タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2024/10/22 ロー
月を見る猫・君には分かるまい・素直さがログアウト
※被害者・刀
※なんでも許せる人向け
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ローのことをまっすぐ見れたことがない。良い人だってことはわかってるのに、ローの後ろにいる人が怖かった。背中を丸めているのに大きくて、黒くて、ピエロを模した化粧は愉快に笑っているのにその人は笑っていなくて、いつもじっと音もなくローの後ろに立っている。私にしか見えないピエロ。
「……おれが怖いか?」
「そ、そんなことないよ」
言葉に詰まった私にローが気付かないわけがない。傷付けたことを謝りたいのに、ローを見上げると、その人も私をじっと見つめるから怖くて顔が上げられない。だけどそんなこと言えやしない。ローは怖くないけど、後ろの人が怖い、だなんて。見えないものを怖がってることをどう証明すればいいのかわからなくて、せっかく一歩踏み出してくれたローを傷付けただけ。
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ローの顔よりローの靴ばかり見てしまう私の視界に、音もなく現れた黒いものに恐怖のメーターが振り切れて悲鳴すらあげられなかった。おかげで不審がられずに済んだけど、ばくばくと跳ねる心臓を手でおさえて反射で閉じた目を恐る恐る開く。ばちりとあった暗い目に息を呑んだ。あの大きな人が、地面に転がって私を見上げてる。俯いたって無駄ってこと? 慌てて視線を持ち上げて、今度はクマの酷い目と視線が絡む。驚いたように見開いた目に私も驚いて、久しぶりにローの顔を真正面から見ることができて安堵する。よかった、やっと顔を見れた。地面に転がっているだろうものを見ないように顔を上に固定してほっと息をつく。
「……珍しいな」
見開いた目が細くなってほんの少しだけあがった口角に、申し訳なさが募る。目が合ったそれだけでわかりにくくてもこうして喜んでくれるローが、私の態度に傷付かない訳がない。だけどやっぱり、怖かった。音もなく地面に転がってきたのと同じように音もなくまた立ち上がったそのピエロの男の視線に、ぎゅっと視線を落とす。きっとまた、ローを傷付けた。見なくたってわかる。私はローを傷付けてばかり。
「…………黒足屋はいるか?」
「だ、だいどころに、」
喉に張り付いて掠れた声はきっとローに届かなかったのに、私の方を向いていた爪先が踵を返して台所へ向かったのが見えた。サンジくんがこの時間にどこにいるかの答えなんてわかってるから、聞こえなくてよかったんだ。怯えた私に、何も悪くないローが私のために恐怖を取り除いてくれた。幽霊のはずなのに足があるそのピエロも音もなく歩き出したのが見えて顔を上げる。もこもこの黒いコートで一面真っ黒なピエロが追いかけるローの背中がなんだかとても小さく見えて反射的に手を伸ばした。隣にいつも聳え立っているこの人が規格外な大きさなせいでローの背中が小さく見えただけなのはわかってる。だけど、私が傷付けたせいでローの背中が小さく見えた気がして、恐怖より申し訳なさが上回った。ピエロを追い越して、ぎゅ、とローの服を掴む。私なんかの力じゃローを引き止めることなんてできないはずなのに簡単に立ち止まってくれる優しさにぎゅっと胸が痛む。何も悪くないローをこれ以上傷付けちゃだめだ。
振り返ったローの目がまた大きく見開いていて、そんな顔ばかりさせてしまう私の変な力が嫌になる。でも、そんなのローにはわからない。わからないのに私を責めることのない優しいローに謝らなくちゃ。
「ローのことは怖くない、の」
「……無理はするな」
「む、無理じゃない! ……ローのこと、怖くない。ローのことは大好き、本当に、……でも、……でも、」
ピエロが追いつく前に、ちゃんと言い訳しないと。定まらない思考回路でぐるぐる考えて、視線がまた彷徨って、ローの刀が目に入る。そうだ、
「……そ、それ! その、ローの、刀、……妖刀、だよね?」
服を掴んでいた手でローが持つ刀を指し示す。不思議そうに見上げられた刀には今から冤罪をなすりつけてしまうから申し訳なく思うけど、突飛なことを言うよりもきっと信じてもらえる。
「妖刀、が、……こわいの、……なんだか、その、……変な気がして、……ローのことは本当に怖くないの、……傷付けてごめんなさい」
「…………ゾロ屋の刀は」
「あ、あれも、妖刀だけど、……ゾロのはもう慣れたの、……だ、だから、慣れるまで、は、まだ怖がっちゃうかもしれないけど、…………ローの力になってくれる刀のこと、悪く言ってごめんなさい、……でも、ローのことを怖がってる訳じゃないの、……信じて」
ちゃき、と柄が鳴る音がして信じてもらえるか緊張していた体が大袈裟に跳ねてしまった。だけどそれがよかったのかもしれない。ローが、その大きな刀を私から隠すように背中に回してくれて信じてくれたのだと悟る。恐る恐るローに視線を戻せば困ったように口端をほんの少し歪めていて、ため息をつかれてしまった。
「……もっと早く言え」
ごめんなさい、と言った瞬間、ふ、と控えめに笑われて、初めて真正面から見る笑顔に嘘をついたことを申し訳なく思いながら私の頬も安堵に緩んだ。瞬間、のそりと音もなく現れた黒い影に頬が引き攣る。私の背後で何をしていたのか、時間をかけてゆっくり追いついたピエロがローの背後に回って私を見下ろす。仲直り、したばっかりだから、今この瞬間だけでも踏ん張るべきだ。ばくばくと恐怖に動く心臓を手でおさえて目をそらさない。普段、じっとローを見下ろしたりどこか遠くをじっと見ているだけの大きくて黒い塊が、腕をゆっくりローに伸ばしたのを見て反射的にローに抱きつく。ローに酷いことしないで。ぎゅっとローの頭を守るように飛び掛かって抱きついたおかげで、ピエロと顔が近付いて真正面から見つめ合うことになってしまった。それでも今は引いちゃいけない。怖くても、何もできなくても、ローに何かするなら、黙って見てられない。唐突に飛びかかられたローが驚いて私を支えながら、そこまでしなくても信じるから、と慌てふためいている声が聞こえるけど、今私はこのローに取り憑いた幽霊と睨み合いの攻防をしているから何も返事はできない。ぱち、と瞬いた瞬間、とても言い表せられない表情を浮かべたピエロに悲鳴をあげる。馬鹿、せっかく遠ざけたのに何自分から刀に近寄ってんだ、と叱られる声がすぐそばで聞こえるけど、今はそれどころじゃない。笑ってるのか怒ってるのかわからない表情を浮かべたピエロが、私とピエロの間にある妖刀を指差して固まる。なに、? ローに伸びたと思った大きな手が拳になって、妖刀にぶつかる。音がないから本当にぶつかってるのかはわからない。だけど何度も何度も妖刀に拳をぶつける意図が分からなくて威嚇も忘れてじっと見入ってしまう。何度か妖刀に拳をぶつけて満足したのか、またその大きな手が開いてゆっくりとローに近付くから涙目になりながらもじっと睨みつけていたのに、その大きな手が触れたのはローじゃなくて、私の頭で息を呑んだ。触れた感触はしない。だけど、目の前のピエロの腕の動きは私の頭を撫でている動きにしか思えなくて固まる。妖刀に何度も拳をぶつけていた時の苛烈さとは違って、優しい動きにゆっくり呼吸を取り戻した瞬間、手が離れてまたあのとんでもない表情を浮かべたピエロに驚いてぎゅっとローに縋り付く。開いた手が、今度は2本だけ伸びて、ピースサイン。その瞬間、ピエロの行動の意味がわかった気がして困惑する。
私の後ろでローに嘘の言い訳をする私の話を聞いていて、私が怖いと言ったから妖刀を叱るフリをしてくれた、? そんなわけがなくて、だけどそうとしか取れない行動に、じわりと緊張が解けていく。怖いと思っていたピエロが、私を守ってくれようとしていることに驚いて力が抜けた瞬間ローに猫のようにひっぺがされてしまった。真っ赤になって意味不明な行動をした私を叱りつけるローに口でごめんなさいと反射的に言葉にするものの、背後に立つピエロに視線が吸い寄せられて上の空になってしまう。
「極端なんだよ! 信じるから! 距離がちけェ! この馬鹿!」
もしかしたら私は怯えなくていいものにずっと怯えていたのかもしれない。
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