タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2024/02/27 スモーカー
どこにいけば君に出会えますか・常春の楽園・全部奪って、跡形も残らないように
※転生現パロ
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名前を呼ばれた瞬間、やばい、と反射的に踵を返したのに一番反応が遅れた腕が後ろに取り残されていて、ぐ、と力強く引き寄せられて捕まった。一度も捕まったこと、なかったのに。長い間、逃げ切れていたのに。当たり前のように脳が悔しがって、首を傾げた。私はそもそも何から逃げて、誰に捕まったことがなかったんだっけ。私の手首をしっかり掴んでいる手の感触も、背中に感じる熱い体温も、煙草の匂いも、初めて知るものばかり。やばい、と反射的に逃げようとしたくせに、私を拘束するこの手は私に痛いことなんてしないと確信していて抵抗もせず考え込めている。脳が、体が、何かを覚えていて、だけど思い出せなくて、手首を掴まれるだけじゃなくしっかり回されたお腹の腕をじっと見て考える。
なんだっけ。私はずっと、何から逃げていたんだった? なんで捕まっちゃだめだった? どうして今は逃げなくていいんだろう? 手首を掴まれお腹に手を回されて、知らない男の人に拘束されているんだから怖いだとか思わなきゃいけないはずなのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
わからなくて、頭を上げる。誰かが私を見下ろしていて、逆光でその人の顔がよく見えなくて目を細めた。よく見えない唇がまた私の名前を紡いだ瞬間、頭の中を長く楽しかった物語が駆け巡ってその人の輪郭がしっかりと視界に飛び込んでくる。
「すも、」
「ようやく見つけた、」
ぐ、と腕に力を込められてお腹が圧迫されるだけじゃなくてほんの少しつま先が地面から浮いた。悲鳴が勝手に口からこぼれ落ちて思わず縋るようにお腹に巻きついた腕を安全バー代わりに掴んだのがいけなかったのかもしれない。絡みついた腕を引き剥がそうとしたとでも思ったのか更にきつく締め付けられて圧迫された。うぐ、と呻けばほんの少し力が弱まって、だけどお腹からこの太い腕が離れることはなかった。
「なんで逃げようと、……“今”もなんかやらかしてんのか」
睨み付けられて首を振る。そんなわけない。冒険はもうお腹いっぱい楽しんだ。今はもう誰かが誰かを支配することなんてない平和な世界で、だから、私も普通に毎日を生きてて、それで、……だけど、ずっと逃げてたから。“昔”、私は海賊で、スモーカーは海軍で、逃げて、追いかけられる関係だったから。思い出してもいなかったくせに名前を叫ばれたら反射で逃げ出してしまうほど、それが体に染み付いていただけ。急激に流れ込んできた記憶に“昔”に引っ張られるせいか坐りが悪くなるだけで、“今”は何も悪いことなんてしてない。
「勝ち逃げしやがって」
憎々しげに呟かれてあげていた顔を思わず伏せた。そりゃ確かに“昔”は散々ルフィたちと一緒にはしゃいで迷惑をかけたけど、“今”の私にそれをぶつけられてもどうすればいいのかわからない。あの世界でずっと揺らがず正義を掲げることを貫いてくれたスモーカーに好感を持っていた私たちと違って、私たちのことをきちんと海賊として見て捕まえようとしていたから“今”のうのうと生きている私を見て勝ち逃げしたと腹が立つのはわかるけれど困ってしまう。だけれども、ごめん、と思ってもいないことを言う方が余計に苛立たせてしまいそうで黙り込むことしかできなかった。離して、と言うのもなぜだか怒られてしまいそうで血管が浮いている太い腕を見下ろして考え込む。どうすればいいんだろう。
「……あれだけ派手に暴れ回ったんだから満足してねェわけねェよな?」
きっと、充実しきっていたから未練なんて一つもなくて、だから今の今まで忘れていた。泣いた記憶も悲しい思い出もあるけれど、みんなと一緒だったから全部幸せで、満足な人生だった。
「うん、すごく楽しかった。スモーカーは?」
「楽しいわけねェだろ。お前ら海賊どもが暴れまくるせいで休む暇もねェし、たまの休日だって始末書の山で、結局最後までちゃんとした休みは取れなかった」
チッ、と舌打ちされて苦く笑う。せっかく空気が和らいだと思ったのに。“今”は本当に何もやらかしてはいないけどやっぱりスモーカーにとって私は海賊のままでどうにかこうにか“昔”の鬱憤を晴らしたくてたまらないんだろうか。それも仕方ないかな、と“昔”の自分を思い出して甘んじて受け入れようともう一度見上げた瞬間、ずっと私を見下ろしていたのかばちんと視線が絡んで瞬く。
「……ずっと捕まえたかった」
逃げ切りやがって、と降ってくる声はさっきと同じで憎々しいけど、憎悪ではなくて首を傾げる。
「ずっと探してた」
ひとところにとどまることのなかった“昔”の話? それとも“今”? 海軍でも海賊でもないんだから、“今”の話なわけがないのに、重ねて降ってくる声は“今”の私の耳に滑り込んでくる。
「……おれは楽しくねェのにお前はいつも逃げながら笑ってやがった」
恨み言を言われているはずなのに、なんだか変で頭が混乱する。ぐ、と力強く抱きしめられてからお腹に回った腕も手首に回された手もゆっくり解かれてほんの少し浮かんだ足が地面にくっついてたたらを踏む。
「だから、また、……逃げてもいい」
とん、と背中を押されて逃がしてくれたのに、悪い海賊でもない今は逃げる意味を見出せなくて思わず振り返る。
「だが、何度だってさっきみたいに捕まえる」
「……私、“今”、何も悪いことしてないのに」
「“今”のおれは“昔”のお前を見習って悪い奴になったんだ」
スモーカーと、悪い奴、があまりにも結び付かなくてぽかんと口を開いて見つめることしかできない。
「欲しいものは手に入れる。お前ら海賊どもがよく言ってただろ」
ふん、と鼻を鳴らして私を見下ろすスモーカーに呆然とする。言ってることはわかるけど、言われた意味がわからなくてぐるぐると思考回路が絡まっていく。“今”の私は悪いことなんて何もしてないんだから逃げる必要はないはずなのに、じり、と反射的に足が後退して、逃げなきゃ、とぐちゃぐちゃに絡んだ思考回路がそれでも危険信号を放ってきたから訳もわからず逃げ出した。
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