タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2022/03/18
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「父様が、」
「とうさま」
しまったと思った時にはもう遅かった。裕福な医者の息子が父親のことを父様と呼んでもなんらおかしくない。だが海賊が、目的のために百の心臓を抜き取り海軍へ送りつける極悪非道の男が、自分の父親を父様と呼ぶのはたぶんきっと、いや確実におかしい。体をほんのり火照らせていたアルコールは一瞬で消え去り、冷や汗すら浮かぶ。
父様を父様と呼ぶことを恥だと思ってるわけじゃない。そんなわけはない。目の前の目撃者ならぬ耳撃者がそこらの海賊相手ならなんとも思わなかった。笑われれば体をバラバラにするくらいはするかもしれないが、おれが父親をどう呼んでいるか知られようが体の中からアルコールは消し飛ばないし冷や汗だってかかない。
でも目の前でおれの放った言葉を鸚鵡返しした女はほんの少し気になる女だったから。麦わら屋の船の中では貴重な常識がある女。まあ麦わら屋の仲間の中では常識的というだけで、麦わら屋の仲間らしく唐突におかしなことをしでかすこともあるが、だからこそ面白く目が離せずにいた。父様や母様、ラミ、コラさん、クルーたち、同盟相手やその他諸々の奴ら相手ともまた違う胸のざわめきに、もしやこれがいわゆる……、とにかく、もう少しすれば一つの答えがはっきり浮かびそうな気がする相手だったのに。
男は女の前じゃカッコつけちまう生き物なんすよ。
そう言っていたのはクルーの誰だったか。聞いた時は虚構で飾った自分じゃない何かで口説き落としたって虚しいだけだろと鼻で笑って、キャプテンはそのままでカッコいいからそんなこと言えるんだ、なんて散々なブーイングを浴びたのを思い出す。なるほどこれか。こういう気持ちになるからか。
別にかっこつけたいわけじゃない。虚構で飾った自分を見せたいわけでもない。だが、それを聞かせるタイミングは今じゃなかった、はずだ。隠したいわけじゃない。ただ早かった。そう、早かった。それだけだ。もう少しゆっくり、ただの同盟仲間の距離ではない何かになるためにまずはおれのことを知ってもらい、相手のことを知り、そしておれの家族のことを話す、そんなふうに段階を踏みたかっただけだ。
どうすれば巻き返せる。中途半端に言葉を紡いだまま固まったままの口から出す次の言葉を考えて、代わりに目の前の女が息を吸った音がして目を向ける。
「母様って呼ばれるのはちょっとだけ照れちゃうかも」
ぽかん、と顎が落ちた気がした。ふふふ、とくすぐったそうに笑った女は今言った言葉の意味をわかってるんだろうか。酔ってやらかしたのはおれだけじゃなかった。目の前の女も酔っていてやらかした。やらかした、はずだ。幻聴じゃない。鳴りを潜めていた体内のアルコールが一瞬で暴れ出して身体中を駆け巡る。ローは父様似合うね、だなんてアルコールのせいか頬を染めて笑っていて、どこどことうるさい心臓を服の上から握りしめた。
なあおい、お前、おれと結婚する気があるのか。だからそんなことを言ったのか。酔っている女の発言を、酔っているせいで都合良く受け取ってしまっているだけか。
「かあさまか……慣れるかなあ……」
追撃されるように放たれた言葉にぐっ、と呻く。そんなおれを全く気にせずにふんふん鼻歌を鳴らしながら、父様母様と謳っている。なあお前、わかっているのか。おれはわかったぞ。ぶわりとざわめく胸の高鳴りが苦しい理由が、いわゆる、だなんてぼんやりとした感情なんかじゃないとはっきりとわかった。酒のせいにされては困る。酒で忘れられても困る。アルコールなのか浮かれているのかわからないふわふわした頭で、とにかく証拠を残さなければいけない、それだけはきちんと考えられてつまみにささっていたピックを手に取った。
「おい」
「なあに?」
声をかけたものの左手を勝手に持ち上げて、ぐにゃと折り曲げたピックで薬指を一周させた。手を離せば不思議そうにそれを自分の顔に近付けて眺める姿に満足する。
「なにこれ?」
「母様の予約」
「そっかあ」
わかっているのかわかっていないのか、ぽやんとしたまま頷いて笑う姿におれの頬も緩んだ。
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