タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/02/11 スモーカー
アンバランスな心・全てが蕩けていく・不埒な手の行きつく先
※セクハラ表現


「……えっち」

 は、と息を呑んだ瞬間、ぺちん、と痛くも痒くもない払い方をされた手が反射で煙に溶けた。狭い通路を器用に後ずさっておれから距離を離しながら目尻をほんの少し赤く染めて睨み付ける女が、ついさっき、三文字の訳のわからない言葉を放った。

「ごめん、うそ、他の人ならセクハラで怒るけど、スモーカーくんにはほんとに下心も何もないのはわかってる、たしぎちゃんの体であんなことするくらいだし、……あれはちょっと下心なくても周囲の目もあるし酷いけど、……でも、今のは、ほんとに私が大袈裟だった、ごめん」

 でも、恥ずかしくて。
 ふ、と伏せられた瞳が潤んでいて固まる。泣く、のか。瞬きするたびにしたまつげが濡れるからヒヤヒヤする。固まったまま観察して何度瞬いても大粒の涙が溢れ始めなかったことに安堵した。泣いてない。ほっとして、固まっていた思考回路が急激に働き出した。泣かせる一歩手前までのことをおれは、こいつにした、らしい。ぺちんとはたかれた手はもう煙から形に戻っていて、縫い付けられたような視線を剥がして手を見下ろす。この手を、はたかれた。どこから? 考えて、また視線を落とす。どこから、弾かれた? ぺちん、とはたかれる前に触れた何かは、柔らかかった。柔らかかった何か、は、なんだ? セクハラ。下心。大袈裟。他にも何か言ってた。じっと考えて、思い出した瞬間、動揺で手が煙となって霧散した。泳ぐ視線の先で捉えた女はまだ目を伏せていておれの醜態には気付いていない。よかった。よくはない。
 この、今は煙となってしまってかたどることができない手が、こいつの尻、を触ってしまった。
 わざとじゃない。答えにすぐに辿り着くことができなかったのが証拠だ。本当にわざとじゃない。書類やら海賊どもからの押収品やら証拠品やらが積み重なって通路が狭くなっていた。おれの通る道にいたから、ここしか通る場所がなかったから、こいつの背後を通り抜けようとした。みっちり詰まった通路ではおれのデカい図体はこいつのどこかに触れるのは当たり前で、それが、おれの手と、こいつの尻、で。つまり、事故、で。本当にわざとじゃなかった。むさ苦しいあいつらとなら余計に、ぶつかり合うことは多くて、狭い通路じゃお互い様で。尻に触るつもりなんてなかった。本当に。下心だって、なかった。言われなきゃ、尻に触れたことにさえ気付かなかった。本当だ。
 なのに、涙をこぼしはしていないがその一歩手前になった濡れた瞳を伏せるまつ毛が何度も揺れて、ちら、と視線がぶち当たった瞬間、ごくりと喉が鳴ったのに女は気付いてしまっただろうか。

「……いや、……怒ってくれ」
「え? ……いいよ、別に、ほんとにちょっと当たっただけで、スモーカーくんに下心ないのはわかってるし、」
「……いいから。怒れ。殴ってくれ。頼む。おれが悪かった」

 頬をほんのり染めながら首を振る女に、たった今下心ができてしまったから、とは言えなくてひたすら同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。