タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/03/22 クロコダイル
僕の気持ちは僕だけのもの・火に飛び込む虫のように・勇気を出す切欠


 ばたばたと大慌てでクロコダイルさんの荷物をまとめる。クロコダイルさんが誰かと電伝虫で会話をしている最中だから必要なものかどうかはダズさんに聞いてひとまずの取捨選択をして、できるだけ丁寧に素早くコンパクトに荷物をまとめていって、とりあえず一段落ついたと胸を撫で下ろした。

「……お前、自分の準備は大丈夫なのか?」

 ほっと一息をついて壁にもたれかかるだらしない私とは違ってびしっと背筋良く壁際に立ったダズさんに問われて瞬く。質問自体は私の身支度の心配をしてくれているように見える。でも表情が問題だった。立場は当たり前に比べるまでもなくダズさんの方が上だけれど眉を顰め心底呆れたように私を見下ろす姿はほんの少しでも同僚のように過ごしてきた相手に対して優しさのひとつまみもなくてちょっと泣きそうになる。ひどい。これでお別れなのに。

「……そんな目で見なくたっていいじゃないですか。私はダズさんのこと結構好きだったのに、」
「滅多なこと言うな、やめろ、お前おれを殺したいのか」
「ひどい、そこまで嫌わなくたっていいじゃないですか」

 そりゃ別に仲良しこよしの組織ではなかったけど、でも、好意を寄せることすら許されないほど嫌われてたなんて知らなかった。最後の最後にそんな事実突きつけなくたっていいのに。嘘でも良いから最後くらい気持ちよく別れたかった。肩を落として俯く。

「なんだ、お嬢さん、振られたのか?」
「振られました……」
「振ってません!!」

 いつの間にか通話を終えていたのか目の前に大きな影ができて慌てて姿勢を正しながら見上げれば、可哀想にな、と楽しそうに笑うクロコダイルさん。笑われてるけどこんなくだらない会話に付き合ってくれるだけでクロコダイルさんの対応としては優しいから、最後に気まぐれな優しさに触れられて満足する。

「さっきのはそういうアレじゃないんで、巻き込まないでください」

 いつの間にか顔が見えなくなるほど荷物を腕いっぱいに持ったダズさんの声がして視線を向ければ既に踵を返した後で背中しか見えなくて唇を尖らせる。最後の最後に顔すら見せてくれなかった。顔見て挨拶したかったのに。

「ダズさんは意地悪です。クロコダイルさんのほうが優しい」
「……そんな風に言うのはお前くらいだろうよ」

 ふん、ともういない薄情なダズさんに怒りながらクロコダイルさんに視線を戻す。眉を顰めながら私の言葉を受け取りはしなかったクロコダイルさんにへらりと笑う。笑って、無言で見つめ合うのが気まずくてそろりと視線を外す。ええと、最後の挨拶、何を言えばいいんだろう。安全なところまで送ってくれたりしますか、なんて最後にふざけて砂にされたら馬鹿みたいだし、さようなら、だけじゃ私もダズさんみたいに薄情になっちゃう気がするし、適切な態度がわからない。

「荷造りは終わったのか?」
「え、あっ、ちゃんと終わりましたよ! ダズさんが全部持っていってくれました」
「……全部は持ってってねェな」
「え、忘れ物、ありましたか?」

 驚いてまた顔を跳ね上げればばちんと絡まった視線に瞬く。恐る恐る視線を外して周りを見渡しても、特に忘れ物はない、と思う。あったとしてもダズさんがメインで荷造りしてたので怒るならダズさん怒ってほしいな、なんて心の中で薄情なダズさんに罪をなすりつけても今クロコダイルさんの目の前にいるのは私だからどうしようもない。
 最後の最後に叱られるのやだなあ、なんてしょんぼりした瞬間、さらりと砂の音がして息を呑む。えっ、まさか、そんな。最後の最後に叱られるほうがまだましだった。最後の最後に砂にされてしまうことを察知してぎゅっと固く目を閉じる。砂になるのは痛いのかな、つらいのかな、クロコダイルさんに砂にされた人たちの悲鳴が脳裏をよぎって恐怖で腰が抜けた。のに、いつまで経っても痛くも痒くもなくて首を傾げる。砂にされることが苦しくなくても、腰が抜けて尻餅をついたらお尻が痛いはずなのに、本当にどこにも痛みを感じなくて恐る恐る目を開く。

「……? 死んでない」
「死にたかったのか?」
「死にたくないです!」

 自然に溢れた言葉に恐ろしい言葉が降ってきたから反射的に叫ぶ。砂にされてない。だけど、さらりと聞こえた砂の音は幻聴なんかじゃなくて、私の体に砂粒がたくさん引っ付いて宙に浮いていた。だから腰が抜けたのに尻餅をつかなかった。目をつむっていた時は揺れなかったのに、目を開けた瞬間ふよふよ浮く感覚に慣れなくてバランスがうまく取れなくてあわあわ無様に手足を動かす私に盛大なため息をついたクロコダイルさんが鉤爪に私のお尻を乗っけて固まる。確かに抱き上げられて安定はしたけれど、この状況に安心はできなくて固まったまま腕の中からクロコダイルさんを見上げることしかできない。

「お嬢さんはどうやら逃げられると思っていたみたいだが、おれがそう易々と手放すと思ったのか?」

 クロコダイルさんの言葉の意味がわからなくて恐怖も忘れてぽかんと見上げることしかできない。逃げる、……? 逃げる、つもりはなかった。でも、置いていかれるものだと。だって私は、ミス・オールサンデーより頭が回るわけでもないし、ダズさんのように強いわけでもない。ただ細々としたことを必死で片付けることしかできなくて、お情けで置いてもらえてるだけだと思ってた。だからきっと、ダズさんにそれは必要ないと言われた古びたティーセットと一緒に置いていかれると思っていたのに、どんどんそのティーセットが遠ざかっていく。

「……無理矢理連れていくおれのことも意地悪だと罵るか?」

 は、と笑う吐息が肌を滑ってようやく意識が戻ってきた気がする。

「……わ、私も、ついていっていいんですか?」

 クロコダイルさんが急に止まるからふらついて思わず胸元に縋りついてしまった。恐る恐る顔を上げればじっと真顔で私を見下ろすクロコダイルさんとばっちり目が合って思わずまた顔を伏せる。伏せたらそこはクロコダイルさんの胸なのに。体が大きいから全ての臓器もそれに合わせて大きいのか、少し手を添えるだけでどくどくと心臓が大きな音を立てていて私の心臓も釣られて変な音を立て始めたからどうすればいいのかわからなかった。