タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/12/07 スモーカー
縋りつけよ、欲しいなら・君には分かるまい・息をひそめてやり過ごす
※本当になんでも許せる人向け


「うぐぐ、離して、」

 嫌だ、と言うのは私のお腹に腕を回して離してくれないスモーカーくん。ぺちぺちと太い腕を叩いてもうんともすんとも言わない鉄壁の檻にとうとう力尽きて諦める。ふん、と満足そうに鼻を鳴らしたのが背後から聞こえて文句を言いたいのに体力が尽きているから言葉を紡げずため息だけ溢れた。だらんとされるがままになった私を軽々と抱き上げて膝の上に乗っけるまで開き直ったスモーカーくんの所業に腹が立って最後の力を振り絞って後頭部を振りかぶって思い切り肩にぶつけたのに痛くも痒くもなさそうで、なんなら甘えられたとでも思ったのか嬉しそうに笑うから悔しくて呻く。

「私が好きになったスモーカーくんはどこにいっちゃったの」
「あ? ここにいるだろうが」

 自分の証明のつもりなのか白いもくもくが私の周りを漂う。別にスモーカーくんを偽物だと疑ってる訳じゃないよ。偽物だと思ってるならどれだけ疲れてたって檻から逃げるのを諦めたりなんてしない。

「べたべたくっついたりするの嫌いなタイプだったでしょ」
「用もねェのにひっつく意味あるか?」
「えーん……鏡見てよお……」

 べたべたどころかぎゅうっと隙間なく抱き締められながら返された言葉に頭を抱えたくても私の両手はスモーカーくんに捕まっていてなす術がない。私を腕の中に閉じ込めながら私の手をその大きな手でむにむにと飽きもせず触る姿は基地内で親しまれながらも畏れられている中将とはかけ離れ過ぎている。

「おれたちは用なんてなくてもいいだろう」
「それはそうなんだけど、」

 恋人だろと肩に顎を乗せられて耳元で甘えるように囁かれて身動ぐ。言ってることはもっともだから頷くしかない。だけどそれを発しているのがスモーカーくんなのがやっぱりおかしくて慣れない。甘い言葉と態度ばかり出てくるにはスモーカーくんの顔は少しばかりいかつくて、それから付き合う前の態度を思い返してみてやっぱり違和感がすごすぎて逃げ腰になってしまう。ぎゅっと捕まえられているから全く逃げられないけれど。

「スモーカーくんは恋人にもそういうのしないと思ってた」

 付き合う前は私ばっかり追いかけて、押すだけの私に面倒そうに顔を顰めてて、そういう堅物なところがまた更に恋心をくすぐって、当たって砕けるための告白が成功したのは根負けしてくれたんだろうな、なんて思ってたくらいなのに。蓋を開ければ驚くほど愛されていて私の方が戸惑っている。

「散々我慢させられたんだから仕方ねェだろ」
「……がまん?」
「好きってこと隠しもせずに迫ってくるのに恋人じゃねェから手ェ出せねェし、男から言うのが筋ってもんなのにおれに言わせる暇もくれねェし、」

 その言葉に今までの認識が全てひっくり返りそうになって固まる。スモーカーくんみたいに鈍い男の人には好意を微塵も隠さずアプローチした方がいいと思ってしていたあれそれの度に眉を顰めていたのは、面倒な女を鬱陶しいと思っていたからじゃなく、きちんと好意を受け取ってくれていた上で、なのに恋人でもないから何もできないことに耐え忍んでいた表情で。毎回眉を顰められるから振られてさっぱりしようと告白した時に聞いたあの長いため息は面倒な女に根負けしてしまった溜め息じゃなく、告白を越された自分へのため息だった?

「……お前ばかり文句を言うがおれにだって不満はある」
「ふ、ふまん……?」

 付き合う前の素っ気ない態度とは裏腹に四六時中べったりなスモーカーくんに戸惑っているだけで文句を言ってる訳じゃないと訂正するよりも続いた言葉に心臓がきゅっと縮まった。ちょっと移動するにも難があってほんの少し邪魔だなと思うことはあれど好きな人に思ってたより愛されていたのは喜ぶこと。付き合う前と付き合った後、見える範囲が広がってギャップが出ることは当然で、そのギャップが私にとっては嬉しい誤算だったのとは違ってスモーカーくんは私に嫌なギャップを見つけてしまったのかもしれない。抱きしめられたままだからすぐさま別れるまでにはいかない程度のことなのかもしれないけれど、それでもその不満が積もり重なって亀裂が入るのは避けたい。

「お前、釣った魚に餌やらねェタイプだったのか」
「……ぇ、?」
「あんなに好き好き好き好き言って告白まで奪ってきやがったくせに、全然寄ってこねェどころか逃げようとしやがる」

 ぐ、と力強く抱きしめられて反射的にもがいてしまったのを、今だって、と耳元で悔しそうに紡がれて狼狽する。何か悪いことを言われると思って覚悟したのに、言われたのはまた甘い言葉でしかなくて羞恥に体温を上げることしかできなかった。