タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/04/20 ロー
堕ち逝く惰性・あなたが好きです・闇に浮かぶ白い首筋


「金が欲しくないか」

 欲しい、と一瞬即答しそうになったけど慌てて口を閉ざす。タダより怖い話はない。普通の人から言われても警戒しなきゃいけないし、同業の海賊からそれを言われたら警戒どころか一目散に逃げるべきだった。だけど死の外科医を肩書きに持つ男の視界に入ってしまったら逃げるにはもう遅くて、それでも警戒だけは解かずにじっとその何を考えているかわからない目を見つめ返す。

「金が欲しいから海賊やってるんだろう」
「……、お金じゃなくてお宝が欲しいの」

 じりじりと後退りながら訂正だけはする。そりゃくれるっていうんならありがたくもらうけど、そうじゃない。お金も欲しいけれど、ただお金が欲しいだけなら真っ当に働けば良い。私はただのお金じゃ満たされないロマンをお宝に求めている。海賊をやっているくせにロマンが何かわからないのか不思議そうにゆっくり瞬いたトラファルガーに警戒も忘れて呆れそうになった。危ない。油断しちゃだめだ。……でも、油断しなくたってきっと目の前の男はいつだって私を細かく切り刻める。警戒を続けようが無警戒だろうが、私の命はこの男の気分次第。それくらい実力の差が離れているのはわかりきってる。だからこそ余計にトラファルガーが私にお金の話を持ち出してきた意味がわからない。トラファルガーにとっては私なんか囮にすら使えないくらい足手纏いで、大金が手に入る何かの計画に一枚噛ませてもらうなんてことありえないはず。

「…………コインはそれに含まれるか」

 それ、って何。一瞬聞き返しそうになったけどすぐにお宝に掛かっていたことを理解して首を捻る。いろんな土地のいろんなコインを集めるコレクターがいるくらいだし、お宝ではあるだろうけど私の趣味にはあまり引っかからない。ふるふると首を振れば舌打ちをされてじりじり後ずさっていた足が止まる。

「……じゃあ首は」
「く、くび……?」

 投げられた言葉に虚勢も吹き飛んで声が震えた。

「億の首は宝にならないか」

 良かった比喩だった。生首を持ってこられるわけじゃなく、懸賞金のかかった海賊を狩る計画に私も混ぜさせてもらう話だった? お宝判定は正直微妙だけど億を超える海賊相手に私ができることなんてそもそもなくて、やっぱり意味がわからない。

「……とりあえず今は三十億の価値がある。そのうち値上がりもするだろう」
「さんじゅうおく、……私、囮にもなれないと思う」

 四皇の懸賞金にぎょっとしてわかりきった事実を改めて口にする。

「? そんなことする必要ねェ」

 トラファルガーだって当たり前のように頷いてくれてほっとする。じゃあ尚更、お宝との引き換えに私に何をしてほしいのかわからない。

「宝が何かわからねェから三十億はとりあえず担保だ。お前が欲しい宝も言ってくれれば必ず手に入れてやる。だからおれの船に乗れ」

 死の文字が刻まれた手が持ち上げられてとうとう刻まれると肩をすくめて目をぎゅっと閉じたけど、耳に滑り込んできた言葉は敵意とは正反対の言葉だった気がして恐る恐る目を開ける。死の文字が刻まれた指は見えずに手のひらが私に差し出されていて、口がぽかんと開いた。

「おれの首だけじゃ不満か?」

 三十億の首は、目の前の男のことだった。お宝を差し出そうとしてそれを否定されたから自分の首をかけてまで私を勧誘してきていた。

「……スカウトだったの?」

 手を差し伸べたまま否定はされない。悪どい取引を持ちかけるような言葉と仏頂面は誤解しか招かない。囮として使う捨て駒でも、命を狙われてるわけでもなかったことに今更ながらに安堵して腰が抜けそうになる。胸を撫で下ろしながらずっと私の返事を待ち続けるトラファルガーに、今度は別の疑問が浮かんだ。いくらスカウトだからって好条件が過ぎる。私にはそんなになってまで勧誘するべき特別な能力なんてない。力も、知識も、きっとトラファルガーの方がずっと上で、トラファルガーに私が差し出せるものなんて何もなかった。ここまで出来すぎたうまい話にはやっぱり何か裏があるはずで、じり、とまた足を引きずって後退する。トラファルガーが私を引き入れて得をすることなんてないのに。

「それ、……あなたのメリットはなんなの、」
「……? 好きな女とずっと一緒にいられる」