タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/08/06 ゾロ
確定した未来・月は遠くとも・恋をしましょう
※いつかの未来


「おはよう、世界一の大剣豪さん」

 体中みしみしと変な音を立てていて指先一つ動かせない。おはよう、と優しい声が降ってきて、あのあとみんなに笑ってもみくちゃにされてすぐに気絶してから目が覚めたんだなとわかった。お前の言葉であれが夢じゃないとわかって高揚する。あれからどれくらいおれは眠り続けていたのかも気になるが、とにかく声の持ち主を視界に入れたいのにそれすらもできないくらい体にダメージが入っていることに歯噛みした。無傷で勝てるなんて思ってなかった。それでもここまでぼろぼろになるつもりもなかった。おれの体が傷付けば、仲間の心が傷付くのは知っていたから。おれが気絶している間、今おれのそばにいるこの女がきっと一番肝を冷やしていたんだろうなと思うと反省する。世界一の大剣豪になっても鍛錬をするべき未熟さを見つけて、口角をあげた。

「……なんで笑ってるの、心配したんだからね」

 反省していたのに叱られてかろうじて動く唯一の目が泳ぐ。でも、おめでとう、とまた柔らかく降ってきた声に嬉しくなって笑ったせいで体が軋んで呻いた。

「チョッパーよ、」
「よぶな、……いまは、まだ、よぶな」

 やっと出せた声は驚くほど掠れていて、一文字音にするだけでいろんな場所に激痛が走った。優秀な医者にはあとでちゃんと診てもらう。でも今はまだお前と二人で居たかった。目を覗き込まれて起きてからようやく見ることができた女の顔は案の定顔が酷いことになっていた。充血して赤くなったその目でおれの目をじっと観察して、わかった、と頷いてくれてほっとする。

「世界一の大剣豪になった気分はどう?」
「おれが、勝った、が、どうせ、あいつの方がはやく、回復、したんだろ? はや、く、鍛錬、してェ」
「鍛錬馬鹿」

 呆れたように落とされた言葉は褒め言葉にしか聞こえなかったから腹も立たない。思わず笑ってまた呻いたせいで眉を顰められたからもう一度呼ぶなと念を押す。渋々頷いてまたおれの視界から消えようとしたからそれも嫌だ顔を見せろと駄々をこねれば困ったように笑われた。でも、おれの視界から消えなかったから嬉しくて口角をあげる。

「鍛錬して、また死合いして、また大怪我するの? 私の心がもたないよ」
「次、は、こんなに、ボロ雑巾、にならね、ェ」

 ふ、と笑われて頬に柔らかい何かが触れた。優しく撫でられてそれが女の手だということに気付いて体温が上がる。傷のせいで色んなところが熱をもってるからバレなかったとは思うが、変にばくつく心臓に瞬きが増える。

「世界一の大剣豪になったら心配しないですむと思ったのに」
「……わるい、な」
「悪いと思ってないのに謝らないで」

 優しく撫でてくれていた手が額に移動したかと思ったら、ぺち、と優しく叩かれて体温が遠のいた。手が離れたことにがっかりしてため息をついたのに、叱られたことにため息をついたのだと勘違いされた。

「世界一になってもゾロは変わらないんだね」
「……かわ、る」
「? 鍛錬して、死合いして、怪我して、治療して、お酒飲んで、また鍛錬して、の繰り返しでしょ?」
「お、……ッ、ぐ、」

 どれくらい寝てたかわからないが、寝起きでたくさん喋ったせいか喉がざらついて言葉に詰まる。そのせいでまたおれなんかよりよっぽど傷付いた表情をした女が今度こそチョッパーを呼ぼうと駆け出そうとしたから、意地で腕を動かして手首を掴んで引き留めた。驚いた表情で見たおれの目に気押されたのか、おれの体を心配したのか、離れた距離をまた縮めてくれる。そうやって甘やかすから、おれみたいなのに目を付けられる。

「そのなかに、おまえ、を、……口説く、のも、入れろ」
「え?」

 何を言われたのかわかっていないのか、おれの声がざらつきすぎて聞き取れなかったのか、ぽかんと抜け落ちた表情にもう一度気合を入れる。

「せかいいち、になった、ら、お前を、口説こうと、思って、た、……いや、なら、ことわ、れ、……でも、おれは、あきらめ、ねェ、男、だ」

 覚悟してろ、と言いたかったのに、目の前が急に眩んで意識が遠のいた。