タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2023/04/24 スモーカー
現実よこんにちは・三日月で乾杯・希望はいつかなくなると知っていた
⚠️別れ話 現パロ これのスモーカールート
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「とうとう逃げられたのね、ヒナ納得」
「あ? しっかり捕まえただろうが」
運良く大捕物になってどこそこに貸しができただのなんだので上司たちは浮かれ、おれは部下どもに大きな怪我がなかったことに安心しながら机に齧り付いて苦手な書類制作をしている。そんな様子を見てどうして正反対のことを言われなければならないのかと眉を顰めて睨み付けた。同期故におれの睨みなんざ全く効かない女におれの方が先に視線を逸らしてまた書類に向かい合う。
「仕事のことじゃないわ、私生活のことよ」
「…………なんで知って、……あいつ今お前んとこに居るのか」
いないと呆れたように首を振られて舌打ちをする。八つ当たりだ。わかってる。急に別れようと言われた。あいつの痕跡が綺麗さっぱりなくなっていた。手がかりの一つも残さない犯罪者もびっくりな完全犯罪に手も足も出ずにただ私用の携帯に連絡が来るのを待つことしかできない。一度呼び出し音がかかったのに、番号も変えられてしまったのかそれきりだ。おれからの連絡はできなくなっても、あいつからの連絡は来るかもしれない。何一つ痕跡を残さない徹底ぶりに、そんな楽観的なもしもは1%の可能性もないのはわかってる。それでもそれに縋るしか今のおれにできることはなかった。
くそ、と苛立ちに書類を握り締めてしまったのを慌てて伸ばして、それから気付く。ちょっと待て。
「納得ってなんだ」
心当たりなんざひとつもなかった。突拍子のない別れだったから、手がかりのとっかかりも何も見つけられずただ待つことしかできないのに。あいつはいつも笑ってた。仕事で忙しくて滅多に帰れなくても、あなたが無事ならそれだけでいいの、と微笑んで、口数の少ないおれの気持ちをいつもきちんと汲んでくれていて、幸せそうに笑ってた。文句なんて一言もぶつけられたことはない。
「そりゃ、おれなんかには勿体ねェ良い女だ。でも納得って何がだ。おれには言ってねェだけで、愚痴とか聞いてたのか。教えてくれ、」
気に食わないことがあったなら矯正する。戻ってきてもらえるなら、体の一部だと言っても過言でもない煙草だってやめる。
「良い女、ねェ」
「……良い女だろうが」
不満をぶつけられたことがないだけで直すべきところがあったのかもしれないことに思考を割いていたのに急に割り込んできた声に眉を顰める。意味ありげに呟かれた言葉はまるであいつを貶しているかのようで、腹が立つ。だがすぐにかぶりを振った。目の前の女があいつを貶すわけがねェ。なら、なんだ、その思わせぶりな言葉は。
「良い女は良い女でも都合の良い女、でしょ? ヒナ同情」
「……あ?」
びり、と今度こそ書類が破れた音が聞こえた。だがそんなことより目の前の女から飛び出てきた言葉の方が大事だった。書類はあとでまだ印刷して書き直せば良い。馬鹿げたことを、と一笑したかったのに、まるで犯人に向けるかのような軽蔑しきった瞳に頬が引き攣って何も言葉を紡げない。
「あなたの愚痴なんて何ひとつ聞いてないわ。惚気ならたくさん聞いたけれど。ヒナ満腹」
褒められているはずなのに、投げつけられる言葉は氷のように冷たかった。
「あなた、いつ彼女がいなくなったことに気付いたのかしら。出て行ったその日じゃないでしょ」
「それは、……」
いつ、出て行ったのかはわからなかった。わからないせいで足取りも掴めない。でもおれが家を空けるのなんてしょっちゅうあることで、それはあいつだって重々承知の上でそれにも文句を言わずとにかくおれの体の心配ばかりしてくれていた。
「あの時は仕事が忙しかっ、」
「忘れたの? 目の前にいるわたくしもあなたと同じ仕事をしているのだけれど。ヒナ心外」
途中で遮られた言葉に声が掻き消される。
「確かに死ぬほど忙しいわね。別に毎日無理に帰れって言ってるわけじゃないわ、そんなことして体壊しでもしたらそれこそあの子が傷付くことになるでしょうし。でもあなたが頭を冷やす為に吸う煙草の時間、その五分があればほんの少しでも毎日彼女と連絡できたのではなくて?」
今も口に咥えている煙草が不味く感じて灰皿に捻り潰して火を消す。だけど今更そんなこと言われても時間は戻らない。
「泣き言も恨み言も言わないんだもの。呼び出せばすぐに駆け付けてくれて、なのに自分から呼び出したくせに仕事の電話で蜻蛉返りさせられて、滅多に帰らない家に帰っても怒らずただ嬉しそうににこにこ微笑んで癒してくれて……男にとって本当に良い女よね」
「違う、そういう意味の良い女じゃねェ」
思わず重ねるように吐き出した声は掠れていて、まるで図星を刺されたかのような声色になっていて舌打ちをする。違う、そんなこと思ってない。そんな意味で良い女だって言ったわけじゃない。
「与えてもらうばかりであなたは何かしてあげたことはあるの?」
「……、」
「いつもあなたのスケジュールに合わせてもらってばかり。あなたが彼女のためにスケジュールを合わせたこと、一度でもあったのかしら」
くそ、と頭を掻きむしって冷たい氷の槍をただ聞き入れることしかできない。何も答えられなかった。いつもおれに合わせてもらうばかりで、おれがあいつに合わせたことは何ひとつない。時折空いた時間すら、疲れているだろうからと起こされずただおれを休ませてくれていた。何が心当たりなんざひとつもないだ。捨てられて当然の唐変木だ。だが、都合の良い女だなんて思ったことは本当に一度もない。本当に心の底から良い女だと、おれには勿体無い良い女だと思っていたから、だから、そう言っていただけで。あいつも、自分のことを都合の良い女だと思われていると勘違いしたんだろうか。それで嫌気がさして出て行ってしまったんだろうか。違うんだ。お前は本当に良い女なんだ。馬鹿なおれには勿体無い。わかってる。わかってるのに、諦めきれない。うんともすんとも言わない私用の携帯に、今日こそ連絡が来ないかと神にすら願うほど参ってる。頼むから、戻ってきてくれ。
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