タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2024/11/06 ゾロ
お日様の匂い・夢でなら逢える・溶け出した苺のヨーグルトアイス
※ボツ
※夢主がとても軽率
▼
ちょっと目を離したらすぐにはぐれるゾロを都度都度軌道修正しながらやっと目的の場所に着いてほっとする。いまだに自分が方向音痴なことを認めたがらないのかそっちじゃないよと訂正するたびにただでさえ怖い顔にしわが増えるからバレないようにそっとため息をついた。いつもならここまで機嫌は悪くならないのに、そういえば船のお酒の在庫が切れていたのを思い出して納得する。ちょっとした禁酒状態だったもんね、そりゃあいつもより機嫌も悪くなるか。扉の前で解散したのに何故か迷ったことのあるゾロはきちんと椅子に座るまで案内しないと安心できない。酒場の扉を押して、ゾロ、と手招いて首を傾げた。もう着いたんだからそろそろ眉間のしわがほどけてもいいはずなのに、近くに敵でもいるのかなって思うくらい機嫌が悪いまま。そんなにストレスたまってたのかな。ゾロの背後で扉が閉まってとりあえず安心する。早くお酒が飲みたいならあと少し足を動かせば目当てのものに辿り着くのに入り口から全然動かないゾロに首を傾げてカウンターに近付いて代わりに注文してあげる。機嫌の悪いゾロは覇気でも出てるみたいに酒場のお客さんを無駄に怯えさせていてちょっとだけ申し訳なく思ったけどガラの悪そうな海賊ばっかりだし牽制にもなって楽で良いかな、なんて考えで注意するのをやめた。
「おい」
「なあに、早くおいで」
案内だけのつもりだったけど私も一杯だけ飲もうかななんて考えて椅子に座ってゾロの席をぺちぺち叩いて促す。さすがにこの狭い酒場でファンタジスタになることはないし、ごつごつとゾロの重たいブーツが床を蹴る音がする間に自分の注文をしようとゾロから目を離した。
「お前はおれの体が目当てだったのか」
瞬間、摩訶不思議な言葉が耳に届いて瞬く。私、まだ飲んでないけど、アルコールの匂いだけで酔っちゃったのかな?
「おい、無視すんな。体目当てだったのか?」
「………………ん?」
ヒュウ、と口笛が吹かれたのと同時に悲鳴も上がって振り返る。ガラの悪い人がゾロにぺこぺこ謝っていてたぶんあの人が口笛を吹いた人。だけど、なんで口笛を吹かれたんだろうと一瞬現実逃避して二回も言われた言葉をようやく脳が理解する。お前はおれの体が目当てだったのか。お前って、私のこと? おれは、ゾロのこと、で。私が、ゾロの体目当てだったのかって聞かれてる。どうして?
「……用心棒代わりにされること、嫌だった?」
考えて、どうにか絞り出した。ゾロの言葉選びが悪かっただけで、思い当たる心当たりはこれくらいしかない。口笛を吹いたであろう人から私に視線を戻したゾロがまたゴツゴツと靴を鳴らして近付いてくるから気を揉む。だってゾロがいると、変な人は寄ってこないし、怖い人も寄ってこないし、……たまに海軍は寄ってくるけどそれは私たちが海賊だから仕方ない。それが、嫌だったのかな。ごめんね、と謝ろうとしたのに隣にどかっと座って私に膝を向けてくるから思わず私も向き直ってカウンターで膝を突き合わせるなんていう謎の座り方になってしまった。ちょっと気が逸れたけど改めて謝ろうと口を開いたのにそれより先にゾロが話逸らすな、と怒るから口を開いたまま固まる。
「おれの体目当てだったのかって聞いてんだよ、用心棒の話なんてしてねェ」
「え、……え、……ちがう、っていうか、私とゾロ、付き合って、ない……よね?」
「あ゛ァ?」
ひ、と思わず仲間相手に悲鳴をあげそうになって慌てて飲み込んだ。何か誤解がある、はず。
「……え、……私、もしかして、酔っ払ってゾロにのっ、……かったりした?」
「あ? さすがにそこまでされたことはまだねェよ」
眉を顰めながら即答されてとりあえず胸を撫で下ろす。よかった。記憶がないだけでやらかしてる可能性はこれで消えた。でもそうしたら今度は記憶のあるままやらかしてる可能性しか残ってなくて焦る。
「この島に上陸した瞬間おれのこと捨てやがって。ふざけてんのか」
「エッふざけてないちょっと待ってちゃんと考えてるから」
覇気を出されてるわけじゃないけどばちばちと空気で刺されて身を縮ませながら必死で考えたってやっぱり心当たりなんてなくて、怒ってるゾロを恐る恐る見上げる。
「………………前まではべたべたべたべたくっついてきただろ」
誤解を解きたくてもなんで誤解されてるのかわからなくてせめてヒントをくれないかなと考えていたのが伝わったのか、重たいため息を長く吐いてから言葉を紡いでくれたのに訳がわからなくて瞬く。べたべたくっつく? ゾロの怒りに気が逸れていたけどその言葉に今触れ合ってる膝を思い出して何も考えずに足を引っ込めてしまった。のに、引いた足を思い切りゾロの太い両足で挟まれて今度は飲み込めなかった悲鳴が喉から飛んだ。痛い。潰れるかと思った。私の太ももがぺちゃんこになったらどう責任取ってくれるの、なんてあまりの痛さに涙目で抗議しようとしたのにゾロのひとつしかない目のその迫力に言葉を飲み込む。
「責任取れよ」
顔も言葉も怒ってるけど、なんだか声が悲しんでいる気がして痛みも吹き飛ぶ。
「前まではお前から引っ付いてきてたじゃねェか」
くそ、とゾロの両足に力がこもって布越しでも体温がじっとりと伝わってきて、ハッとする。まさか、
「か、体目当てだったかも、ごめん、」
私たちの修羅場に耳をそばだてていたのか店主さんの口だけじゃなく至る所から、エッ、と私を責め立てるような驚いた声が聞こえて慌てる。ゾロの間違った言葉選びのせいで私も誤解を生む言葉選びをしてしまった。私を睨みつけていた目がなんだか悲しげに揺らいだ気がしてゾロの腕を慌てて掴む。
「ち、ちがう、言葉間違えた、あの、ちがう、ここ、夏島でしょ?」
「…………それがなんだよ」
「し、しばらく冬島続きだったでしょう?」
「だからなんだよ」
「……ぞ、ゾロの体温、いつも高いから、その、冬島の時は確かに距離、近かったかも、」
「……あ゛ァ?」
またゾロの怒りが増幅したけど、今はもうゾロの怒ってる理由がわかるからとにかくごめんなさいと頭をぺこぺこ下げることしかできない。
「この島、気温が高くて、……ゾロも、熱いから、ちょっと、」
「………………お前好きでもねェ男にあんなべたべたすんのか」
呆れたような、怒ったような、よくわからない感情がないまぜになった声に何も言えなくてちらりとゾロを見上げる。額に拳をつけて長い長いため息を吐いたゾロに何か言わなきゃいけないのに何も言葉が思い浮かばなくてまた視線を落とした。挟まれたままの太ももがじわりと熱い。どうしたら。体目当てか、なんて、そう言われても仕方のないことだった。
← →