タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/04/27 ゾロ
力の限り叫んだ思い・天国より地獄より君に辿り着きたい・勇気を出す切欠
⚠️別れてから再会する話


「あれ、ゾロだ。ひさしぶり」

 元気してた?と晴れやかに笑う姿はあまりにもいつも通りで、まるでおれとお前の間には何もなかったと言わんばかりのいつも通りの笑顔で胸が軋む。

「いつぶりだっけ」
「……五年くらいじゃねェの」
「うっそ、そんなに経つ?!」

 そりゃお互い歳も取るね、と朗らかに笑う姿は五年前に付き合っていた時と変わらず可愛くて、ぐ、と拳を握り込んで目を逸らした。五年くらい、なんてさも忘れてたかのように呟いた。でも一日だって忘れたことはない。五年くらい、だなんてあやふやな日数じゃない。あと一ヶ月と二日でお前と別れてきっかり五年経つ。毎日あの時ああしてれば別れずに済んだんじゃないかと後悔して、意味のない空想をする自分に毎日腹を立てて、抜け殻のように過ごしていた。馬鹿みたいなプライドから縋り付くなんてみっともないことできなくて追いかけもせずに半年を過ごした。あの時すぐに追いかければ寄りを戻せたんじゃないかなんてみっともなく毎日考えていた未練たらしいおれなんかとは違って、過去を振り返ることなんて一切なく幸せそうに前だけ見て笑う姿がまたおれの心をぐいぐいと引っ張っていく。おれだけがあの頃のままだ。お前のことをずっと好きなのも、それを告げることすらできないみっともないところも、情けない男のまま、あの時と変わらない。なのに逸らした視線で指を確認してそこに光る輪っかがないことに安堵する自分に呆れる。今、予約がないからっておれがそこを貰えるわけでもないのに。

「会わない間、何か変わったことあった?」
「……いや、特に、……」

 お前がいなきゃ何もかもが色褪せて見える。そんなこと五年前の男から言われたって困らせるだけなのはわかってる。面白みのない返答にもつまらなそうな顔をせず、にこにことそっかと笑ってくれるお前に、お前は、とも聞けやしない。その笑顔のまま、おれがいなくても色付いた毎日を楽しく過ごした様を聞かされるのが嫌だった。なのに、おれはなにも聞いてないのに、私はね、と潤んだ唇が近況を話し出そうとしたから思わず、なあ、と口を挟んでしまう。不思議そうに何度も瞬いて見上げてくる目と視線がぶつかって何も考えられなくなった。

「積もる話もあるだろ、先になんか飲みもん、買ってやる、」
「え?」

 その、積もる話、を聞きたくなかったから口を挟んだのに、奇跡のような偶然に出会えた今、ハイサヨナラをしたくない欲の方が勝ってしまって知らない間に馬鹿みたいな言葉を紡いでいた。一瞬気を逸らせても飲み物を買えば、私はね、の続きを嫌でも聞かなくちゃいけなくなる。でもまたお前と会えずにただお前を思い出して過ごす空虚な毎日に戻るのは嫌だった。数メートル先に自販機がある。ほんの数分の時間稼ぎしかできなくて、その後に何を聞かされるかの覚悟を決めなくちゃいけない。返事を待たず、勝手に一歩を踏み出した。驚いたように、待って、と後ろから追いかけてきてもらえたことに安堵する。別にそこまでして話すことはないよ、急いでるから、なんて言われてもおかしくなかったのに、ついてきてもらえたことが嬉しかった。横に並んで歩く右斜め下に見える小さな頭が懐かしい。不意に頭を上げられてかちあった視線に息を呑む。

「相変わらず勝手だね」

 笑って言われた言葉に何も返せなかった。こういう、勝手なところがお前は嫌だったんだろうか。だから、おれのそばに居るのが嫌になったのか。それでも、悪かったな、なんて謝ってしまえばここで解散するしかなくなる。だから謝ることもせず無言で自販機に向かうことしかできない。尻ポケットから財布を出して自販機の前で足を止める。どれがいい、と聞こうとして、それ、と小さな声が固く紡いだ言葉に口を結ぶ。またなにか気に触ることをしてしまったんだろうか。

「……その財布」
「あ?」

 なのに続いた言葉に間抜けな声が溢れる。財布がどうした、と改めて自分の財布を見下ろして、何度目かの硬直。

「……まだ使ってたんだ」
「いや、これは、」

 硬く引き攣った声が喉の奥に沈む。ぎゅ、と無意識に握りしめてしまって財布がひしゃげたのを感じて慌てて力を緩めた。大事に使ってきた。物に頓着しない質のおれが、財布だけは失くさず壊しもせず汚しもせず、五年間、まるで一ヶ月前にプレゼントされたかのように綺麗なまま使っていた。お前からプレゼントしてもらった物だから。お前がそばにいない代わりに、お前の存在を感じるものを常にそばに置いていた。財布だけじゃない。財布を開けば中にはゴミ箱から掬い上げたお前と最後に食事をした店の皺だらけのレシートが札と一緒に入ってる。あまりにも当たり前に日常に組み込まれていたせいで、隠すことすら忘れていた。

「新しいのに変えた方がいいよ」

 未練たらしい男だと気味悪がられたんだろうか。気不味そうに切り捨てられた言葉に心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられるように傷んだ。これすら取り上げられたらもうどうすればいいのかなんてわからない。

「……ゾロ?」

 黙り込んだおれの名前を呼ぶ音に今にも壊れそうな心臓が役目を取り戻してまたばくばく動いて、おれの何もかもがお前に左右されている。

「お前が、……」
「……?」

 自棄を起こした口が勝手に動き出して、最後の理性が一瞬口を閉ざして固まる。もういっそ殺してくれ。そうすれば楽になれるかもしれない。そう思って今度は自分の意思で口を動かした。

「お前が財布、また、くれるなら、新しいのに変える。そうじゃねェなら、おれの財布はずっと、……死ぬまで、これのままだ」