タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/12/01 ルフィ
抱き締めた身体はあまりにも細く・夢でなら逢える・星屑が降る夜


「なっつかしいなァ!」

 その言葉が耳に入ったのと同時に私の体が宙に浮く。この感覚は滅多にない。だけど知っている。私の体に巻き付いている腕は、ゴムのように伸びていて、だからこの先にある腕の持ち主はルフィのはずなのに、ルフィじゃない、? ばちん、と勢いよくゴムが縮んだ瞬間、ルフィと似たような能力を持ったルフィに似たおじさんと至近距離で目があって狼狽える。

「おめェこんなちっちゃかったか?」
「る、るふぃ、」
「なんだ?」

 ルフィに似た誰かが私の頬をぺたぺたと触って、その無邪気さに私に害意を与えてくるわけじゃないと理解しても誰だかわからない人に体を拘束されてる現実は変わらなくて、一緒にいたはずのルフィに助けを求めたのに目の前の人が当たり前のように返事をするから目を見開く。

「おれの仲間ァ返せ!!」

 ルフィの声が後ろからして逸れた思考回路が戻ったのに、ぐわんと視界が揺れて思わずぎゅっと目を閉じた。

「いいじゃねェか、ちょっとくらい貸してくれたってよ」
「いいわけあるか!」

 ばこん、と地面が抉れる音がして、ルフィの攻撃が避けられたことに驚く。当たってたら当たってたで私にも被害が及びそうな勢いの音がしたから避けてくれて助かったけど、だけど、ルフィの攻撃を避けるなんて。

「お前は嫌か? 今のおれならちゃんと力加減もできるし、……痛くねェだろ?」

 ルフィに巻き付かれる時はいつもだいたい運が悪く引っ張られる瞬間にどこかで擦りむいたりゴムの強さに体を痛めてたりしていた。だけど今、ルフィと似た能力で同じように体をぐるぐる巻かれて引っ張られたのにどこも擦りむいてないし、強い締め付けに体を痛めたりもしてない。拘束からは逃げられないけど、柔らかく包み込んでくれる力に思わず素直に痛くないと頷いてしまった。私たちよりひとまわりもふたまわりも歳を重ねた男の人なのに屈託ない子供のように嬉しそうに笑うから警戒も恐怖もどこかへ飛んでしまった。ルフィが私を助けるために地面を蹴ろうとした音が聞こえて、その屈託ない笑顔の人から怒り狂ったルフィへ視線を向ける。

「まっ、まって、ルフィ、私痛いことされてないよ、攻撃しなくても、話し合いでなんとか、」
「仲間に手ェ出されて黙ってられるか」

 怒り心頭なルフィに仲間の私ですら気圧されたのに側でまたけらけらと笑う声が聞こえてはらはらする。悪意がないのは私には十分伝わってるけど、それが余計にルフィの神経を逆撫でしてるような気がする。似たような能力で、似たような顔付きで、本来なら似たような朗らかな性格なんだから、きっと馬が合うはずなのに。

「お前が攻撃したら、こいつにも当たっていてェぞ?」

 ま、当たんねェけどよ、の声はものすごく小さくてきっと私にしか聞こえなかった。その自信に驚いて、だけど、さっきルフィの攻撃を軽々と避けた実力に、その言葉を信じてしまいそうになる。私たちのルフィは誰にも負けないのに。
 くそ、とルフィの悔しげな声が聞こえて攻撃の構えを解いてくれたのが視界にうつって安心する。騒ぎを大きくして海軍が集まってきたら更に面倒になるから。

「別に取って喰おうとしてるわけじゃねェんだからそんなに怒るなよ。ちょっとだけだって」
「取って喰うのもちょっとも駄目に決まってるだろ!」
「る、ルフィ、落ち着いて」
「おれァ、落ち着いてるぜ」

 攻撃の構えを解いたものの頭に血が登ったままのルフィに向かって言ったのに、私をぐるぐる巻いてる男の人がのほほんと会話に挟まってくるからルフィの怒気がぶわりと私にまでぶつかってくるからひやひやする。

「ほんと可愛いなァ」

 私の頬を撫でる手や言葉は他の男の人からされたら絶対に鳥肌が立つのに、なぜかこの目の前の人からは汚い下心が微塵も感じられなくて嫌悪感も湧かずにただ戸惑う。

「怪我いっぱいさせちまってごめんな? 悪気はなかったんだ、毎回ちゃんと反省も後悔もしてた。でもお前見ると嬉しくなっちまって後先考えられなくなってさァ」
「……? あの、人違い、ですよ、?」

 この人に怪我なんて負わされたことはない。誰かと勘違いしてるんだろうか。ルフィと似たような人だから、人の顔を覚えられないのも似ているのかもしれない。

「おれがお前を間違えるわけねェだろ」

 滑らかに紡がれた名前は確かに私のもので、だけど、私に目の前の人の記憶は一切なくて首を傾げることしかできない。

「あの、ごめんなさい、私、あなたのこと知らなくて、……ルフィ、知ってる?」
「知らねェ、でもおれそいつ嫌いだ、早く離せ」
「ん〜? もうちょっとだけ」

 嫌いだ、なんて面と向かって初対面の人に言われたのに痛くも痒くもなさそうにただ私を愛しそうに見つめてくる男の人に居た堪れなくなってくる。嫌な気配は感じないけど、それでもなんだか気恥ずかしくなってきた。

「我慢できねェけど我慢してたからさ、この頃のお前をこうやって怪我させずに抱きしめられるのがうれしいんだ」
「この、ころ?」

 離せ!とルフィが騒ぐから目の前の人の言葉を理解するのに一瞬時間がかかる。ぎゅうっと包み込まれるように優しく抱きしめられて圧迫感がなくなる。ルフィと同じようなゴムの拘束から解放された、と思ったら、今度こそいつもの感覚に襲われてぎゅっと目を閉じた。ぎゅう、と痛いほど締め付けられたかと思えば、びゅん、と勢いよく引き寄せられる感覚にきゅっと喉が鳴る。ばちん、といつもより更にすごい勢いでルフィの胸板に思い切り肩をぶつけて呻いた。

「あ〜あ……せっかく謝ったのに、また怪我させたな、それはお前の責任だからちゃんと謝れよ、いやおれもか? ん? でもおれはこんなことした記憶ねェし、……うーん?」

 ぶつぶつ紡ぐ声が聞こえてゆっくり目を開ける。

「ごちゃごちゃうるせェな! おれの仲間に手ェ出すな! 誰だお前!」
「誰って、……おれァ、お前だよ。モンキー・D・ルフィ!」