タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/05/28 ペドロ
鼓膜を擽る大好きな声・恋に落ちるギリギリ一歩手前・無邪気時々悪魔


「あっ、まって!」
「なぜだ」

 いつものようにガルチューをしようと腕を広げたおれの眼前に小さな手のひらが差し向けられて絶望する。なぜだ。口にも出した疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡る。何か嫌なことをしてしまったのか。ミンク族と人間の文化が違うことは、ここ最近身に染みて理解した。理解はした、が、まだ、どこまでが許されて、どこまでが許されないのか把握できていない。ガルチューも、人間たちはあまり好きじゃないらしい。だがそれでも、目の前の小さな手の持ち主は許してくれていたのに。一度は許されたものを取り上げられるのがこんなにも悲しくなるだなんて知らなくて、耳も尻尾も今までにないほど垂れ下がってしまった。気を遣わせてはダメだと意地で耳も尻尾も上向きにしようとするのにうまくいかない。小さな手越しに見える焦った表情に、嫌われてしまったのかと心臓が痛む。

「……ゆガラの嫌がることはしたくない」

 もうしない、と続けたいのに、どうしても続きを言葉に出来なくて視線を落とす。ただガルチューをしたかっただけなのに。

「ち、ちが、……い、……嫌じゃないの、」

 小さな声を耳が拾ってぴくりと動く。拒否される手を見たくなくて自然と落ちていた視線を戻せば、小さな手は戻されていてまっすぐに表情を窺い見れた。嫌じゃ、ない? 嫌じゃないの言葉で早とちりしたおれの足が一歩近付いただけで、ぴょんと跳ね飛んで同じだけ後ろに下がるその姿は相変わらずおれを拒否していて心臓が変な音を立てて軋む。

「……我慢してまで、することじゃない」

 ガルチューはおれたちにとっては当たり前でも、人間たちには馴染みがなくて、だから、……拒否されても仕方がない。寧ろおれたちミンク族に合わせて、馴染みがないガルチューを何度かさせてもらっただけ、おれは幸せ者なはずで、せりあがってくる何かをぐっと堪える。

「違うの、待って、ごめんなさい、傷付けたいわけじゃないの、私が、私が悪くて、」
「ゆガラは何も悪くない」

 これは文化の違いだ。おれも、ゆガラも、誰も悪くない。仕方のないことなんだ。そう飲み込んだ瞬間、ぴょんと飛び跳ねておれから離れたはずの距離がまたぐっと縮まって息を呑む。懐に飛び込んできた柔らかく毛が少ない体をぎゅっと反射で抱きしめてしまって戸惑う。拒否されたはずなのに、飛び込んできた。なぜだ。一番最初の疑問符がまた返ってきてぐるぐると脳が勢い立てて回転する。

「違うの、その、」

 おれの毛に顔を埋めながらくぐもった声が聞こえてじっと耳を澄ませる。

「親愛の意味なのはわかってるの、わかってる、けど、……」

 言いにくそうに口籠る姿に、文化が違うだとか、人間が照れ屋だとか、そんな問題じゃなかったのかもしれないと今更気付いて肝が冷える。この牙や爪を持つ種族に絡み付かれるのは人間にとってただ怖いだけだったんじゃないか。人間が強いことは知っている。それでも、この柔らかな体はひとつ匙加減を間違えただけでぽっきりと折れてしまいそうで、……だから、それが、嫌だったんじゃないか。

「みんなに同じことしてるのに、私だけじゃないってわかってるのに、」

 ただの挨拶だってわかってるのに、と紡がれて固まる。挨拶を断られて、こんなに傷付いたことは一度もなかった。

「……す、……好きになっちゃったら、ごめんなさい」