タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2024/03/03 スモーカー
離れないで、離さないで・合わせたてのひら・眩しすぎる笑顔
※没
▼
「……なんだ」
おれの手を引ったくるように掴んだ女が指を一本一本伸ばしておれの手を開こうとするからとりあえず協力する。軍手をすっぽり脱がされて、おい、と言う間もなく代わりに乗せられた女の手に瞬いた。なんだこれ、小さすぎねェか。
「……思ったより大きかった……」
おれと正反対の感想を同じように呟かれて眉間に皺が寄る。男と女だ。女のこいつより男のおれの手の方がでかいのは当然で、分かっていたくせにその事実を目で確認して驚いてしまった。手首と手首を合わせて比べたかと思えば指の腹同士を合わせて比べてはうんうん唸り込んで、爪の伸びた分まで含めたりして足掻こうとしているがどう頑張ったってこの差は埋まらない。
「スモーカーくん、手、おっきいね」
さっきのは独り言だったのか顔を上げて改めて言われた同じ言葉にああだのうんだの変な相槌を返した。なんて返すのが普通なんだ。そうだな? 男と女なんだからおれの方がでけェのは当たり前だろ? お前の手は思ったより小さいな? どれを選んでも女の楽しそうな顔に水を差してしまいそうでまごついた。にっこり緩んだ目がおれから離れて、あっ、と楽しそうに声を跳ねさせたからつられて視線をうつして舌打ちをしそうになる。図体のデカい男どもが浮かれているのを少しも隠しもせず女に視線を向けながらじりじりと近付いてきていて、睨み付けてもおれが視界に入っていないのかおれの苛立ちに気付かない。
「ねえ! こっち来て!」
「あ?」
いつだってこの女に近付こうと目論むガサツな男どもをあろうことか自分から呼び寄せたことに低い声が漏れたのに、おれの手を離して手招くことに夢中な女は隣のおれの変化に気付きもしない。
「手、貸して!」
呑気に飢えた獣どもを餌が手招いてぶわりと全身の毛が逆立った気がして固まる。手、貸して、だと? まさかお前、さっきのアレをあの野郎どもにもしようとしてるんじゃねェだろうな。手?と不思議そうに自分たちの両手と女を見比べつつ鼻を伸ばしながら近付いてくる馬鹿どもに今度こそ舌を打って手招く女の手を覆い隠した。驚いて目を丸くしながらおれを見上げる女の背後でいそいそと近付いてきていた奴らの足が急ブレーキをかけたかのように止まったのが見えて頷く。そうだ。近寄るな。おれの存在にようやく気付いたのかへらへら頬を引き攣らせながら後ずさる姿に顎で散れと示せば蜘蛛の子を散らすように逃げていったから満足した。スモやんのケチ、だのなんだの言ったやつは後で締める。
「……あ、……あー……なんで追い払っちゃったの……」
「なんでも何も、そもそもなんであいつらを呼んだんだ」
「え? 手の大きさ知りたくて……スモーカーくんの手、思ってたより大きかったから」
わかりきっていた返答にため息をつく。
「自分から餌になってどうする」
「……えさ?」
「お前と手繋いだだのなんだのあの馬鹿どもが調子に乗るだけだろうが」
「?」
首を傾げて何一つピンと来ていない警戒心の無さに呆れ返る。
「あいつらにべたべた手ェ触らせてやる必要ねェだろ」
「……? そんなことしないよ」
否定しながらおれに覆い隠された手を振り払う素振りすら見せないから思わず睨みつける。触らせてんじゃねェか。おれの拳にすっぽり隠された手を、こんなふうにあいつらにも触らせるつもりだったんだろ。それは、駄目だろ。駄目だ。何がって、あいつらは、女に飢えてて、手なんか触らせてみろ、勘違いに勘違いを重ねてどう暴走するか分かったもんじゃねェ。みんながみんな、おれみたいに突っ立ったままでいるとは限らない。
「男にべたべた触るもんじゃねェ」
「そんなことしないったら」
「してんじゃねェか」
今も、さっきも。小さな手は相変わらずおれの手に隠されたままで、全く逃げようとしない。しないよ、と唇を尖らせて拗ね出した女に舌打つ。
「スモーカーくんとみんなの手、比べてみたかったのに」
「…………あ?」
捕まえていない方の手でまた指を一本一本広げようとしてくる女が放った言葉に気が抜けて、されるがままに隠していた手を掘り出されてしまう。おれの手、と、あいつらの手。……お前の手と、あいつらの手、ではなく? 無駄に追い払わなくてもお前の手があいつらの手に汚されることはなかった? おれの手とあいつらの手を比べるために呼び寄せて、……想像だけで嫌気がさした。
「……どっちにしろ追い払って正解だったな」
脱力して無防備に放り出されたおれの手に、ぺち、とまた手のひらを重ね合わせてきた女に呆れる。
「……あいつら相手にこういうことするなよ」
とりあえず何もわかっていなさそうだからもう一度釘を刺してため息をつく。おれの手で遊びながら楽しそうにする女が顔を上げて、きゅ、と指と指の間に細い指を滑らせて握り込んできて、脱力し切っていた体が硬直した。なに、
「勘違いされちゃ困るし好きでもない男の人のことべたべた触ったりなんてしないよ」
← →