タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/04/02 スモーカー
か細い声が耳に残る・薄氷をゆっくりと踏む・蔑まれてもいい、好きだと言わせて
⚠️悲しい雰囲気


 あいつは、おれの前でだけ無口になる。愛想が悪いわけじゃない。ただ無駄話を一切しない。仕事中に無駄話をしないことは別にいいことだ。だが、本当に、一切、まったく、これっぽっちもプライベートの話をしない。おれも口が上手い方じゃないからほんの少し空いた時間はしんと静まり返っていてその静寂は怖いほどだ。それがあいつの普段の姿なら気にしない。そういう女なんだなと、頷いて、その静かで穏やかな時間を楽しんでいた。でも、たしぎや他の同僚の女と楽しそうに笑っていたのを見たことがある。厳ついおれが怖いのかと思えば、おれと同等の面と口の悪さのG−5の面々とだってふざけあい楽しそうに声を上げて笑っていた。おれにだけ、無口だ。考えられる選択肢はいくつかある。一応立場が上であるおれに気を遣っているだとか、相手から喋りかければきちんと返事を返すのにおれが喋りかけないからだとか、……おれを、嫌っているからだとか。
 今日もきっと、おれだけがあいつの笑い声を近くで聞けない。


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「……口煩い女は苦手だ」

 喧騒の中、遠くの席に座っているのにまるですぐ隣にいるかのように聞こえた言葉に自分が言われたわけでもないのに思わず口を噤んだ。そうなんだ。スモーカーさんは、口煩い女の人が苦手。きゅ、といきなり口を噤んだ私に同僚が不思議そうに首を傾げながらもお酒を注いでくれた。ちょっと酔っ払っちゃったみたい、と笑えば、もう?と更に首を傾げられつつも外の空気でも吸って酔いを覚ましておいでと言われたからお言葉に甘えてその空間から逃げ出した。
 けらけらと馬鹿話に大声で笑った。大捕物をしたお祝いで、無礼講だからと上司部下関係なく騒いで、食べて、飲んで、良い気分だった。好きな人もその場にいて、一緒の席に座る勇気は出ないけど、それでも同じ空間でお酒を飲めることが嬉しくて、だから、楽しくて、浮かれて、……うるさくしちゃった。馬鹿騒ぎの煩さと、そういう口煩いは意味が違うってわかってる。わかってるけど、結局一緒。もし勇気を出して話せたとしても、浮かれて一方的に話し続ける光景しか思い浮かばない。そういうのもきっと、煩わしいはず。好きです、なんて告白は更に面倒だと思う。告白する前に終わったな、なんて薄ら笑いを浮かべて道端にしゃがみ込んだ。周りにはただの酔っ払いだと思われてると思うから存分に膝に顔を埋めて頬を濡らす液体を観衆から隠す。
 あの人は、どんな人が好きなんだろう。口煩い女が好きじゃないのはわかった。どんな人を好きになるのかが気になる。じっと大人しくあなたの帰りを待って静かに微笑んで迎えてくれる女の人? それともあなたの背中を預けられるくらい実力があって言葉で語らずとも共闘し合える強い女の人? それとも、それとも、それとも。たくさんの女の人を思い浮かべて、たくさんのお似合いな姿を想像できた。だけど私は、私自身があの人の隣に立つ姿を思い浮かべることができなかった。少しの怪我でも心配で胸が震えて駆け寄りたくなる。駆け寄って心配できる間柄でもないのに。あの人の背中を預かる強さもない。あの広い背中に守られて、真正面を見る時間より背中を見る時間のほうが長いくらいの私が、共闘できる訳もない。頑張って、頑張って、頑張って、ようやくほんの少し強くなれたと思ったらあの人はその十倍努力してもっと強くなっている。私はいつまで経っても追いつけずに離される。
 あは、と笑う声が惨めに膝の中に消えていく。好かれなくても、隣に立てなくても、せめて嫌われないように。ただあの人の正義に黙ってついていくことだけが私にできる唯一の仕事。よし、と気合を入れて涙を拭いながら立ち上がる。大丈夫。特別にはなれなくたって一緒に誇りある立派な仕事のお手伝いができる。それだけできっと、幸せだから。