タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/06/06 スモーカー
囁く声の甘さ・僕と幸せになりませんか・真綿より両手で
※ヒナ視点
※なんでも許せる人向け


「なァ、話、まだ終わらねェのか」

 いいお店を見つけたの、今度行きましょうと盛り上がっていた最中、不意に低く甘ったるい声が電伝虫から微かに伝わってきて目を丸くする。気を遣って遠くから小さな声で囁かれたみたいだけれど、わたくしの耳にしっかりと届いてしまった。砂糖を煮詰めたかのように甘く低い声は少し拗ねていて、長いこと彼女を独占していたわたくしに嫉妬しているのが手に取るようにわかってしまう。けれど、そこに彼女以外の誰かがいるなんて思わなかったもの。他に誰か人がいたならこんなに長い間おしゃべりなんてしなかった。わたくしだって、それくらいの気は遣えるもの。

「あら、デート中だったの、ごめんなさいね、ヒナ反省」

 焦ったように謝る彼女に頬を緩めながら通話を切って、それからあの煙に塗れた男を思い出して憐れに思う。たしかあの男は彼女のことが好きだったはず。だけど可哀想に、あの男が横入りする隙なんてひとかけらもなさそう。執着の入り混じった甘い声の持ち主は彼女を決して手放さないのがあの一言だけでも十二分に伝わってきた。本当に可哀想。あの男も、わたくしも。お友達だと思っていたのはわたくしだけだったのかしら。良い人ができたのなら真っ先に教えてほしかったわ。


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「あら、スモーカー君。機嫌が良さそうね。ご愁傷様」
「……会話する気ねェなら話しかけるな」

 眉間に皺がひとつもなかったのに、いつもと同じように眉間に皺が刻まれて笑う。可哀想に。なぜ機嫌がいいのかわからないけれど、あなたの知らないところであなたの想い人が誰か知らない人と仲睦まじくしていたんだからご愁傷様でしかないでしょう。まあでも、自業自得よね。好きなら好きだととっとと行動すればよかったのに、じっとただ見つめるだけの不器用さしか見せられなかったんだから仕方ないわよね。

「あなたの好きな彼女、男がいるわよ」

 ぴくりとこめかみが動いて、可哀想だけれど少し笑ってしまう。ご愁傷様、ともう一度呟いて、感傷に浸らせてあげようかしらと踵を返そうとしたのに口を開いたから驚く。あら、あなた、自分で傷口に塩を塗り込むタイプなの? 珍しいわね。

「どうしてそう思った」
「まああんな夜も遅い時間に彼女の自宅にいるんだからそういうことよね」
「……いつ」
「昨日よ」

 瞬間、緊張感が解けて首を傾げた。潔く恋を散らせたのかしら。ご愁傷様。

「別に夜遅くにいたからってそれがどういう関係かはわからねェだろうが」

 潔く散らせたのかと思ったのに足掻き出したみっともない男に呆れてしまう。

「彼女でもない女にあんな甘ったるい声で甘える男がどこにいるのよ」

 途端に、ぶっ、と吹き出した男に距離を取る。汚いわね。今度は顔を赤や青に染めて狼狽し始めて、わたくしの眉間に皺ができてしまいそう。恋を散らせたわけじゃなくて、現実逃避していただけなのかしら。じわじわと現実味が湧いて狼狽えはじめたって事?

「こ、……声聞いたのか」
「少し遠くて聞こえにくかったけれど、電伝虫が拾ってくれたのをしっかりこの耳で聴いたわ」
「聞いた上で言ってんのか」
「わたくしが根拠もなくこんなこと言ってると思っていたのかしら? ヒナ憤慨」
「…………聞こえてたのか」

 大きな手で両目を覆って天を見上げた姿に、今度こそ恋が散った瞬間を目撃してしまって憐れに思う。可哀想。今度飲みに付き合ってあげる、と最後に付け足して今度こそ踵を返す。後ろから、ああ、と返事なのか呻き声なのかわからない声が聞こえて、さすがに奢ってあげようかしら、なんて慈悲の心が芽生えた。