タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2023/05/29 ロー
君のために死にたい・雪解けのように・思いの中に囚われる
⚠️悲しい雰囲気
▼
「キャプテンは酷い男だね」
「は?」
好きな女に罵られた瞬間、あまりにも唐突すぎて怒りも悲しみも湧かずにただ疑問だけが脳内を占めた。キャプテンは酷い男だね。それをどこの誰とも知らないやつに言われたらそりゃまあ海賊だからな、と傷付きもせず事実に頷くだけだが、その言葉を吐いたのが好きな女だから受け止めるのに時間がかかる。おれだって海賊の前に普通の男だ、好きな女には良い格好を見せたいという気持ちがある。だから意識的にお前の前ではかっこつけたし、海賊のくせに良い人ぶったこともあるし、無意識のうちにお前だけを贔屓にしたことだってあるだろう。恋愛のことに詳しいわけじゃないがそれでも、好きな女に嫌われるような酷いことをする馬鹿じゃない。はずだ。なのに今さっき言われた言葉は、確かに好きな女からの悪い評価で混乱する。
「……いや、自分で言うのもなんだが、おれはお前に甘い方だろ」
ふ、と笑われて思わず視線を逸らす。まともに恋愛をしたことがなかったせいで、何もかもが的外れだったんだろうか。優しくする、なんて思いながら、優しくしたりされたりした柔らかな日常が大昔過ぎてやさしさの正解なんてわからなかったから、だから今、本人に不正解だと突きつけられているんだろうか。
「いい加減馬鹿にするのはやめて」
「、ば、……?」
それでも、それだけは絶対にしたことがないから言い訳の一つもできない。せめて心当たりさえあれば誤解を解こうといくらでも言葉を紡げるが、これっぽっちも思い浮かばないからやっぱり狼狽して固まることしかできない。
「もう嫌なの。私をここで降ろして」
「だめだ」
固まっていたくせにその馬鹿げた提案には即答できてほっとする。危ない。固まってたら勝手に船を降りられるところだった。許可なんて一切出す気はない。反射で拒否することができてよかったと安堵したのも束の間、じくじくと心臓が嫌な音を立てて軋む。そんなにか。そんなにおれが嫌いか。どこが酷い男なんだ。
「何が嫌なんだ。欲しいものはすぐ手に入れてやったし、これまでだってお前に怪我ひとつさせたことないだろ」
は、と笑う音が聞こえて瞬く。鼻で笑われたはずなのに浮かんだ表情は笑顔なんかじゃなくて涙に滲んだ瞳に震える唇で、泣くのを我慢する表情でぴきりと心臓にトドメを刺された音がして息を呑む。
「私のことなんだと思ってるの」
「そ、」
それは、好きな女だろ、なんてことすぐに言えやしないからこうやって情けなくもただ甘やかして大事に囲ってきた。だけど、告白する最後のチャンスがきっと今さっき息を呑んでしまった瞬間だった。そんな後悔をしたって時は戻せない。
「私が欲しいのは仲間としての信頼だった。みんなが怪我をしてるのに、私だけいつも怪我ひとつしない。私だって戦えるのに。私もハートの海賊団だって、認めてほしかった。仲間じゃないのに、この船に居るのはおかしい」
私って、いったいなんだったの。
ぼろりと大粒の涙が溢れて、踵を返された。許可を出していないのに勝手に船を降りて陸に足をつけている。許可なんて出すはずないのにどんどん背中が遠ざかる。さっきみたいに反射で引き止めればいいのに、今度は声も出ないし体も動かない。心臓は壊れたように静かで、好きな女の背中をただ見つめることしかできなかった。
← →