タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/03/17


「サンジくんはお月様だけど匂いはお日様なんだよ」

 ほへぇ、と変な声が出てしまった。相槌を打ちたくともあまりにも突拍子もなく現実味のない言葉だったから。いや、レディがカラスは白だって言うならおれもそうだねと頷くし、この広い世界には本当に白いカラスもいるだろうから捕まえて見せてレディの言葉を可愛らしい冗談なんかじゃなくただの事実にする気概はある。そんなおれでもさすがにちょっと言葉に詰まってしまった。
 お月様云々はちょっととっかかりすら掴めないから横に置いておいて、お日様の匂いは言葉としてはわかりやすかったから思わず腕を持ち上げてスーツ越しにすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いでみた。タバコの匂いしかしねェ。かろうじてさっき仕込んだスープの匂い、がするような? それでもお日様の匂いとやらはどう頑張ってもしなかった。チョッパーが顔を顰めるヘビースモーカーの自覚のあるおれがそんな健全な匂いを纏っているわけがなくてやっぱり首を傾げる。ちょっくら空を飛んで少しでも太陽に近付いて光合成でもしてくるべきだろうか。そうすればレディの言う通りお日様の匂いがするかもしれない。
 そもそもお日様の匂いってなんだ……? レディがにこにこしながら言ってくれたわけだからくさい匂いなわけではないと思う。じゃあなんだ、良い匂いか? タバコの匂いをかき消してくれるくらいには良い匂いなのか?

「サンジくん?」
「オアッ、ごめん無視したわけじゃねェです! お日様の匂いがちょっと、わかんなくて」

 間抜けな声を漏らしたきり呆けていたおれを見上げるレディに慌てて返事をする。長いまつ毛を揺らしてぱちぱちと何度も瞬きを繰り返して、また笑顔を浮かべてくれたレディにほっとした。

「自分の匂いはわからないって言うもんね、私も自分の匂いはよくわからないもの」

 そういう意味じゃなかったけど、レディが納得してくれたからとりあえずおれも頷く。

「干したてのシーツに包まれて眠るといつもサンジくんを思い出すの」
「そっ、れは、光栄過ぎて言葉が出ない……ッ!」
「サンジくんの血は貴重なんだから鼻血は出さないで」
「はい」

 レディがおれに包まれて眠るあられもない姿が一瞬で脳裏に浮かんで崩れ落ちそうなおれにひんやりとした言葉が投げられて鼻血を出す寸前で我慢する。ちょっと口の中が血の味がしないでもないけど、鼻から流してないしバレてないからセーフ。

「お日様の匂いがするサンジくんのことが好きなんだ、私」

 うふふ、と楽しげに笑うレディに、耐えていた血が鼻からも口からも零れ落ちた。いや、だってそんな、好きだなんて言われて我慢できる男は男じゃねェだろ。