タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/03/10 ロー
誰も知らない二人だけの秘密・抱き締める腕の強さ・ゆっくりところしてあげようか
※没
※なんでも許せる人向け


 クルー全員に内密で決めた宿の窓から女を見つけた瞬間、気がはやって能力を使ってしまった。何度やっても新鮮に驚く顔が好ましくて何度も同じことをやってしまう。その度に、もう、と形だけ怒ってみせながらも仕方ないなあなんて甘やかしてくるから誰だってこんなの調子に乗るだろ。おれ以外に同じことしてたら相手の男を切り刻むが。手の中の小石と女を入れ替えたから腕の中に簡単に捕えることができた恋人をぎゅうっと強く抱きしめた。案の定、もう、と胸板を一度強く叩かれたがすぐに抱き締め返してくれたからおれはまた反省できない。する気がない。
 腕の中にいる女と恋人関係だと誰にも言っていない。人目のあるところでは特別な関係だと匂わせることはせず、一クルーとして他のクルーと平等に扱っている。気をつけているせいか逆に他のクルーよりも厳しく接してペンギンやシャチにもう終わりにしましょうと嗜められることも多々あった。けじめとは言え好きな女に嫌われたくなくて島に上陸してふたりきりになった時に謝ろうとしたこともあったが、あれは私が悪いんだからキャプテンとしては正しいしそういうところを好きになったんだから謝る方が嫌いになる、なんて言われれば口を噤むしかなくて、他のクルーには寧ろおれたち二人は仲が悪いと思われているかもしれない現状だった。恋人なのに。
 キャプテンの矜持が惚れた腫れたで損なわれたりするわけがないのはわかってる。あいつらがおれのやることにケチつけたりしないこともわかってる。建前を捨てて本音を言えば遅れてきた思春期が大暴れしていて、恋人を紹介するのがただ照れ臭いだけだ。腕の中にいるこいつを恥じているわけじゃない。どこに出しても恥ずかしくない恋人だ。いつか思春期を隅へ押しのけることができても、守る為に隠した方が良いのはわかってる。オペオペの実を食べた男の恋人なんて、いろんな方面から狙われてしまう。結果的に守れているから遅れてやってきた思春期も少しだけ役に立った。そうじゃなければ浮かれて馬鹿みたいに全世界に自慢してたはずだ。

「くるしい、」

 浮上が久々すぎて力が加減できなかったのか最初はくすくす笑っていた音が苦しげに呻いて慌てて力を緩める。ほんの少しだけ隙間を作って見下ろせば、また仕方ないなあという慈愛の目で見つめられて思わず額に唇を引っ付けた。

「悪い、……久々で加減が効かなかった」
「許してほしいならおでこじゃなくて口にして」

 怒ってなんかいないくせにわざとらしく怒ったふりをして甘やかしてくれる恋人にキスをする。

「……不審がられないか?」
「何が?」
「抜け出すことを」
「大丈夫だよ」

 おれは放浪癖があるから上陸中ふらりと消えてもいつものことかと思われるが、こうして秘密の逢瀬を重ねるたびにお前は誤魔化したりなんだりが大変だろう。おれのせいで苦労をかけるのは申し訳ないと思うくせに、クルーたちに言うのはまだ覚悟が決まらない。世界中に自慢するのはリスクしかないが、信頼してるクルーにくらいいい加減言わなければいけないのはわかってる。ケチをつけたりしないことはわかっていても、冷やかしはしてくるだろう。それが思春期真っ只中の心をどう暴走させてしまうかわからなくて踏ん切りがつかない。

「……いつもこそこそさせて悪い」
「そんなことないよ」
「いつか、一緒に船からデートに行こう」

 楽しみにしてる、と笑う恋人にたまらなくなって懲りずにまた力強く抱きしめてしまった。流石に怒られた。悪い。

  ▼▼蛇足

 私の尊敬しているキャプテンはかっこよくて頭も良くて頼り甲斐のある男なんだけど、私の大好きな恋人は可愛くてちょっと馬鹿。ぎゅうぎゅうと私を抱きしめソファに座る恋人のふかふかな帽子を脱がせてよしよしとつんつんした髪の毛に隠れた丸い頭を撫でる。呻いてしまうほど力強い抱擁は愛されてる証だから骨がみしみし悲鳴をあげてもちょっとこらってするだけで許せてしまうのだけど、匂いを嗅ぐように私を吸い込むのだけは毎回やめてほしいなの気持ちになる。デートなんだからもちろん身嗜みも完璧なんだけど、ちょっとやだ。でも無意識にやってるだろうから指摘はしない。
 だって、吸うのやめて、なんて言ったら、思春期大爆発中の可愛い恋人が固まって動けなくなっちゃう。
 みんなに付き合ってることがバレてしまうことすら照れて隠してしまう人なのに、無意識に恋人の匂いを吸うだなんてことしてたって自覚したら気絶しちゃうかもしれない。遅れてきた思春期は明らかに私が初恋であることを示していて、胸をきゅうきゅうと締め付けてくるから可愛らしい恋人のペースに合わせてあげたい。
 ペースを合わせてあげたい、のに、それが崩れる日もたぶん近い。ローはいつも私にこそこそさせてしまっていると申し訳なさそうに私に謝るけれど、こそこそできていると思っているのはローだけだと知ってしまったらどうなるんだろう。ローはキャプテンと恋人をうまく切り替えられていると思い込んでいるけれど、全くそんなことはなかった。キャプテンとしてクルーとの間に一線を引いているつもりで、全くできていない。頑張ってるつもりなのかもしれないけど、目が、声が、他のクルーに対してと明らかに違う。暇さえあればじっと私を見つめているし、声は甘いし、何も隠せてない。キャプテンとしてクルーの私を叱るとき、恋人の私に嫌われてしまわないかと不安になっているのが全身に現れている。そわそわと体が忙しなく動くし、叱っているはずなのに叱られている側のような表情で私を見下ろしていて逆に可哀想になってしまうほど。その姿は地味に心に来るからしっかり説教にはなっているけれど、側から見ればキャプテンの方が辛そうだからよくペンギンやシャチに止められている。キャプテンに説教させないようにしろ、とあとで二人にこっそり叱られてるのをキャプテンは知らない。みんな気を遣って、微笑ましくキャプテンを見守っている。なのに、ローはバレてないと思ってる。賢いはずなのに初恋に溺れて馬鹿になってる可愛らしい恋人が、羞恥で気絶しないようにするためにはどうしたらいいんだろうと考えても答えは見つからなかった。