タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/12/16 ゾロ
今ならしんでもいいよ・背に残る猫の爪痕・今は痛みすら幸せだ
これのゾロルート
※あはんな雰囲気


 薄目で見た真横にいる裸体の持ち主の髪の毛の色が緑でとりあえず胸を撫で下ろす。よかった。見知らぬ誰かと朝を迎えたわけではなかった。それからいやいややっぱりよくはないと首を振る。見知らぬ誰かと朝を迎えた方がよかったかもしれない。同じ船の仲間と、もしかしたら、寝た、かもしれない、なんて、そっちの方がよろしくはない、気がする。ベッドの上で膝と頭を抱えてうずくまる。どうしよう。ゾロを叩き起こして何があったか聞く? ゾロはきっと記憶を失っていないけどゾロの口から真実を聞く勇気がない。いっそ逃げてしまう? ばくばくと跳ねる心臓をおさえつけながら、ちら、ともう一度ゾロを見る。下半身にシーツがかかっているから上だけが裸なのか、それともシーツをどければ下半身も素っ裸なのか、まだわからない。でもそのシーツを剥ぐ勇気なんて私にはなかった。うぐぐ、と呻く私がうるさかったのか声から逃れるように寝返りを打ったゾロの背中が晒されてひゅっと息を呑む。視界に入るのはいつも通り綺麗なゾロの背中、のはずだった。なのに、赤い傷跡がほんの少し散らばっていて、きゅっと心臓が強く痛む。

「ぞ、ぞろ、ぞろ、おきて、ぞろ、」

 その背中を見たくなくて、寝返りを打ったばかりのゾロの肩を掴んでまたひっくり返す。冷えた声でゾロを情けなく呼んでももごもごと何かをつぶやいて起きる気配がない。さっきまで真実を知る勇気なんてひとかけらも湧かなかったくせに、自分の犯した大罪にそんなことを思う暇なんてなかった。ゾロ、と呼ぶ声が滲んでゾロの胸の傷跡に涙がこぼれて泣いたことを自覚する。瞬間、私の手首をぎゅっと掴んで抱き寄せながら飛び起きたゾロに息が止まるほど驚いた。

「…………なんだ、どうした」

 寝起きで掠れる声が不思議そうに上から降ってきて一瞬止まった涙がまた滲んでしまう。

「おい、どこにも敵の気配はねェぞ、何に泣いてんだ」

 ゾロのふしくれだった指が私の目尻をぬぐって困ったように息を吐くから、その優しさにまた涙が溢れそうになる。

「寝たんじゃねェのかよ、今度は泣き上戸か?」

 もっぺん寝ろ、と私を抱き上げたまま寝転んだゾロに背中を撫でられてその熱い体に冷えた体が暖かくなって安心しそうになってしまう。だけど私にそんなに優しくしてもらう理由がない。だって私はゾロの大切なものを傷付けた。覚えてないけど、私がした。寝たか寝てないかなんてどうでもいい。酷いことをした私に優しくするゾロがわからなかった。

「ぞろ、ぞろ、せなか、……せなか、ごめんなさい、わたしがした? せなか、ぞろのだいじな、きれいな、せなか、わたし、」

 私が、と支離滅裂になる口に一瞬で二度寝をしようとしたゾロが起きた気配にぎゅっと目を閉じて胸元に顔を押し付けて隠した。

「…………なんでお前が謝るんだ。普通お前が怒っておれが謝るあれだろ、この状況はよ」
「だってぞろ、ぞろの、ぞろのだいじなせなか、」
「……あー……お前覚えてるわけじゃねェのか」

 ごろん、とゾロの胸元から下ろされて首の下に枕より固くて熱い何かが敷かれて不思議に思う。ぎゅっと閉じた目をゆっくり開けばゾロの腕を枕にしてるのがわかって戸惑った。戸惑う私をじっとひとつの目が観察していて思わず申し訳なさに俯く。

「あのよ、普通男と女が同じベッドに寝てたら心配すること他にあるだろ?」
「そん、そんなことより、ぞろのせなか、」
「そんなことか?」

 男と女が同じベッドにいることが、とゾロの声が落ちてきゅっと涙も止まる。

「お前の体より、おれの背中の方が大事か?」

 うん、と頷こうとしたのを顎を掴まれたせいで遮られる。誘導されてゾロの目とまた視線が交わって同じことをもう一度聞かれる。うん、と言いたいのにゾロが遮るからできない。

「おれの傷は時間が経てば元通り治るが、お前の体は昨日の体には戻んねェんだぞ」

 私の記憶にない昨日のことを匂わされて、それでもおれの背中の方が大事か、と低く言われて戸惑う。でも、だって、私はゾロに酷いことをされたわけじゃない。ゾロが私に酷いことをするわけがない。私が嫌だと言えばゾロは無理強いなんてしてこなかったはず。だから覚えていなくてもきっと合意だ。だけど私はゾロに酷いことをした。ゾロの大事な背中を傷付けた。元に戻るかどうかなんて関係ない。大事なものを傷付けたか傷付けていないかの話だから。

「酔ってる女に手ェ出す男の背中より、自分の体を大事にしろ」
「でも、ゾロの背中、は、」
「お前はおれの敵じゃねェんだからお前の爪痕がいくつあろうが剣士の恥にはなんねェよ」
「でも、」
「好きな女につけられるんだから寧ろ勲章だろ」

 ゾロの言葉に固まる。ずっと真剣な面持ちで私を見ていたゾロが、ふ、と表情を緩めて余計に戸惑う。

「この状況で自分の体よりおれの背中の心配ばっかするんだから、おれのこと嫌いなわけじゃねェよな? 普通嫌だったら怒ったり軽蔑したりするもんな」

 な?と顎の手が滑って頬を撫でられる。その手つきが、目が、どういう感情を含んでいるのか唐突にわかって目を見開く。

「脈ねェと思ってたから勝手に誤解してくれて助かった」
「ごかい、」
「心配しなくても手ェ出してねェよ。これはお前が絡まれてたのを助けようとしたらぴいぴい泣きながら抱きついてきて抱き抱えたまま闘ったから必死にしがみついてくれたおかげでできた引っ掻き傷だ。残念ながらな」