タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2023/12/16 スモーカー
今ならしんでもいいよ・背に残る猫の爪痕・今は痛みすら幸せだ
これのスモーカールート
※うふんな雰囲気


 恐る恐る薄目で裸体の男の人に視線を向けて血の気が引いた。特徴的な白い髪と顔の傷跡に心臓が止まったかと思った。同僚のスモーカーくん。の、腕には海賊につけられた傷跡にはとても見えない爪痕、が。ひゅ、と息を呑んだ瞬間、スモーカーくんの目が開いてばちんと視線が絡んだ。と同時に両手を突き出して頭を下げる。

「ご、ごめんなさい」
「……あ?」

 うるせェな、と寝起きで機嫌が悪いのか低い唸り声が降ってきて俯いたまま視線を泳がせる。今何時だ、とシーツが擦れる音がしてスモーカーくんがごそごそと寝返りを打ったのがわかって少しだけ視線を戻したのが失敗だった。スモーカーくんの太い腕だけじゃなく、広い背中にびっしりと赤い爪痕がそこかしこについていてとてつもない大罪を犯してしまったことを悟る。やらかした。

「まだ朝になってねェじゃねェか、……何してんだ」

 ちゃんと寝ろよと呆れた声は私に振り返って引いたような音になった。ベッドの上で正座で、両手を突き出して、顔を俯かせながら謝罪する私は間抜けで滑稽に見えるかもしれないけど今の私にできる精一杯な謝罪の形だから引かないで怒ってほしい。

「ごめんなさい、スモーカーくん、私、おそっ、おそっちゃ、襲っちゃって、」
「……はあ?」

 こんな状況なのに二度寝をしようとしてるのか起き上がる気のないらしいスモーカーくんは寝転んで肘をつきながら私を面倒そうに見ていて私の方が困惑する。

「……ああ、寝たからか」
「寝ッ、……ご、ごめんなさい、た、逮捕して……」

 状況証拠だけじゃなく決定的な言葉を聞いてしまって項垂れる。やってしまった。胸を張って立派な人間だと言えるほどできた人間だと思い上がっていたわけではないけど、立派な行いをしようとこの職についたくせに、お酒を飲んで現れた本性がこんなに醜いものだなんて自分でも思わなかった。最低だ。

「なんでおれじゃなくてお前を逮捕するんだ」
「す、スモーカーくんは付き合ってもない人に絶対手出さない、から、……だから、その、そしたら、私が襲った……はずだから、」
「……お前、今までも酔っ払って誰か連れ込んだことあるのか」

 ほお、と楽しげな音のはずなのにどこか底冷えするような声で前科を聞かれてぶんぶんと首を横に振る。そんなわけない。こんなやらかしははじめてで、だから混乱して、スモーカーくんに対して心底申し訳なく思って、それからこんな酷いことをしでかしてしまった自分をひどく軽蔑してるのに。

「おれがお前に抵抗できねェと思ってるのか?」
「そ、……いや、……でも、……それは、なんかこう、お、脅して……?」
「脅してまでおれと寝たかったのか?」
「え、……ええと、……」

 詰められれば詰められるほどよくわからなくなってくる。スモーカーくんのことは確かに人として尊敬してるし好きだけど、脅してまで寝たかった願望が私の心の奥底に隠れていたらしいことが不思議で突き出していた両手首がだんだん落ちていく。ちら、とスモーカーくんを覗き見れば肘をつきながらあくびをして寝転んでいて、襲われたはずなのに悲壮感を全く感じられない。いやいや、表に出してないだけで傷付いてるのかもしれないし、とまた首を振って改めて反省する。

「……そこで考え込むのか。ムカつくな」
「むか、……?」

 チッ、と舌打ちをされて肩が跳ねる。でもそうか。お酒に酔って襲ったくせに、素面に戻ればそうでもないなんて言われたら、襲われた被害者としてはじゃあなんで襲われたんだと腹が立っても仕方がないはず。

「ご、ごめんなさい、スモーカーくん、ほんと、その、た、たいほ……」
「何の罪で?」

 なんだか急につまらなそうに枕に後頭部を投げ出して投げやりになったスモーカーくんが天井に吐き出すようにして言った言葉に戸惑う。

「えっ、……お、襲った……罪……?」
「襲われてねェよ」
「えっ、……ご、合意……?」

 そんな、まさかと驚きに思い切り顔を上げて口から溢れた言葉に盛大な舌打ちを返されてびくっと肩が跳ねてしまう。

「ヤってねェ。この傷は飲んでた酒屋でカップルの客が大喧嘩し始めてばりばり引っかかれただけだ。なまじ海賊でもねェ一般人の喧嘩で女相手だったから手こずった。飲んだあとで大仕事したせいで悪酔いしたお前をほっとくわけにもいかねェから近くの宿屋に連れ込んだだけだ。ヤってねェ」

 スモーカーくんの説明にほっとして崩れ落ちるようにベッドに寝転がる。よかった。お酒でやらかして人を傷付けていたわけじゃなかった。

「よ、よかったぁ……」
「良くねェよ」
「えっ」
「チッ」

 また深い舌打ちをされて寝転んだままスモーカーくんの横顔を恐る恐る見る。

「良くねェ」

 クソ、と舌打ちをする姿に、何が、なんて聞けなくてぎゅっと唇を引き締めたまま天井を睨みつけるスモーカーくんの横顔を見つめることしかできなかった。