タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/10/16 スモーカー
残された希望・涙より血を流す方がましだ・愛の重さは500グラム
※ボツ


 おれを叩き起こすだけ叩き起こしていそいそと服を着替えに行った女がとたとたと大慌てで戻ってきたかと思ったら、さっき引っ剥がされたシーツを今度は思い切り投げつけられて白い波に溺れる。投げつけられたというか、女ごと降ってきた。ぎゅうぎゅうとシーツにくるまれて、上から押さえつけられる。重くもないし苦しくもないが、何がしたいのかがわからなくて眉を顰めながらどうにか顔だけでも逃げようと煙になる。陸で溺れたくねェ。シーツの中で煙になった瞬間、見えなくてもその感触でおれが煙に溶けたのがわかったのか、涙を滲ませた音が聞こえて固まる。

「もくもくしないで、」

 ひぐ、と涙に滲ませながらおれにのしかかる声に慌てて言うことを聞いた。お前の望みは聞いてやりてェ。が、おい、ちょっと、やっぱり苦しい。一瞬で顔だけシーツから逃れることに成功して息を吸う。ぐすぐすとおれの上で泣いている姿はシチュエーションが違えばそりゃあ絶景だが、悲嘆にくれた顔は見たくない。もくもくしないで、とまた掠れた声で望まれて、しねェ、と頷く。

「きょう、デート、中止、」
「なんでだ」

 さっきまであんなに楽しみにしてたじゃねェか。寝汚いおれを叩き起こして、浮かれて着替えに行ったっていうのにほんの数分で何が起きたんだ。それともおれが瞬いてる間に過ぎた時間が数分だと思ってるだけでもしかして二度寝をしてしまったせいで数時間経過してたりするのか。急に心当たりが浮上して寝ぼけていた頭がすっと冷える。二度寝して予定が狂ったのに、疲れてるもんね、お疲れ様と笑って許してくれたいつかの女の顔を思い出してじわりと血の気が引いていく。おれが恋人の好意にあぐらをかいていたせいで、唐突に我慢の限界がきてしまったんだろうか。謝りたいのに何をどう謝ればいいのかも働かない頭じゃ思いつかない。ぎゅうぎゅうとシーツ越しにのしかかってくる涙声の恋人に焦りだけが募っていく。

「おい、おれが悪かった、すぐ用意するから」
「だめ、」

 力尽くで退かすのは容易い。こんなもん、赤ん坊と変わらないか弱さだ。だが、それがいくら容易でも今は力で解決する時じゃないのだけはおれの頭でも理解できた。言葉を尽くさないといけない、一番、おれが苦手な分野で、それでも絶対にここで間違えるべきではない場面だってのも理解して気を引き締める。

「じっとしてて」

 ぎゅ、と更に力強くのしかかられて立場も忘れて眉を顰めた。もう行動することすら許されないのか、と考えて首を傾げる。見放されたのならシーツ越しとはいえこんなに引っ付くか? 逃げられまいとこいつを簀巻きにしておれが縋るならまだしも、なんでこいつがおれをぐるぐる巻きにして引っ付いてくるんだ? だが、なぜかこいつの中で急にデートが中止になったのは変えようのない事実で頭の中が混乱する。

「なァ、じっとしてるからなんで中止なのか教えろ」
「そと、」
「……?」

 嫌いになったからだの恋人関係を解消したいだのが口から放たれなくて安堵したのも束の間、言われた単語にまた首を傾げたのが悪かった。じっとしてるって言ったのに、と悲鳴のように声を上げてまたぎゅうぎゅうとシーツに沈められる。ひくひくと鼻を鳴らして涙を滲ませる恋人が放った言葉を思い出して耳を澄ます、……必要もないくらいうるさい風の音に今更眉を顰める。なんだ、台風か? 自然には逆らえない。あそこまで風が強けりゃデートが中止になるのは仕方がなくて納得した。それにしたって、そんなに悲嘆に暮れなくてもいいのに。おれとのデートを楽しみにしてくれてたのは嬉しいが、家で楽しむのも悪くないだろ。どうしても今日じゃないといけない何かがあったのなら仕方ねェが、そんなに落ち込まなくても。

「おい、……今日なんかあったのか、……濡れ鼠になってもいいんなら付き合うが」

 この様子じゃどこもかしこも店は開いてないはずだ。だが外に出るだけで少しは心が救われるなら、と思って提案した言葉にまた涙に滲んだ拒絶をされてとうとう困る。こんなに駄々を捏ねて意味のわからない問答を繰り返すのははじめてで、どう扱えばいいのかわからない。

「どうすればいいか教えてくれよ」
「……今日はもうじっとしてて、」
「じっとしてるだろ」
「スモーカーくん、とんでっちゃう」
「あ?」
「かぜ、つよいから、とんでっちゃう」

 じっとしてて、とぎゅうっと強く抱きしめられて、ようやく原因がわかった気がして脱力する。お前、おれが風で飛ばされると思ってそんなになってるのか。

「……飛んでかねェよ」
「だって、スモーカーくんの部下たちが慌ててた」
「あいつら……」

 舌打ちをしてため息をつく。そりゃ確かに能力を発揮していた時に突風にさらわれたことはある、が、……何情けねェことバラしてくれてんだ。

「お前がいるのにどこにも飛んでかねェよ」

 本当に?と涙で濡れた声が上から降ってきて、ああ、と頷く。だから泣き止んでくれよ。おれにとっては外の天気より、お前の機嫌が晴れることの方が大事だ。