タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/03/23


「キャプテン愛してる!」
「……おう」

 ありがとう、の代わりに愛してると叫ぶ女に一拍置いて返事をする。その一拍の間に女は身を翻したからおれの返事はたぶん届いていない。コラさんの重みのある「愛してる」を身に染みて知っているから、あの軽い「愛してる」を初めて聞いた時にはむしろ怒りさえ湧いた。敵を代わりに排除して「愛してる」、怪我をした場所の手当をして「愛してる」、高い場所にあった荷物を代わりに取ってやって「愛してる」明日の天気を教えて「愛してる」「愛してる」「愛してる」。愛してる、の言葉はそんなに簡単に言うもんじゃねェ。コラさんのあの愛してるの言葉の意味を軽くするようなそれに沸々と込み上げる怒り。最初の頃は苛々して睨み付けたりしていた。だけどよくよく考えれば馬鹿にされてるわけでもない、寧ろ感謝の言葉として使っているだけなのに怒りをあらわにするおれの方が大人気ないということにふと気付いた。生きていた環境の違いだ。あいつはありがとうの代わりに愛してると言える良い環境にずっといて、それがなんの因果か今では死の外科医と呼ばれるおれをキャプテンに海賊なんかやってるがその平和な生活習慣が抜けないだけ。
 そう納得して怒りをあらわにするなんて大人気ないことはしないようにはなったがそれでも、あいつの中では挨拶だろうとおれの中では特別で重みのある言葉なわけで急にぶつけられる愛してるに反応が鈍くなるのは仕方がない。

「愛してるだって、良かったねキャプテン」
「あ?」

 頭では理解してるのに心が愛してるを咀嚼しきれなくてぼんやり突っ立っていたおれにベポが急に話しかけてきて声を漏らす。良かったね? いやまあ、キャプテンがクルーに慕われるのは良いことだろうがあいつのあれは軽い挨拶なわけで。挨拶、ということはこいつらも、ベポはメス熊にしか興味がないからいいとして他の男どもにもあの挨拶を繰り出していることにふと気付いて眉根を寄せる。

「あいつはなんでもかんでも愛してるだなんて言うが、万が一他の男があれを本気に受け取っちまったらどうするつもりなんだ」
「?」

 案の定メス熊ではないあいつは恋愛対象外のベポはあれを挨拶だと思っているから不思議そうに首を傾げている。ハートのクルーたちはあれを挨拶だと認識しているだろうから万が一にも引っかかるバカはいないだろうが、島に降りて見知らぬ男にもあの挨拶をしてしまえばどうなるかなんてわかったもんじゃない。一度釘を刺しとくべきかとため息を吐こうとしたのにおれではないため息が聞こえて目を向ける。ベポが思いきりため息をついていた。

「そんなことにはならないから大丈夫だよ」「……どうして断言できる」
「見てたらわかるよ。あーあ、かわいそー」

 かわいそかわいそと繰り返しおれから離れていったベポに訳もわからず心が傷付く。だってあいつ、ウワって目でおれのこと見たぞ。ベポのあんな蔑むような目初めて見た。なんでだ。おれが何したってんだ。
 傷付き無意味にさまよっていたのかいつの間にかクルーが集う食堂にいて足を止める。おれが可哀想なものを見られるような原因になった女が呑気に重たそうな荷物を運んでいて、ペンギンがそれを代わりに持ってやっていた。またあの挨拶が出るぞ、と頭を悩ませているそれが飛び出すことにげんなりしていたのに、

「ありがとう!」
「どういたしまして、これどこまで運ぶんだ?」
「えっとね、第一倉庫室」

 おれにまで届く大きな声で発した言葉は愛してるなんかじゃなくて言葉通りの意味合いのそれで固まる。

「おれも手伝おうか?」
「ありがとう!」

 どこから現れたのかシャチも飛び出てきて、なのにあの女から発せられたのはまた普通の言葉で目を見開いた。どういうことだ。頭で考える前に体が勝手に動いて三人の元へ歩み寄って、荷物を能力で移動させた。

「わっキャプテン! さすが! 愛してる!」

 急に現れたおれに目を丸くしつつ、だけどおれにはまたあの挨拶。挨拶……?
 おれは何を聞いていたんだ。何が、軽い愛してる、だ。私まだ用事の途中だから、と踵を返したあいつの髪に隠れた耳は真っ赤に染まっていて、ドッ、と心臓が変な音を奏でて固まった。