タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/05/08 ゾロ
言葉にも声にも出来ない・天使の逆襲・答えは見つからなくても
現パロ


「もうお互い時効だろうから言っちゃうけど、高校生の時ゾロのこと好きでごめんね」
「……は?」

 ごきゅん、と変なタイミングで酒が喉を滑り落ちて固まる。同窓会の人混みで昔からずっと好きで忘れられなかった女を見つけた。あんなに仲が良かったくせに高校を卒業した途端疎遠になってしまった女に、どうにかこの機会にせめて連絡先でも聞いて繋がりを絶たせないよう隣の席を陣取って緊張していた耳に、どうにもおかしな言葉が聞こえた気がする。隣を見れば酒に潤んだ目と赤く染まった頬に期待が滲んで、それから眉を顰めた。待てよ、今謝ったよなこいつ。告白は告白だけど、おれの望む愛の告白なんかではなく、懺悔の意味が伴った告白の意味合いで呟かれたんだと気付いてさっきとは違う意味でばくばくと心臓が変な音を立て始めた。

「いや待て、お互いってなんだ」

 もしかしておれがお前のことを好きだったのを知っていてお互いだと言っているならそれは現在進行形でまだ好きなままだから間違っているし、そもそもどうして好意を向けてくれていたことを謝られているのかがわからない。時効だ、と言われたからには今現在はその想いは消えてしまっているのかもしれないが、それでも一度好きになってくれたんだからきっとチャンスはまだ残っているはずで、意味のわからない爆弾発言をかまされたせいで揺れる思考回路はまともに働かない。濡れた唇が口を開いたから、ちゃんと受け止めようとどうにかこうにか脳を働かせることに集中した。

「高校の時、私がゾロのこと好きなの知ってたから冷たかったんでしょ? 私も若かったし浮かれててぐいぐいいっちゃってたから恋の仕方を知らなくて距離感間違えすぎてて……そりゃ鬱陶しいよねえ……ほんと、あの時はごめんね」
「つめ、うっ、は、?」

 のに、思考回路を滅多刺しにされる勢いで紡がれた言葉に声を失う。冷たかった? 鬱陶しい? おれが? お前を? 突然の懺悔に、過去形にされたことはショックであれあの頃は両思いだったのかと浮かれたおれとは正反対の見識を申し訳なさそうに語る姿に呆然とする。酔ってもないくせに吐きそうになるのを堪えてひとつひとつ解決しようとどうにか口を開く。

「つめたかった、って、どこが、」
「う〜ん、全体的に? あんまり視線も合わないし、」

 昨日のことのように思い出せる青春時代を振り返って愕然とする。
 今だってその潤んだ目と長時間目を合わせるのはきついのに、好きな女と目を合わせるなんて思春期に厳しいこと言うな。

「ゾロがもともと口数が多い方じゃないってことはわかってるけど、私の時は特に口数減ってたし、」

 そりゃお前、好きな女に変なこと言って嫌われたくねェし、黙って聞いてりゃお前はにこにこ機嫌良さそうだったからわざわざおれから話振って賭けに出るほど勇気なかっただけだ。そもそもおれの青春は仲間と剣道とお前で彩られていたからお前に喜んでもらえる話題なんてなかった。

「ルフィやナミちゃんたちと同じ距離なのに、私だけ近いって怒られたり、」

 いやそれ冷たいっていうかお前のこと好きだから近過ぎて緊張してただけで、怒ったつもり、なかったし。

「女の子に寄ってこられるのが嫌だったって知ってたのに、恋と言えば押すことしか知らなくて遠慮も何もなくぐいぐい近付いて、一番嫌な女だったでしょう? あの時は本当にごめんね」

 女に寄ってこられるのが嫌だった、? まずそう思われた理由がわからない。そもそもおれの周りにはあいつらとお前くらいしかいなくて、お前が話しかけてくれたらどんなしごきの疲れも吹っ飛んだし、浮かれてたのに、そんなお前のことを嫌がっていると思われていたことの意味がわからない。

「きら、ってねェ」

 からからに乾いた口で、どうにかそれだけを吐き出す。え?と不思議そうに首を傾げるから、もう一度、今度はしっかりとはっきり同じ言葉を紡ぐ。

「嫌ってたことなんて一度もねェ」
「そうなの?」

 濡れてきらきら光るそれが零れ落ちそうなほど見開いてひさしぶりのその無防備な可愛さに思わず目を逸らした瞬間、悲しげな吐息が聞こえて視線を戻す。今度はお前が目を逸らして俯いていて、先に逸らしたくせにその目と視線が交わらなかったことに自分を棚上げしてがっかりした。

「……ほら、今だって、目、そらした。そんな気を遣わなくったって大丈夫だよ。今日はそれ、謝りたかっただけだから。今はもう昔とは違うし、ゾロに迷惑かけることもないから安心して。ほんとにごめんね、」

 立ち上がって隣から逃げようとしたから反射的に手を伸ばす。細い手首は余裕で指が回って、下手すれば折ってしまいそうで力を緩めたいのにそれ以上に逃げられたくない気持ちの方が強くてどうしようもない。ぞろ、と足止めされたことを困ったように眉を垂れ下げる姿に何をどう言えばいいのかがわからない。そもそも前提を勘違いされている。嫌ってなんかない。寧ろ好きだ。今だって思春期を拗らせたまま、何も変わらない。今はもう昔とは違うし、とチャンスも何もなくきっぱり斬られても、でもこのまま勘違いされたまま疎遠になるのは嫌だった。ただ連絡先を聞いて繋がりを取り戻せればいいと浮かれて来ただけの同窓会が、あの頃からずっと嫌われてると勘違いされていたと思い知る場所になるだなんて思いもしなかった。

「困らせてごめん、」
「違う」

 思春期を拗らせていることを告白するのはみっともないが、それでも勘違いされたままよりはよっぽどマシで、気合を入れるためにたっぷり息を吸う。ばちん、と絡んだ視線はもう外さない。

「お前のこと嫌ってなんかねェ」
「……でも、」
「謝るのはおれのほうだ。思春期だったんだよ」
「ししゅんき」

 不思議そうに繰り返されて、困った表情がほんの少し薄れた。

「……、」

 勇気を奮い立たせても緊張に口が上手く働かなくて固まったおれに、手を掴まれていることを思い出したのか身じろいで逃げようとしたから慌てて口を開く。

「好きな、女と……目、合わせるのは、思春期には難しかった」

 ぽかん、と口を開いて固まって逃げるのを忘れてくれたからほんの少しだけ拘束の力を緩める。このまま握り込んでいたら本当に折ってしまいそうで怖かった。ひゅ、と息を呑んだ音が聞こえておれの言葉が脳にしっかり届いたことを悟る。その頃にはおれも落ち着けていた。もう言ってしまったものは変わらないし、じたばたしたってしょうがない。

「……す、き?」
「……ああ」
「ゾロが?」
「……おれが」
「私を?」
「お前を」

 混乱に喘ぐように次々と疑問を投げかけてくるのにきちんとその度に返す。これ以上誤解をされたくなかった。

「……高校生の時は、両思いだったの、?」
「そ、うだな」

 好きな女から言われた事実にそれはそれで動揺する。両想いの事実に喜んで、告白できなかった自分に腹が立って、でもおれと違ってこいつの中ではその感情を過去形にされていることに傷付く。酔いでも回らない頭がぐわんぐわんと変に揺らいで感情の忙しなさに心がおかしくなりそうだった。そうなんだ、と過去に思いを馳せてる女が照れくさそうに笑って、ぐ、と喉が変な音を立てる。

「お互い恋の仕方が下手な高校生だったんだね」

 ふふ、と楽しそうに笑いながら紡がれる言葉は全部過去形で、みしみしと心臓が軋む音がする。なのに、高校の時に見てた無邪気な笑顔が、しばらくすればまた不思議そうに瞬いて首を傾げておれも瞬く。

「……あれ、でもゾロ、さっきも目、そら、」

 した、と掻き消えていく言葉に息を呑む。丸く見開かれた目がおれの心を見透かすようにじっと見つめてくるから直視できなくて思わず目を逸らしたくせに、離れたくない一心で掴んだ手首は離せず握り込んだまま俯いて動けない。