タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/06/24 スモーカー
足の指先までも・猫が見ている・不安要素は摘み取って


「あの、スモーカーくん、」
「なんだ」

 間髪入れずに返事をしたのがいけなかったのか、唇をもごつかせた姿に焦る。お前の言葉は何一つ取りこぼしたくなかった。任務だなんだと出掛ける予定を潰してしまうことが多いからこそ、貴重な二人の時間はお前だけに向き合っていたくて前のめりになってしまう。やっと、やっと長年の恋が実って付き合えたんだ。夢のような時間を少しでも引き伸ばしたくて気が急いてしまう。

「……、私たちって、付き合ってる、よね?」

 何一つ取りこぼしたくないと思っているくせに、一瞬何を言われたのかわからなくて固まる。

「…………おれの夢じゃなかったら付き合ってる、はずだ」

 なんでそんなことを聞くんだ。まさか、なかったことにしようとしてる訳じゃねェだろうな。そんなの、無理だぞ。一度頷いたんだ。撤回なんて聞いてやれるか。天国から地獄へ突き落とされた感覚にぐるぐると思考を巡らせながら一挙一動を見逃すまいとじっと観察する。逃したくない。嫌だ。おれが冷や汗をかいて観察してるのに、途端に笑顔を花開かせたから瞬く。なんだそれ、どういう感情だ。別れたいならあんまりおれにそんな顔を見せるな。

「よかった、……スモーカーくん、付き合う前と変わらないから、ちょっとだけ不安になっちゃって」

 おれが浮かれている間に不安にさせていた事実を知って目が泳ぐ。どうすればお前にこの気持ちが伝わるのかがわからない。全部を曝け出してしまえば押し潰してしまうだろうし、潰れなくても逃げられたら嫌だ。だからって、適度がどんなものかわからない。

「あの、……ついでに聞いちゃうんだけど、」
「なんだ」
「……スモーカーくん、べたべたするの嫌い?」
「べたべた」

 べたべたってなんだ。何を言われたのかがわからなくて白い煙を燻らせてみた。これはモクモク。少し似てるがべたべたじゃない。だって目の前の女が不思議な顔でおれの煙になった体を見てた。不正解を引っ込めて考える。考えてもおれの辞書にそれは載ってなかった。

「……べたべたってなんだ」

 ぱち、とまつげを揺らしておれを見上げる姿は馬鹿なおれを見限ったりする様子は見えなくてひとまず安心した。

「……手、繋いだり、ぎゅってしたり、……」

 そういうの、と震える声で紡がれて表情が見えなくなる。俯かれたせいでつむじしか見えなくなったが、同時に目の前の好きな女に狼狽えて上半身が溶けた姿を見られないで済んで安心する。慌てて体を元に戻して肩を掴もうとしてやめた。今のおれが触ったら折ってしまいそうで怖かった。だから、なあ、と声を出したのに、その声があまりにもみっともなくやにさがっていたもんだから自分をぶん殴りたくなる。

「してェ」
「……ほんと?」
「……おれは、……お前と付き合えてるだけで浮かれてて、……お前の不安に気付けなくて悪かった」

 ちら、と覗いた目に、ぐ、と呻く。目が合うだけでこうなるおれに、べたべたができるかはわからねェけど、したくないわけじゃない。

「手、……繋ぎたい」

 そ、と差し出された手はおれと比べて小さくてどこからどうつまめばいいのかわからなくて手がうようよと彷徨う。息を吸い込んで、覚悟を決めてその小さな手を掴んだ瞬間、柔らかすぎて驚く。ふわふわの実でも食ったんじゃないかこいつ。驚くおれの耳に、ふふ、と手と同じくらい柔らかな笑い声が滑り込んできて顔を見る。その表情に力加減を間違えなかったことに安堵した。

「ねえ、これじゃ逮捕だよ」
「……あ?」

 楽しそうに頬を緩める顔から視線をどうにか引き剥がして手元を見る。逮捕。何がだ。強いて言うなら周りが勝手にお前のその笑顔に勘違いする馬鹿がいるってことだが、お前は別に悪さなんてしてない。馬鹿な勘違い男が脳裏に浮かんだせいで眉を顰めながら促された視線の先は手を繋ぐと言うより全部を覆い隠していて確かに言われた通り逮捕のようで目が泳ぐ。一回離して、と言われて反射的に嫌だと断りそうになるのを堪えた。一回、だから。二度と繋ぐなと言われたわけじゃない。恐る恐る開いた手のひらに滑り込んできた柔らかな体温に肉が強張る。急にはやめろ。気を付けてないと折ってしまいそうで怖い。おれの心境なんか知らない目の前の女はするりと指の間に指をくぐらせてきて固まる。おれの骨張った太い指と指の間に、柔らかな指が挟まれてる。ぎゅ、と握り込まれたのに驚いて顔を上げれば恥ずかしそうにしながらも微笑んだ瞳と目があってまた目が泳ぐ。

「……こんなふうにべたべたするの、いやじゃない?」
「嫌じゃねェ。……ただ、力加減も何もかもわからん」

 嫌なわけがない。そんなわけない。だが、手を繋ぐことすらまともにできなくてお前に笑われている不甲斐なさにどうすればいいのかわからなくなる。お前が笑ってくれるだけならいいが、もし間違えて悲しませたらと思うと身動きが取れない。

「……折っちまいそうで怖い。痛くねェか」
「これくらいじゃ折れないし、痛くないよ」

 ただ嬉しそうに笑うだけなことに安心してゆっくり手を握り返す。潰してしまいそうで恐ろしいが、少しずつ力を入れれば入れるほど握り返してくれることが嬉しいのか笑顔が深まっていくのがわかってゆっくりと力を込める。

「どこまでならべたべたしてもいい?」
「……お前がすることで、嫌なことなんざひとつもねェ」
「ほんと?」
「ああ」

 柔らかな手を傷付けない力加減を覚えようと手にばかり集中していて他のことに気を回せなかった。とん、と何かがぶつかって反射的に受け止める。気付いた瞬間には腕の中に恋人がおさまっていて固まった。手だって柔らかくて困ったのに、腕の中にあるもの全てが柔らかくて息すらできなくなる。

「……ふふ、心臓の音、すごい」

 ずっとこうしたかったの、と胸元で笑われて、ど、と体温が急上昇するのを自覚した。