タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2024/04/07 スモーカー
言葉にも声にも出来ない・君の総てを飲み干したい・メールじゃなくて手紙がいい
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「スモーカーくんが私のこと好きなのは態度でちゃんと示してくれてるから不安になったりとかそういうこと本当にないんだけど、」
次の言葉を言いにくそうに口を閉じた女に別れ話かと一瞬肝が冷えたが、話の内容はそれとはどうも真逆の気がして反射的に縋らずにすんでほっとした。しっかり考える前に一瞬脳が煙にでもなったのか息もできずに固まってたおかげでみっともない姿を見せずに済んだだけだったが。別れ話じゃなさそうなことに安堵はしたが、不満があるからこうして真面目に向かい合っているわけでまだ油断はできない。次に何を言われても受け止められるように気を引き締める。
「……一回だけ、手紙が欲しいな、なんて。一行だけでもいいから、……もう二度と言わないから、その、」
だめかな、と消え入りそうな声で言われて心臓が変な音を立てた気がした。
「……えっと、……ごめん、うそ、なんでもな、」
「わかった」
「え?」
黙り込むおれに下手くそな笑みを浮かべて冗談にしようとした女に反射で声を投げた。さっきと同じで頭がついてこなかったくせに今度はちゃんと声をあげられたことに安堵する。一回だけ、一行だけ、もう二度と言わない。酷いことを言わせたってことは鈍いおれにだってわかる。世界で一番幸せにしたいはずの好きな女に惨めなことばかり言わせた不甲斐ない男を駆け足で助走をつけて殴りたいのに、自分相手じゃそんなことできない。そんなことをしたってそもそもこいつは喜ばない。今すべきなのは、さっき望まれたことで、がさごそとズボンのポケットを漁る。金や、いつ食べたのかも覚えていないレシートや、よくわからないものばかりが出てきてかろうじてペンを見つけた。
「紙、ねェか」
「え、……、」
今、と不思議そうな声がこぼれたのが聞こえたがもう一度紙、と急かしたおれに言われるがままに机の中から便箋を取り出さして一枚渡されるのを受け取る。机を陣取って、ペンを手に、固まった。勇んだくせに手は動かせない。手紙なんて書いたことがない。始末書や報告書とは勝手が違う。まず最初になんて書けばいいのかもわからない。一行でもいいから、なんて惨めなことを言わせたのに、その一行すらすぐに書けない男なんてすぐにでも三行半を突きつけられそうで冷や汗が背中に浮かぶ。便箋を睨みつけるばかりのおれの左側に座ってとんと頭をもたれさせてきた恋人に内心ぎくりとする。早く、今すぐ一行でも書かなければ。何を、どう書けば。
「ふ、」
見放される恐怖に余計に回らなくなった頭に吐息が聞こえてあからさまに体が揺れた。泣かせた? おれが、あまりに不甲斐ない男だから? 顔を覗き込むこともできずに固まったままぐるぐると考える。
「ふふ、」
焦るおれの耳に滑ったのは泣き声じゃなくて笑い声で固まる。笑っている? 呆れすぎて怒りや悲しみも通り越して笑えてしまった?
「……笑っちゃってごめん、でも、うれしくて」
くすくす嬉しそうに笑いながら左腕に腕を絡ませておれにもたれかかる体温がじわじわと移って冷えた体が解凍された気がした。泣いていなかった。呆れていたわけでもなかった。嬉しい、と笑っていた音だった。だが、わからない。だっておれは些細な望みさえ叶えられていないのに。一行も、一文字も書けていないのに。
「こんなに態度で示してくれてるのに目に見える言葉を欲しがってごめんね」
恋人なら言葉を欲しがるのは当然で、おれが謝るならまだしもお前が謝る必要なんてない。不甲斐ないばかりの男に寄り添うのだっていつかはきっと限界が来る。お前にばかり我慢させて、捨てられるのが嫌だ。だから、一行だけでも書きたいのに。手紙の書き方なんておれにはわからなかった。
「ね、……好きって書いて」
いつまで経ってもペンを離さないおれに、答えまで示されてしまった。情けなさに打ちひしがれるのは後にして、ようやく白い紙に好きだ、の三文字を書くことができた。
「うれしい、ありがとう。私も大好き」
ぎゅう、と腕の力が強まって、ぐりぐりと頭を擦り付けられる。答えをもらって、ただ書き写しただけの言葉に、こんなに喜んでいる。この白い紙いっぱいにおれが考えた、おれの気持ちを書かなければならないのに。本当にただの一行で、こんなにも喜んでいる。
「……捨てないでくれ」
「?! 捨てるわけないでしょ?! 一生大事にする!」
零れ落ちたみっともない言葉に体温が離れて心臓が止まりそうになったのに、放たれた言葉に固まる。三文字しか書けなくて空白が目立つ紙が目の前から消えて驚いて顔を上げれば紙をおれから取り上げて大事そうに胸に抱える恋人の姿。おれを捨てないでくれ、の意味で溢れた言葉なのに、そのたった三文字しか書かれていない紙切れのことだと思ったのかじりじりとおれから距離を取っていた。一生大事にする。今、そう言ったか? そんな情けない経緯の詰まった紙切れを?
「……おれのことも、一生捨てないでくれるか」
言葉が欲しいのは目の前の女なのに、おればかりが望んで、聞いて、本当にいつ見放されたっておかしくない。なのに目の前で嬉しそうに笑いながら当たり前のように頷いてくれるから嬉しくなって、またおればかりが与えられている情けない事実に心臓が締め付けられた。
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