タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/02/04 ゾロ
凍土に眠る恋心・吊り上った唇に目を奪われる・ときめきをください
※なんでも許せる人向け
※現パロ


「ゾロはそういうことしない人だと思ってたのに」

 軽蔑しきった声が聞こえて固まった。痛くも痒くもない力で振り払われた手が、驚くほど痛くて喉が締まる。きゅ、と変な音を立てて息ができなくなった。手を、繋ぎたかっただけだった。そりゃまあ、付き合ってもないのに手を繋ごうとしたおれも悪い。が、空気を読むことが不得意なおれでも良い雰囲気だと感じ取れたから、少しの手繋ぎくらい許されると思って。お前もおれのことを満更でもないと思ってくれてたように感じていたのは恋に浮かれた男の気のせいで、おれはそんなにも冷え切った目を向けられるほど酷いことをお前にしたか?

「わ、……るい、」
「……ひどい」

 言葉にされて余計に胸が痛くなる。そんなにか? そんなに、酷いこと、したか? それとも、おれのことが嫌いだったか? だからそんなに嫌悪感たっぷりに涙を滲ませて、汚いものにでも触れたかのように手を胸元で覆い隠してるのか?

「ゾロは、浮気なんてしないと思ってた」
「…………は?」
「一途な人だと思ってたのに」

 ひどい、と涙がこぼれた姿に固まっていた体が反射で動いた。いや、と震える声を出して伸びたおれの手を避けるように目を閉じて一歩後ずさったから結局その涙を拭うことはできなかったが、心に刺さっていた太い針は引っこ抜けて避けられることのない口を動かす。

「浮気なんてしねェ」
「手、繋ぐくらいは浮気じゃないって? そういう人も、いるだろうけど、……私は、浮気だと思う」
「違う! そうじゃねェ、前提が違う、恋人もいねェおれが浮気なんてできるわけねェ、違う、……おれは、ずっと独り身だ」

 開いた目が不思議そうにおれを見つめて何度も瞬くからその度に涙がぽろぽろとこぼれおちて、それを拭いたいのにさっき逃げられたのを思い出して尻込みしてしまう。でも、誤解が解けたなら、手を伸ばしてもいいんじゃないのか。恐る恐るもう一度手を伸ばせば驚いたように視線が揺れたけど今度は後退られず、頬に触れることができて張り詰めた息をホッと吐き出す。ハンカチなんて洒落たもんは持ってないから服の裾で涙を吸い取ってじっと反応を待った。

「……ゾロ、彼女、いるって」
「誰から聞いたんだよ、そんな根も葉もねェ嘘」
「み、……みんな……?」

 みんなって誰だよ、締めるにもそんなに範囲が広けりゃ手の出しようがないだろ。頑張って出所を思いだせ。だってそいつのせいでおれは好きな女に浮気する男だと思って軽蔑されきった顔と声を向けられて、浮気相手に選ばれる軽い女だと思われたことが屈辱で泣かせてしまったんだろ。絶対にそいつを見つけ出して締め上げねェと気が済まない。

「ご、……ごめんなさい、ゾロが、浮気なんてするはずないのに、酷いこといっぱい言って、傷付けて、」

 あと、こいつに謂れのない罪悪感を植え付けた落とし前も取ってもらわないといけない。

「傷付いてねェっつったら嘘になるが、……お前は悪くないだろ、謝るな」

 悪いのは全部、よくわからん嘘を流した輩だ。止まった涙に安心して手を下ろす。

「でも、」
「謝んな」

 うん、と渋々ながら頷いた姿に安心して気を取り直す。なあ、じゃあ、あんなにも軽蔑しきった目でおれを見たのは、おれを彼女持ちだと思ったからなんだよな? なら、彼女持ちじゃないと知った今なら、お前に手を伸ばしても、あんな目は向けられないはず、だよな?
 さっき払われた手を見下ろして、涙に裾が染み込んでいるのに気付く。いや、違う、だめだ。おれじゃなくて、こいつのことをもうこれ以上少しも傷付かせたくない。変な誤解を与えたくない。あやふやな関係になんてなりたくない。最初から、おれが一言勇気を出せていれば、おれが傷付くことはあってもこいつを泣かせることなんてなかったのに。だから、おれがやるべきことは、ひとつ、で。ぐ、と気合を入れて顔を上げる。

「お前と、手ェ、繋ぎたかったんだ」
「え、」
「お前のことが好きだから、……浮かれて良い雰囲気だって勝手に思い込んで、そんで、……」

 そこからはお前も知ってるだろ、と言葉を濁してしまう。何度もまつ毛を揺らすその瞳に軽蔑の色が少しも乗っかっていなかったことに安堵して、もう一度口を動かす。

「お前と、手、繋いで歩ける関係に、なりたい」