タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/03/21 誘う術を教えて・夢でもいい、触れられるのなら・涙、一粒
ゾロ
※ちょっとあはんな雰囲気


「いつもそうやって誘ってんのか」

 吐き捨てるような言葉に驚いて目を見開くのが白々しい。おれの太ももに触れる細い指を弾いて、自分で退けたくせにそこから体温がなくなったことに寂しさを覚えたことに苛立つ。宙ぶらりんに揺れた指がカウンターに落ち着いて、こつ、と爪を鳴らすのを無視して酒を煽った。

「誘われたと思ったの?」

 表情だけじゃなく、言葉でもしらを切る女にとうとう堪忍袋の尾が切れる音がして、グラスを割れる勢いで叩きつけて睨みつける。

「男の太もも撫でといて誘ってませんでしたは通らねェだろ」

 そこらの海賊なら竦み上がって逃げるくらいの気迫で言ったのに、そうなの?と尚も首を傾げるから振り回されるばかりの自分に腹が立ってくる。

「でもルフィやチョッパーだって、」
「大半の男はそう受け取るだろ、っつー話だよ。例外中も例外の奴らを持ち出すな」

 しらばかり切る女がとうとう空気も読まずに何がおかしいのか笑い出す。一番空気を読まなきゃいけないお前がそんな様子でどうする。店中の人間がおれの怒気に当てられてそそくさと逃げ帰り、カウンターの中にいるマスターすら出来得る限りおれから離れた隅っこで既にぴかぴかのグラスを一心不乱に磨き続けているのに、お前だけがおれを恐れない。

「別に、ゾロならいいでしょ?」

 つ、と指先がまた太ももに触れて、肩に小さな頭が乗っかる。反射的に硬直した体で、脳だけが無駄に働いた。別に、ゾロならいいでしょ? それはどういう意味だ。おれも、ルフィやチョッパーのように例外の男だと思ってんのか。それとも、……。誘われたと思ったの?と首を傾げた姿を思い出してそんな考えは一瞬で切り捨てた。白々しかったわけじゃない。この女には本当にそんなつもりはなかった。

「やめろ」

 つん、と爪がおれのズボンの皺を伸ばして遊んでいることに気付いてまたその細い指を弾く。なのに今度は肩に頭が乗せられているから体温はいつまで経っても引かなくてアルコールですら煮えない頭がぐつぐつと沸いてしまう。指と違って簡単に弾けないのは、ちょっと小突いただけで椅子から転げ落ちて怪我をさせてしまいそうだったからだ。名残惜しいだとか、そんなんじゃない。

「触っちゃだめなの?」
「男相手に勘違いされるような行動はやめろ。痛い目見るぞ」
「かんちがい?」

 性懲りも無くまた太ももに手が触れて、ぎり、と奥歯を噛み締めた。

「ゾロはそういう感情、ないと思ってた」

 ああそうだろうな。お前の中では例外中も例外の奴らとおれはおんなじ枠組みで、だからベタベタ触ってきて、おれに怒られて、驚いたんだ。しらを切ったわけじゃない。でも今それに気付いたなら、理解したなら、いい加減とっとと学習してベタベタ触るのをやめろ。そう言いたいのに、奥歯を噛み締めていないと、体の右半分に引っ付く女を傷付けてしまいそうでどうにもできなかった。

「ゾロはてっきり、剣の道にしか興味がないと思ってたから、だから別に、くっつきたいからくっついてただけで、誘ってたつもり、なかった、」

 何度も重ねて言わなくたってわかったから、とっとと離れろ。

「けど、……ゾロならいい」

 聞き覚えのある言葉に苛立つ。学習しない女に腹が立って舌打ちをしたいのにできない。だから、おれは例外の男じゃねェからよくねェんだよ。そう言いたいのに、言ったと同時に手を出してしまいそうで、だから早く自ら気付いてこの場を立ち去ってほしかった。

「誘ったつもりはなかったけど、」

 何度も何度も繰り返しおれを斬りつける。

「好きな人が誘われてくれるなら、すごく、うれしい」

 耳に入ってきたとろけて甘い声に、ぎり、と噛み締めていた口も、硬直していた体も、だらんと力が抜けた。自分の体なのに自分の体じゃないようなぎこちない動きで肩口に乗る女の顔を覗き込んで、その顔を見て、どんなに強い酒を飲んだ時にも火照らなかった体が一瞬で燃え上がったのを自覚した。