タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2023/09/16 スモーカー
唇の味・天国はここにある・君との永遠
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「あ、」
あちらこちらへ彷徨っていた視線がびたりと凍ったように固まってその視線を追いかけた。がらんごろんと荘厳な鐘の音を響かせて扉から出てきた真っ白な布に身を包んだふたりを祝う集団がいて絵に描いたような結婚式だなと身もふたもない感想が頭に浮かぶ。ちら、と隣を盗み見ればさっきあんなにはしゃいで見ていた新作のうんたらかんたらには目もくれずじっと白いドレスを一心に眺めている。そのあまりにわかりやすい態度に思わず笑い出してしまいそうになって慌てて葉巻に手をやるふりをして口元を隠した。
なぜだか恋人の中でおれは結婚願望が全くなく話題に出されるのすら鬱陶しいと思い込まれていた。頑なにそういう話題を避けようとするその姿は健気で、ほんの少しだけ痛ましい。最初はその徹底したあまりの避けっぷりに恋人自身に結婚願望が微塵もなく、付き合う前からどうお前を縛ろうかと考えていたおれのそのがっつきっぷりがどこからか滲み出ていて怯えられているのかと勘違いしていた。だけどそうじゃなく、全くの正反対の理由でおれのことを考えて避けていただけのようでほっとしたのも記憶に新しい。仕事に専念したいだろうから結婚はしたくないんじゃないかな、と誰かと話しているのを盗み聞いてしまったことをこいつは知らない。あっけらかんと話されていたら傷付くが、寂しそうに紡がれた声にそれはそれで胸が痛んだ。あからさまに結婚がしたいとがっついていたことがバレるのはみっともなくて嫌だが、隠し通せた結果好きな女を寂しがらせていたら意味がない。
「あ、えっと、あっち行こ! そういえば新しいカフェができたってヒナちゃんに教えてもらったの」
氷が溶けたのか相変わらずおれをそういう場から遠ざけようと腕を掴んで正反対の道へ促してくる姿に覚悟を決める。ずっと知らず知らずのうちに傷付けていた。言葉足らずのくせにみっともないからと態度すら隠していれば何も伝わらないのは当然だ。通行人の方たちもぜひ、と声高らかに話す司会の声に掴まれていた腕を掴み返して歩き出す。え、ちょっと、と戸惑いながらも力の差についてくることしかできない。きらびやかに着飾った招待客と、どうぞどうぞと誘われるがままに近寄ってきた見物人たちと一緒に肩を並べて花嫁を見上げる。恋人だけがまだ状況を把握できずにおれの横顔にばしばしと視線をぶつけてきているのがわかったが、今は花束の行方の方が大事で目を離すことができない。
「ね、ねえスモーカーくん、なに、」
「アレ取ったら結婚できるんだろ?」
誰が言い出したのか、どういう理屈なのかはさっぱりわからないが、いつか誰かから聞いた気がする。え、とまた戸惑った声が聞こえるのと同時に、三、と通る声がカウントをはじめた。
「だから花を見てろ」
二、と続いたのにまだ視線は横顔にささったまま。やっぱりおれの問題なんかじゃなく恋人自身に結婚願望がないんだろうか、なんて一瞬不安に思ったけど、視線はささったまま、それでも恋人が恐る恐る腕を広げて他の通行人のように花束を受け取る準備をしたのを風で感じてほっとする。
一、と同時に花嫁がブーケを高く振りかぶった。わっと花束と祝福と歓声が降り注いでじっと花束だけに集中する。空高く舞い上がりながらおれたちの方へ落ちてくるのが見えて、腕は広げたものの戸惑いに一歩も動かない恋人も視界に入る。一歩足を踏み出せばそこがゴールなのに。くそ、と内心で舌打ちをした瞬間、ふわ、と風が花束を撫でて恋人の腕の中にすっぽりとおさまった。
「よし、」
おめでとう!といろんなところから恋人へ声がかかっておれの声はかき消されて安心する。花束に命運をかけるのも、それに喜んで声が溢れるのも冷静に考えれば恥ずかしい。おれなんかよりよっぽど注目されている恋人は花束に顔を埋めて皮膚を真っ赤に染め上げていてほんの少しだけ申し訳なく思う。
「取ったな? 取ったんだから結婚してくれるだろ?」
じわ、と花束に埋もれる瞳が潤んだのが見えて体がこわばる。都合のいいおれの勘違いでやっぱりお前には結婚願望なんてなくて嫌がられてるんじゃ、なんて肝を冷やした瞬間、花束ごとおれに飛びかかってきた恋人を慌てて抱きとめる。する、と涙の滲んだ声で、でもはっきりとした肯定に、一瞬あたりが静まり返ってそれからまた歓声が沸いた。
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