タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2023/05/14 ロー
裏切りに嗤う・言えない言葉を突きつけられ・わざと掛け違えたボタン
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「トラ男、まだ着替えてないの?」
常日頃機嫌の悪そうな顔が更に一段とご機嫌が斜めなことがわかるくらい歪んでいて一瞬怯む。だけどその表情が私に向けられているわけじゃなく手のひらに乗った衣装に向けられていることに気付いて首を傾げた。
「なんでこんなの着なきゃなんねェんだ」
「敵陣に乗り込む時はおしゃれするでしょ?」
トラ男だって船員にお揃いの制服与えてるんだし、服が持つ重要性やらモチベーションやらは理解してると思ったのに。トラ男、スタイルいいからその服似合いそうだと思って楽しみにしてたのにな。全く着替える様子のない姿にどうしようと考える。私じゃあ無理矢理着替えさせることなんてできないし、誰かしら呼んでこようかと踵を返そうとして、ふと気付く。衣装全てを睨みつけていると思っていた鋭い視線は一心にネクタイのみに注がれていた。もしかして、
「ネクタイ締めらんないの?」
「は?」
憮然とした声があがって納得した。そっかそっか。だからずっと睨みつけてたんだ。着替えてないんじゃなくて、着替えられないんだ。別に恥ずかしがることないのに。人には得手不得手があるのは当然なんだから。トラ男はネクタイが締められない代わりに、他の人ができないたくさんのことができるんだから、恥ずかしがることなんてない。手のひらの上でずっと睨まれていた可哀想なネクタイを掬い上げて、生きてたら視線だけで死んでしまいそうなほどの睨みを受けていたネクタイを宥めるように撫でて笑った。
「私が締めてあげるから早く着替えなよ」
「……、」
「ほら早く」
小さく口が開いたかと思えばきゅっと引き結んだのは、ネクタイが締められないことがバレたのが恥ずかしかったんだろうか。それともまだ着替えることに不満があるんだろうか。どっちにしろあと数分もすれば待ちくたびれたルフィがトラ男を探し出すし、ルフィの押しに勝ったことなんてないんだから潔くここで私にネクタイを締められるのが一番ダメージが少ないと思うんだけどな。頭の賢いトラ男がそれを理解できないはずもなく、くそ、と小さな悪態が聞こえたかと思えば着替え始めた姿に頬を緩めた。
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なんでこんなの着なきゃなんねェんだ。衣装を無理矢理手渡された時から何度も何度も何度も脳内で繰り返した言葉をとうとう声にも出して、それから理由を聞いてもやっぱり同じ言葉ばかりが何度も頭を駆け巡った。目の前の女はすでに着替え終えていて、いつもより露出が激しい。敵陣に乗り込むんなら洒落っ気を出すんじゃなくていつもより武装しろよ。そんなに肌を露出させてたら敵の目を引くし、怪我をする確率が上がるだけだろうが。常識を説いても同盟船の奴らにはなんの意味もない。だが同盟を組んだからってそっちのルールになんでもかんでも従う理由はない。だから衣装を突っ返そうと思ったのに、間抜けな閃き声が辺りに響いて呆然とした。
ネクタイ締めらんないの?
そう言ったか、こいつ。馬鹿なのか。そんな理由でおれが足踏みしてると本気で思ってるのか。馬鹿なのか。本気で馬鹿なのか。この船に乗る奴らの脳を隅々まで解剖してその謎の思考回路を解明したい。だけどどんなに医療が発達してもきっとこいつらの馬鹿さ加減は数値で測れないんだろう。逆らわずにとっとと着替えて流されていれば馬鹿みたいな勘違いもされることもなかったのに。こんなのもできない男だと思われてるのか、おれは。潜入するための変装ならまだわかる。でも殴り込みに行くのにこんな洒落っ気を出す必要を感じなかったから拒絶反応を出していただけなのに。馬鹿馬鹿しい、と呆れて開いた口をそう動かそうとした瞬間、するりとおれの手の中からネクタイを取り上げまた口を動かした女に無意識に唇を引き締めていた。
「私が締めてあげるから早く着替えなよ」
「……、」
笑って言われた言葉はあまりにもおれを馬鹿にしていて、なのに、一番の馬鹿は女の言葉に唇をぎゅっと結んだおれだった。締めてあげるから。ネクタイのひとつも結べない男だと馬鹿にされている。馬鹿にされている、のに。ふ、と在りし日のあたたかい記憶が脳裏にチラついた。母様が、父様のネクタイを締める姿。どたばたと慌ただしく準備をする父様。父様には見えない位置にできた寝癖をこっそり笑うおれとラミ。玄関で母様に至極ゆっくり身繕いされる姿。寝癖を直して、ネクタイを丁寧に結んで、襟をしっかり立てて、そしてお互いにいってらっしゃいのキス。どれだけ遅刻しそうになっても、玄関でのそのルーティンは崩されなかった。祈るような儀式はいつも当たり前にそこにあって、唐突に奪われた。
ほんの少し、意識が飛んだせいで馬鹿みたいな勘違いを訂正しようとしても、もう目の前の女はおれがネクタイを締められないから駄々を捏ねているんだと思い込む。今更出来ると言っても強がりだと思われてしまう。
「ほら早く」
急かす言葉に、くそ、と悪態をつく。服を脱いで、シャツを着て、ボタンを閉める。ネクタイだって、自分で締められる。のに、すっと目の前に立った女がネクタイを通しやすいように頭を下げて協力的な態度を示してしまった。奪い返して実力を見せればいいだけなのに、するすると布が擦れる音をただ大人しく聞いているのは、また、思い出してしまったから、で。
──なんで父様は自分で出来るのに母様にネクタイしてもらうんだ?
小さな頃に聞いた質問を、思い出してしまった。
くるりと慣れた手つきでネクタイを締める女のつむじを見下ろす。きゅ、と首元が引き締められた感覚に、仕上げとばかりに襟をきちんと撫で付けられて体が緊張に強張る。そんなおれには気が付かず挙句その距離のまま顔をあげられて、ぐ、と喉が変な音を立てた気がした。
「うん、似合ってる」
良い感じ、と真正面から近い距離で笑われて、目が眩む。
──ここから見る母様はすっごく可愛いんだぞ。
いつだって母様は可愛いけどな、とやにさがった表情で惚気る父様に、ふうん、と訳もわからず相槌を打ちながら首を傾げたのは遠い昔。訳が分からなかったはずなのに、目の前の女の笑顔を見て、父様に向けた質問の答えを思い出してしまったのは、きっと、
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