タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2023/08/23 スモーカー
苦しくて息が詰まる・抱き締める腕の強さ・息をひそめてやり過ごす
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「しつっこい! これ! 彼氏!!」
どたばたと走ってきたかと思えば、ぐい、と腕を引っ張られて絡められ柔らかい何かを押し付けられた挙句耳に入ってきた言葉に呆然とする。嘘をつくなと後からついてきて喚く男の声があんまり届かないのに、その後に嘘じゃないと叫んで更におれに引っ付く女の言葉はすんなり脳に届く。
「彼氏いねえって言ってたじゃねェか!」
「一週間前に付き合ったばっかだからみんな知らないもの」
いっしゅうかんまえ、。記憶を辿ってもてんで心当たりがなくて固まる。でも空白の時間は確かにある。ぷつんと記憶が途切れて、ぱちんと意識が戻るまでの間にリミッターが外れたおれが何かをしでかして、それで、?
柔らかな体がおれとまじりあってしまいそうだと思ったのが悪かったのか一瞬体が煙に溶けて腕に絡まっていた女の体勢が揺らぐ。慌てて体を元に戻して転ばないように支えたせいでさっきよりもぴたりとくっついてしまって固まった。セクハラにならねェかこれ。他人ならセクハラだが、恋人なら、たぶんきっと、セクハラじゃない。今までにない密着に逃げようともしない女に、本当に知らぬ間に恋人になってしまったのかと脳がその記憶を取り戻したがって忙しなく動く。働かせど全く思い出せなくておれをそっちのけで言い争いをするふたりからも忘れられている気がする。
「こんな突っ立ってるだけの唐変木のどこがいいんだよ」
忘れられていなかったようだ。女ばかりじっと見つめていた視線をどうにか剥がして知らぬ男と目を合わせる。血気盛んに対象をおれに変更したのは良いが、目があっただけで一歩後ずさるような男に変な言いがかりをつけられたくない。意味もわからず売られた喧嘩を買おうとして、柔らかな肉が腕に押し付けられたから思わず固まる。なんだ今の感触。あれじゃねェのか。セクハラにならねェか。なんでならねェんだ。付き合ってるからか? いつから? 記憶にねェな。でも胸を押し当てるくらい引っ付いてきてるし、現にこいつがおれのことを彼氏だと言ったし、記憶にない一週間前のおれは良い働きをしたんだと思う。ただこいつの反応を目に焼き付けられなかったことだけが悔しくて必死で思い出そうとする。
「スモーカーくんのこと馬鹿にしないで」
ぶわりと女の気配が逆立って、そういやよくわからん男に貶されたなと思い返す。でもなんかもう目の前のよくわからん男とかどうでもよすぎるから早くどっか行ってふたりきりにしてくれないか。一週間前の記憶がないせいでせっかくの恋人期間を一週間無駄にしてたんだ。一週間分の恋人を補填しなければいけない。
「そんなつまんなそうな男のどこがいいんだよ」
それは気になる。あまり女受けはしない自覚はあるし、どうして恋人関係を了承してくれたのかわからない。事実を言われただけなのにいきりたった女に目を見開きながら耳を澄ませる。
「?! つまんなそう?! スモーカーくんが?! 暇な時は石積んで遊んだり、陶芸が趣味だったり、真面目一辺倒かと思ったらカジノも好きだったりするスモーカーくんのどこがつまんなさそうなの?!」
石積み最高記録出した時の笑顔は子どもみたいで可愛かったし、手作りのマグカップとかすごい可愛いのくれたんだから、と合間合間におれの知らないおれを褒め称えるから思わず照れから顔を顰めてしまう。何覗き見してるんだ。見てたなら声掛けろよ。石積むよりお前と喋りたかった。マグカップもそんなに喜んでくれてたなんて知らなかった。実は揃いで作ったって言っても今なら怒られないか。だって恋人なんだよな。覚えてねェが。なんで覚えてねェんだ。
「かっこいいだけじゃなくてお茶目でかわいいとこもあるんだよ?! デリカシーがないのが玉に瑕だけどすごい面白い男の人だよ」
そろそろその柔らかなそれを腕に押し付けてくるのは嬉しいものの気が散るから少しだけ力を緩めてくれ、と言おうとしたのを慌ててやめた。危ない。その言葉は“デリカシーがない”に含まれる。たぶん。でも恋人になったんだったら多少の発言は大目に見てもらえるんじゃないかと考えて、いや余計なことは言わないに限るなとやっぱりやめた。まあ一週間前の記憶を呼び起こすのに胸の柔らかさに気が散るだけで別に害はないからいいか。今は恋人しか味わえないこの感触を楽しんで、あとでじっくり思い出せばいい。
恋人のおれ自慢に気分が良くなってるうちに男の存在を忘れていたことを思い出して視線を戻す。たじろいでまた一歩後ずさるからおれたちと男の距離は結構な距離になっている。
「それで、おれの恋人になんの用だ」
ひっ、と引き攣った喉の音が聞こえるより先に踵を返した男の背中を睨みつける。あいつのおかげで恋人だということが発覚してぼんやりしてたがそもそもあいつがこいつに言い寄ってたのはおれと同じくこいつを好きだったからで、つまりは敵相手に随分ぼんやりしてしまっていたことになる。最後の最後にきちんと睨みつけられたがすでにあいつは尻尾を巻いて逃げた後でおれの威嚇がきちんと効いたかがわからない。くそ、浮かれて気付くのが遅すぎた。追ってきっちり締めておこうか悩んだもののぴったりくっついている柔らかな肉を押しのけてまで追いかける気にはならなくて結局見えなくなるまで背中を睨みつけることしかできなかった。
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「はー……ありがとたすかった……あいつほんとしつこくて」「おれァお前になんて告白したんだ?」「ん?」「いっしゅうかんまえ、……悪いが徹夜続きのせいで記憶が曖昧で思い出せねェんだ、どこまで喋った?」「……ん?」「おれから告白したんだろう? ……まさかお前からか? いや、おれからだな、いくら腑抜けててもこういうのは男から言うもんだろ」「え、あの、す、スモーカーくん、?」「なあ、デートはまだだよな? この後予定は空いてるか」「ちょ、え、?」「待ってろ、着替えてくる」
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