですら受け止めきれなくて思わず溺れそうになったのと同時に、ロビンちゃんの耳がテーブルの下から消えてしまう。ひらりと花が散る気配に一瞬視線をテーブルの下にやって、また目の前のレディを見つめれば拗ねたように唇を尖らせながらテーブルを見つめていて瞬く。

「……逃げられちゃった」
「気付いてたの」

 唖然としながら心の声が溢れてしまってレディの視線がおれに向く。好きな人が近くにいればわかるよ、と笑って、だけどまたすぐに機嫌を損ねたように大きなため息をつく。

「私がロビンちゃんのこと大好きだって、サンジくんは信じてくれた?」
「もちろん!」
「ふふ、知ってる」

 知ってる、だなんて言いながら、ありがとうと笑う姿はとても嬉しそうで胸がきゅうっと締め付けられる。おれに向けられた愛じゃないのにこんなにも胸が締め付けられるのだから、それをまっすぐにぶつけられて逃げたくなる気持ちもほんの少しだけわかってしまう。

「ロビンちゃんは信じてくれないの」

 悲しそうに笑うレディに、受け止めてもらえない愛のつらさの気持ちも痛いほどわかって胸が苦しくなる。女神と女神の悲しい愛の応酬に、おれができることはなんだろうと考えたって何も思いつかない。レディが助けを求めているのに何もできない不甲斐ない自分に腹が立つ。

「だから先に世界中の人に信じてもらおうと思って」

 へ、と怒りが霧散してレディを見上げる。

「ロビンちゃんが信じてくれないなら、他の人みんなに信じてもらうの。世界中の人が信じてくれたなら、そうすれば、私の愛が本当に本当だってこと、ロビンちゃんにだって少しは伝わるかもしれないでしょう?」

 だから頑張るの、ロビンちゃんが大好きだから。
 そう言って笑うレディに、おれはなんて返事をすればよかったんだろう。だけど、世界中の人が女神二人を信じ、祝福するならそれは幸せなことなんだろうな、なんて、規模の大きすぎるレディの計画に思わずおれの頬も緩んだ。