タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/07/03 ナミ
硝子の器に君の雫・猫が見ている・喉が嗄れるまで


「ベルメールさんみたいで好き」

 思わずこぼれた言葉は事実で、この船に乗る誰もがこの言葉を馬鹿にしたりしないなんてことはわかっていても、自分がその幼稚な言葉をこぼしてしまったことに恥ずかしくなってしまう。口をついてしまった言葉は事実だから言い訳なんてできないし、だからって聞かなかったことにしてと重ねるのも恥ずかしかったし、とにかく八方塞がりで、何か言ってよと理不尽に八つ当たりしようと顔を上げた瞬間、ばちんと目が合ってせっかくの勢いがひゅるひゅると萎んだ。ぱちぱちとまつげを揺らして不思議そうに私を見つめるから視線が泳ぐ。

「……煙草吸ってるから?」

 ようやくこの空気を割いてくれた言葉は私の言葉を深追いするもので、ぐ、と気恥ずかしさに唇を噛みながら顎を引く。

「同じ銘柄だったのかな?」
「……知らない」

 人差し指と中指で挟んだ煙草を見下ろしながら笑われて、拗ねた子どものような返事になってしまう。別に馬鹿にされたわけじゃないのはわかってるけど、それでも、とにかく気恥ずかしかった。

「でも私はベルメールさんにはなれないよ」
「わかってるわよ」

 そんなことは言われるまでもなくわかってる。別にベルメールさんになってほしいわけじゃない。ベルメールさんはベルメールさんで、あなたはあなた。ただちょっと、面影を感じて、それでほんの少し懐かしくなって口からこぼれてしまっただけ。もし煙草を吸ってなかったとしても、好きなことには変わりはないし。それを言うには今日の私の羞恥心は削られきってしまったから心の中にひっそりとどめておく。

「ベルメールさんはナミを守ってくれるけど、私はナミを傷付けるかもしれないから」
「……は? そんなこと、ありえないでしょ、……なんでそんなこと言うのよ」

 怒られたいの、と気まずさに逸らした目をもう一度あげて睨みつけたのに、困ったように微笑まれるからまた勢いが削がれる。

「だって、ナミのことが好きだから」
「? ……私も好、ッごほ、」

 続いた言葉にやっぱり傷付けられることなんてなくて私も言葉を返そうとしたのに、ふ、と煙を吹きかけられて咽せてしまう。

「ベルメールさんはこんなことしないでしょ?」

 意味がわからない。好きと言ってくれたのに、好きと伝えたかったのに、煙で滲んだ視界じゃごめんねと言った表情を見ることができなかった。