タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/03/24


 レディ、と囁く声はサンジくんの作るクリームのように甘い。だけど美味しいと思ってふらふらと近寄ればそれは猛毒の罠。今のところ毒に気付かずそれに引っかかってしまったレディはいないけど、毒だとわかっていて自分から引っかかろうと考えているレディは実はそこかしこにいたりする。私含め。

「なんちゃって」
「ん? 何か言ったかい?」

 しゃかしゃかと生クリームを楽しそうに泡立てているサンジくんを眺めながら笑えば当のサンジくんが不思議そうに首を傾けている。キッチンに立っているサンジくんは本当に幸せそうで私の頬もだらしなく緩む。

「んー、サンジくんの手にかかれば毒でも美味しい料理になるんだろうなと思って」
「?」

 だけど一度でも食べたらやっぱりどんなに美味しくても毒だから後悔するんだろうな。食べてしまえば毒だけど、浴びるだけなら愛情。どんなに美味しくても毒を食べてしまえば一瞬で終わってしまうけど愛情は一生枯れることはない。それがわかっているからみんな引っかかりたいという欲をどうにか理性で踏ん張っている。
 私の訳のわからない言葉にぽかん、と口を開けて不思議そうにするサンジくんが突然何かに閃いたように目を輝かせて持っていたボウルを一旦置いてキッチンの引き出しをごそごそと漁り出したから今度は私がぽかんとする。あったあった、と満足げな甘い声を落としたサンジくんの手元にはレディ用の小さなスプーン。

「どうぞ」
「え?」

 スプーンで掬っただけなのに綺麗に角が立って、まるで盛り付けられたかのような生クリームを目の前に差し出されて瞬く。

「? 待ちきれないのかなと思って……」

 ちょっとだけ味見、とにっこり笑うサンジくんは、料理に思考回路を占領されきっていて、あーん、の形になってしまっているのに気付いていないのかいつものメロリンが鳴りを潜めている。もとよりサンジくんにはわからないようにぼやかして言ったけど、あの言葉を毒でも食べてしまいそうなほどお腹が空いていると解釈したサンジくんの脳内に思わず笑ってしまった。そういうことじゃないんだけどとくすくす笑う私を見て、あれ違った?とスプーン片手に困っておろおろしはじめたサンジくんに、あ、と口を開く。途端に幸せそうに花開いた笑顔でそっと私の口の中にスプーンを差し入れてくれて、私の口の中で幸せがお祭り騒ぎ。

「おいしい」
「よかった。あとちょっとで出来上がるから待っててね」