タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2023/11/10 スモーカー
言葉にも声にも出来ない・あなたが好きです・下唇の柔らかさ
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「スモーカーくんってどれくらい耳が良いの?」
上からの待機命令に帰ることもできず暇を持て余した女が執務室のソファにしなだれかかって言った言葉を無視しなかったおれも大概暇を持て余していた。
「さっきお前の腹の虫が鳴いてたのは聞こえたな」
「ばかっ! そういうのは言わなくていい! さいてー!」
今更腹を両手で覆い隠してきゃんきゃん吠えたてる声に耳の中に指を突っ込んでうるせェなと眉を顰めた。くだらない質問は無視したっていいのに相手してやったおれに感謝すべきだろ。てか聞こえるんだから仕方ねェだろ。謂れのない罵りを受けながら机の上にある糖分補給の為の飴玉をぶん投げた。驚いたのか罵倒が止まってほっとする。
「腹減ってるからイライラするんだよ、とりあえずそれでも舐めてろ」
「そういうとこが!! モテない!!!!」
せっかく止まった怒声がさっきよりも勢いを増して目を見開く。なんでだ。飴やっただろうが。そりゃまあ飴程度で腹は膨れないがちょっとは気が紛れるだろ。なんでさっきより怒ってんだよ。味か? 味が気に入らないやつだったか?
「……何味がよかったんだ」
「そういうことじゃない!」
ばか! ばか! さいてー!
きゃんきゃん喚きながらも包装紙を破って飴玉を口に含んだ瞬間大人しくなった。やっぱ腹減ってたからイラついてたんじゃねェか。面倒な女だな。
「…………ほんとに耳いいんだね、さいてーだけど」
ぼそっと呟かれた言葉にまだ若干機嫌の悪さが滲んでいて眉間に皺を寄せる。おれだって腹減ったからとっとと飯食いに行きてェよ、八つ当たりするな。
「たしぎちゃんが来る足音とかわかる?」
「あいつは慌ただしいからわかりやすいな」
「……わかるんだ」
喚くことはもうやめたみたいだがそれでもその顔は不満があるのがよく伝わってくる。一体どう答えたら満足なんだよ。
「お前もわかるだろ」
「……わかんないよ」
あんなに騒がしいのにか。あれは耳が良いとか悪いとか関係なくよくわかるのに。本人も慌ただしいし、周りの野郎どもがそれに追随するから台風のように騒がしい。今だってあんなに騒がしいのがこっちに向かってきているのに本当に気付かないんだなと、からころと飴玉が歯に当たる音を聞きながら首を傾げた。じゃあどこからが普通に聞こえる音なんだと観察しても一向に気付く気配がないからおれの方が驚く。
「聞こえねェのか?」
「? たしぎちゃん来てるの?」
良い知らせだといいなあ、お腹すいた、早く帰りたい、とぼやく姿は本当に聞こえていないようで瞬いた。
「スモーカーさん! 不備はないそうです!」
「帰っていいってよ!」
「なあなあみんなでこの後飲みに行くことにしたんだけどスモやんも一緒に行こうぜ!」
本当に直前になるまで気付かなかった女に呆れながらどたばたと流れ込んできた部下に耳を塞ぎたくなる。押し寄せる部下とは反対に帰っていいとの言葉を聞いて即座に靴音を鳴らして執務室から早々に抜け出そうとしているのに気付いて舌打ちした。あいつこいつら全員押しつけて一人だけ逃げるつもりだな。
「なあなあスモやんも来てくれよォ」
「みなさん失礼ですよ!」
大人しく帰りますよ、と嗜めるたしぎに、えーっと全員が合唱する煩さに頭を抱えたくなる。ひとりだけこの喧騒から抜け出して腹拵えをしようとしてる女の背中すら見えないほど囲まれてうるせェなと口を挟む隙もない。
「耳が良くても逃げられなかったら意味ないね」
あは、と楽しそうに笑って一人だけ逃げ切ろうとする女にこめかみがひくついた。おい、聞こえてんぞ。わかってんのか。わかってんだろ。さっきおれの実力は示したはずだ。その距離で、その声量は聞き取れるとお前もわかっていて挑発しているはず。
「デリカシーのない地獄耳はモテない」
よし、売られた喧嘩は買ってやる。こいつら捌いたら覚悟してろよ、と意気込むおれの耳に、緊張に震える吐息が聞こえてほんの少し冷静になった。何か、絶対に聞き逃してはいけないことを放たれる気がして。
「……けど、……そんなスモーカーくんのこと好きになっちゃったから、困る」
この喧騒の中、更に距離を離し声を潜ませられればおれの耳だって拾う音には限度がある。それくらい聞かせる気なんて微塵もない小さな音で紡がれた言葉と、足早に逃げる足音に頭で考える暇もなく体を動かす。騒ぐ部下たちに財布を放り投げて「おれたち抜きで飲んでこい」と怒鳴りつけた瞬間、歓喜に爆発する騒音に足音の行方を見失いそうになる。騒ぐ部下たちも、おれの体から聞こえるばくばくとうるさい心音も掻き分けて、あいつの足音だけを探して体を煙にした。
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