タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/02/25 言葉にも声にも出来ない・幸福は意外なところにある・片側だけが上がったくちびる
これの続き
※夢主がモブ男とあはんなことをしようとする描写が一文ある
※飽きたのでめっちゃ中途半端に終わる


「離して」
「いやだ」
「ああ……私の獲物……」

 ひい、と端正な顔を恐怖に歪めて逃げていった男の背中に掴まれていない方の手を差し伸ばしても引き止めることなんてできなかった。

「懲りねェ女だな」
「こっちの台詞なんだけど……」

 ゾロの大きな手で一周ぐるりと掴まれた手首はいくらぶんぶん振り回しても離れない。どれだけ頑張ったって世界一の剣士の腕力に女の私が敵うわけがないのには同じようなやりとりを三回ほど繰り返してからようやく学んだから無駄な抵抗はしない。抵抗しない方が早く離してくれるし。まあ離してくれたからって一度ゾロの視界に入ってしまったら逃げられないんだけど。だからそもそも迷子剣士に見つからなければいいのだと新しい島に着けば朝一で船を飛び出しているのにこの有様。普段の迷子っぷりはどこへやら、なぜか毎回見つけ出されて捕まる。好みの男を拾って宿に入れたことがあってとうとうかくれんぼに勝ったと思ったことがあった。だって室内にいればもう見つかることなんてないと思ったから。なのに、その男とベッドに縺れ合いながら寝転んでお互いに服の隙間に手を差し入れた瞬間、宿が真っ二つになった。比喩とかじゃなく。言葉通り。服を脱いでいなくて助かった。他の客も誰一人通行人に素っ裸を見られることはなかったのだけが不幸中の幸いだと思う。そんなこんなでいつからか私は誰とも遊べないせいでげんなりとした顔を一切隠さず迷子の相手をしてる。

「世界一になって暇なのはわかるけど私にも予定ってものがあるからさあ……」
「世界一が暇だとでも思ってんのか」

 お前とことん馬鹿なだけなんだなァ、と言葉でも表情でもぶつけられて頭に血がのぼる。ゾロにだけは馬鹿にされたくない。確かに暇は事実じゃないかもしれない。世界一にはなったもののゾロ自体の実力がまだ世界に轟いていないせいでまぐれで世界一になったんじゃないかと有象無象の挑戦者が朝から昼から晩からひっきりなしに襲いかかってくる。そうやって大好きな実力勝負にどっしりと身を沈めていればいいのに迷子だけはどう頑張っても治らないのか運悪く私の邪魔ばかりする世界一の迷子剣士に腹が立つ。

「おれはちゃんと忠告した」
「なにを」
「遊ぶなら今のうちだぞ、って。忠告しといてやったのにお前はなんでちゃんと遊び納めてねェんだ、馬鹿なのか」
「また馬鹿って言ッ、……ん?」

 頭に血がのぼって直接的な罵倒だけがすんなりと耳に入ったせいでゾロの言葉を全て脳で受け取るのに時間がかかってしまった。脳に届いたはいいものの意味が理解できずに苛ついていたことも忘れて首を傾げる。そういえばいつだったか刺されるぞだのなんだの苦言を呈されたような気がする。それから、今のうちしか遊べない、だなんてことを言われて憤慨した。思い出しただけでムカつく。ふん。今のうちってなに。私は毎日今日が一番素敵だ。目尻や口元に皺を増やして髪が白くなって肌の艶が衰えたとしても、それは私が経験を積んで歳を重ねてこの荒波を生きた証で、若い時にあった魅力とはまた違う魅力を纏うだけ。その魅力がわからない男なんてこっちから願い下げだし、いつまでだって私は輝いていて好きなように楽しく暮らせる。一生涯遊び続ける。自由で楽しいのが、私たち海賊だ。どうしてそれを同じ海賊のゾロに否定されなくちゃいけないのか。

「おれはちゃんと忠告した」
「そもそも忠告なんて必要ないし邪魔しないで」
「……あ? おれ言ってねェか?」
「何を」

 私の腕を掴んだまま何度も同じことを繰り返すゾロが何故か急に固まって思わず先を促してしまう。やっと失礼な忠告以外の言葉が聞けるんだろうか。

「世界一になったからお前を逃がすつもりはねェ、って言ってなかったか?」

 苛立ちに吊り上がっていた目と口が間抜けにまんまるく開いたのを自分でも自覚して固まる。

「……私のこと好きなの?」
「好きでもねェ女捕まえる意味あんのか?」
「あー……」

 遊び回って男を引っ掛けてる私と違って、ゾロが一人の女を捕まえようとする行動の重さの意味くらいは流石にわかる。わかるからこそ、困ってしまう。誠実な人は誠実な人しか好きにならないと思ったのに、どうしてよりにもよって男遊びの激しい私を好きになってしまったのか。ゾロみたいな誠実な男も私に引っかかるのがわかったからこれからはほんの少しだけ気を付けて刺されないように気を引き締めよう、だなんて告白を受けておいてそんなことを思う私をどうして好きになってしまったんだろう。

「知ってると思うけど重たい人無理なんだよね、まだまだ遊びたいし……」
「お前が男遊びをやめられねェのと同じでおれも逃がしてやれねェ。好きってそういうもんだろ?」
「……いや、知らないけど……」

 私のは遊びだし、そんな本気の感情の落とし所を私と同列に扱っていいのかがわからない。

「とりあえずわかるのは永遠に噛み合わないってことだけだから、諦めてくれない? ゾロにお似合いの人は他にいると思うし」

 そこかしこの旅で出会ったゾロに想いを寄せる女の子たちを思い出して笑った瞬間、びり、と肌が焼かれたような感覚に肝が冷える。恐る恐るゾロを見上げれば一つしかない目が強く私を貫いていて目が泳ぐ。うん。今のは私が悪かった。いくら私が遊び人だからって世間の好きの一般常識くらいは知ってる。告白してきた相手に他の人を勧めるのは駄目だ。でも、わかってるけど、どうしようもない事実でしかない。仲間としてゾロには幸せになってほしい。告白してきた相手に他の人を勧めるのがデリカシーがないのは分かっていても、このまま男遊びが好きな女のことを好きでい続けたところで幸せにはなれない。

「お前、おれが諦めそうな男に見えるのか?」
「んんん……見えないねぇ……でも私も遊びたいもん、ゾロ重たいから嫌。既に重たすぎる。勝手に決めてるとことかも嫌」
「あんまイヤイヤ言うな、さすがに傷付く」

 じゃあ諦めて、と口にする前に諦めねェと口を挟まれてため息をつく。

「百歩譲って遊ぶのはいい」
「あっほんと? じゃあ勝手に好きでいたら? よかったよかった、じゃさっそく遊びに行かせて」
「相手はおれだけにしろ」
「意味ない!!」