タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/10/17 スモーカー
優先すべきは全部君・心と身体を捧げた次は・愛で地球は救えなくても僕は救えます
※なんでも許せる人向け


「あら、」
「あ、こ、こんばんは」

 こんばんは、と返されるだけじゃなくて長いコートと足を翻して数歩で私の隣へ一瞬で近付いてきた恋人の同僚にどぎまぎする。どうしよう。スモーカーくんの同僚だということは知ってるけど、一対一で話せるほど知っているわけじゃないし、どうやって間を持たせればいいのかわからない。

「もしかして、デートかしら?」
「は、はい」
「ああ、だからあんなに怒ってたのね、ヒナ納得」
「おこ……?」

 待ち合わせに遅れるかもしれないから、と笑われて私も納得する。ちょうどさっき電伝虫で十分遅れるとそれはそれは申し訳なさそうに何度も謝る声を聞いたばかりだから。だけど、納得したけどやっぱり少し違和感。

「スモーカーくんって怒るんですか?」
「え、」

 凛とした空気ががらりと崩れてなんだかわからないけど場の空気を乱してしまったことだけは自覚して意味もわからないまま焦る。何か変なことを言ってしまったんだろうか。だけど先におかしなことを言ったのはヒナさんな気がする。いや、でも綺麗なガラス玉みたいな目がこぼれおちそうなほど見開かせてしまったんだから私がきっと悪い。はず、とじわじわ罪悪感に蝕まれていく。

「基本的に怒ってないかしら?」
「基本的に優しいですよ?」

 罪悪感も忘れて、ぽかん、とふたりして瞬きながら見つめあってしまう。

「……まあ、意味もなく怒鳴り散らしたりしてるわけじゃないし、スモーカー君だって恋人には優しくするわよね、……想像もつかないけれど」

 私より先に再起動して言葉を紡いだヒナさんが渋々付け足したようなそれにまた首を傾げる羽目になる。想像もつかないのは怒ってるスモーカーくん、で。

「……そんなに怒ってるんですか? 私、てっきり、……いつも穏やかで優しいからいじめられてるんじゃないかと、」
「……あなた本気で言ってるの?!」

 掴み掛かられる勢いで放たれた疑問に言葉を詰まらせた。

「同じ名前の別人じゃないわよね?! 今私たちは中将でモクモクの実を食べた白猟のスモーカーの話をしてるのよね?!」

 その勢いに驚きながらも何度もこくこくと首を縦に振る。

「……恋人に穏やかで優しいのは……まあ、まあ百歩譲って納得するわ。でも、……あのスモーカー君を見て、いじめられてるんじゃないかなんて心配するなんて、あなた、……あなたの前でいつもスモーカー君はどんなふうに振る舞ってるの……」

 こわい、と聞こえたような気がしたけど聞き返すよりも前に白くて柔らかい煙に全身が包まれてヒナさんが見えなくなる。音もなんだかノイズがかかっているように遠ざかってよく聞こえなくて、だけどこの白い煙の正体がなんだかわかってるから安心して身を委ねる。ヒナさんと喋ってるうちに十分経っちゃったのかな。きっと大慌てで来てくれたスモーカーくんを労わりたくて手を動かして煙を撫でてみたけど手応えがなくて伝わったかはわからない。だけど私の手の周りをくるりと一周した煙に頬が緩んだ瞬間、煙が晴れてスモーカーくんの大きな背中が目の前に現れた。ひょこ、と顔を覗かせてみたけどもうそこにはヒナさんはいなくて首を傾げる。

「ヒナさんは?」
「ああ、急用ができたって飛んでった。……遅れて悪かった」
「んーん、連絡してくれたし、ヒナさんと喋ってたからあっという間だったよ」

 振り返ったスモーカーくんが、ぐい、と私の腕を掴んで引き寄せる。思わずたたらを踏んでかたい胸にぶつかりそうになるけど、ふわ、と柔らかな煙に顔が包まれてかたい胸に鼻が潰されることはなくいつものように優しく抱き止められた。上を見上げれば隠す気もなく拗ねた表情をしていて首を傾げる。

「随分あいつのことを気にするじゃねェか」
「スモーカーくんの職場での話、もう少し詳しく聞きたかったから」

 どうやら心配していたようなことはなさそうで安心したけど、共通の話題のはずなのにどこか会話が噛み合っていない気がして、それを詳しく知りたかったのに。

「スモーカーくん優しいから職場で大変な目にあってないかなって心配で」
「……優しくねェよ」
「優しいよ」

 恐ろしい海賊たちを相手に怪我をすることも心配だけど優しいスモーカーくんの心が傷付けられてしまうかもしれないと思うとすごく心配でたまらなくなる。腕が回りきらないほどの大きいスモーカーくんを気持ちだけでも包み込んであげられるように精一杯ぎゅうぎゅうと抱きしめて少しでも慰めになればと思う。

「スモーカーくん、怒れるの?」
「……何聞いたんだ」
「詳しく聞く前にヒナさん行っちゃったから……いつも優しいのに怒れるの?」
「……そりゃ、……まあ、……海賊相手だからな、……優しく言って聞く相手じゃねェし、」

 もごもごと言いにくそうに話すスモーカーくんはやっぱり海賊相手でも優しさを捨てきれないんだろうなと感心して、だけどやっぱりそれでスモーカーくんが傷付いたら悲しくなる。

「今度またゆっくりヒナさん紹介してくれる?」
「……なんでだ」
「スモーカーくんの話を聞きたいから」
「……おれから聞けばいいだろ」
「スモーカーくんにも聞くよ」
「……おれからだけでいいだろ」
「どうして?」

 聞かれたくない話でもあるのかな。そりゃ市民に話せる範囲なんてたかが知れてるかもしれないけど、色々聞いてみたいのに。わかりやすく拗ねたスモーカーくんに首を傾げた。

「……あいつと話す暇があるならおれと話してくれよ」