タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/07/09 ロー
月を見る猫・包まれる香り・置き忘れた仮面


「好きだ」
「なに?」
「……お前のことが好きだ」
「……今私告白されたの?」

 ああ、と神妙そうに頷くローに瞬く。びっくりした。全然そんな感じ、しなかったから。というか、すごく神妙そうに顔を顰めながら私を見るから、てっきり一目見ただけでわかるくらいひどい病気にでもなってしまったのかと思った。お医者さん相手だと思って緊張してしまったから思わず胸を撫で下ろしてローに睨まれる。告白された反応じゃない、なんて思ってるのか眉を顰められてもそもそもローが告白する態度じゃない。

「……どうして今告白しようと思ったの?」

 だって、普通告白ってもう少しシチュエーションに凝るべきじゃない? キザな人がするプロポーズみたいに花束抱えてスーツ着て指輪持って夜景を見ながら、なんてことまではしなくていい。でも、今から告白しますよされますよみたいなそわつきはありつつも静かな場所で落ち着いてするのが普通だと思う。今、全然そんな感じじゃない。さっきから後ろでびちびち聞こえるのは海を跳ねる魚の音なんかじゃなくて、地面の上を跳ねる手やら足やら頭やら臓器やらの悲鳴。身の程知らずにもローに立ち向かっていたらしい海賊の人たちの肉体がそこかしこでびちびちと跳ねていて、その中心にいる中での告白はタイミングが、ちょっと、だいぶおかしい。なんで今。

「どうして、? ……言いたくなったから」
「今?」
「今」
「……なんで今」
「駆け寄ってきたお前の笑顔が、……可愛かったから」

 ほんの少し疑問符のついた曖昧な答えに私も思わず首を傾げる。今、可愛かったから、って言った?

「……可愛い?」
「ああ、可愛い」

 相変わらず神妙な顔付きで若干私を睨み上げながら、なのに私に甘い言葉を投げかけてくるローに首を傾げる。なんだか、様子が変な気がする。ローが人を揶揄うような酷い嘘をつくはずがないのは理解しているけれど、なんだか、本当の言葉でもない気がして。

「……ロー、何かされたの?」

 きゅ、と唇を噛み締めたのを見て確信した。びちびちと跳ね回る色々を見下ろす。きっとこの中の誰かに何かされたんだ。突っ立ってただ私に愛の告白だけするローからは苛立ちを感じるものの焦りは感じないからきっともう治療方法はこの有象無象から聞き出してるはずで、なのに行動に移さないってことは自分じゃ解決できないことなんだろうな、なんて当たりをつけて一歩近付く。

「ロー、私は何をすればいい?」
「何もしなくていい。お前はただ、笑ってるだけでいい」
「……可愛いから?」
「ああ、……可愛い」

 ちゃんと真面目に聞いたはずなのに、ローの答えに思わずふざけてしまった。なのに眉間に皺を寄せながらも大真面目に返ってきた言葉に頬が緩む。ローには悪いけどちょっと楽しい。ローがつらそうだったり苦しそうだったりするなら私も慌てるけど、顰めっ面で告白するだけだから悠長に構えてしまう。

「ロー、怪我とかしてない?」
「してない。お前のそういう優しいところも好きだ」
「ありがとう。私も優しいローのこと好きだよ」

 瞬間、ローが鬼哭をすらりと引き抜いて驚く。びちびちと跳ね回っていた何かを更に細切れにして、クソ、と悪態をついたから瞬いた。

「…………さっきまでのは忘れろ」
「何がなんだかわからないけど、……治ったの?」
「…………心配かけて悪かった。頼むから忘れてくれ」

 満足するまで細切れにしたのか光る刀身をしまって、帽子を奥深くかぶる姿を覗き込む。さっきまで神妙そうに顔を顰めてたのに、帽子の影に隠れた顔は耳まで真っ赤で目を見開く。やっぱりさっきまでのはローの意志とは裏腹に勝手に口から滑り落ちてたんだ。微笑ましい告白ばかり口をついて出ていたけど、死の外科医の体で暴力を振るうような操られ方をしていなくて良かったと今更ながらに胸を撫で下ろす。

「本当に治った? 変なところはない? 気分が良くなかったりとかしない?」
「ない」

 大丈夫?と次から次へと投げかける私の言葉に簡潔に二文字だけで返してきたローに手を伸ばす。皮膚が赤く染まってるのは羞恥のせいだってわかってるけど、それにしたってぽっぽっと茹で上がる皮膚があまりにも真っ赤で心配になる。ぴたりと頬に手の甲をくっつければやっぱり体温が酷く上がっていて、逃げようとするローの手をもう一つの手で引っ掴んだ。

「大丈夫? さっきのはローが言いたくて言ったわけじゃないってわかってるし恥ずかしいのもわかるけど、心配させて」

 ぐう、と呻きながらしゃがみ込んだローに慌てて習う。隣にしゃがみ込んで手の甲でローの体温を少しでも下げてあげたいのに、蛸のように茹で上がって落ち着かない体温に心配も募る。

「……本当に、平気だ」
「だめ。平気じゃない」
「医者の言うことを信用してくれ」
「お医者さんのことは信用してるけど、自己判断だけは信じてあげない」

 ぐ、とまた呻く姿に顔を覗き込む。私と目が合わないようにうようよと彷徨う視線を無理矢理絡ませて本当に大丈夫なのかそうでないのか具合を探ろうとしたって、結局私は医者じゃないからわからない。

「……言いたくて言ったわけじゃない」
「わかってるよ、大丈夫。からかったりなんてしない。誰にも言わない。二人だけの秘密にする」

 二人だけの秘密にする、とは言ったものの、びちびちと跳ね回るあれそれは数に入るんだろうか、なんて気が逸れて一瞬間ができてしまう。まあ、あそこまでばらばらにされてるし私たちのやりとりなんて気にする暇なかったはず。二人だけの秘密だ。うん。

「……嘘もついてない」
「……?」
「言いたくて言ったわけじゃない、が、……嘘もついてない。あいつが、……あいつの能力が、……自白剤のような能力で、……それで、……解除方法が、同じ言葉を、返してもらうことで……それで、」

 いつも理路整然とした言葉を紡ぐローのぼろぼろの言葉を耳に届けて固まる。

「お前の好きが、おれの好きと違うのはわかってても、……嬉しかった。ありがとう」

 血色の良すぎる顔をあげて、まっすぐ目を見つめられて言われたお礼に息を呑む。

「ちゃんと、能力は解けたからな。……お前に余計な心配させるくらいなら、おれがみっともないこと曝け出す方がよっぽどマシだ」

 真っ赤に熟れたまま覚悟を決めたように揺らがなくなった瞳に、今度は私の視線が揺らぐ。手の甲に感じていた体温が私に感染したかのようにローとの体温差がなくなってて困惑する。

「お前には笑っててほしい」
「……か、可愛いから、?」

 思わず茶化してしまった私に、そうだな、と優しく笑って頷かれるから今度は私が呻くことになってしまった。