タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2024/11/24 ロー
凍土に眠る恋心・君には分かるまい・ほどけた包帯
※ボツ
▼
たまたまバーで見かけた麦わら屋のところの女の持っている酒をドクターストップだ、と取り上げて、ついでにその酒を勧めたであろう男を睨みつける。この女に飲みやすく酔いが回りやすい酒を勧めたのは、顔面が蒼白になったことによって故意だとわかる。これが故意じゃなかったのなら見逃したが、わざとなら話は別だ。男を適当に切り刻んで店の外へ放り出す。おれたちがこの店から出るまでに自分の体のパズルを組み立て終わっていたなら逃がしてやる。店の外でまだ蠢いていたら今度は海軍基地にでも飛ばしてやろう、と考えて男の座っていた場所に代わりに座った。
「あれえ? さっきのひとは?」
「酔いが回ったみたいで外に行った。……お前は大丈夫か」
気持ち悪くないか? 変な混ぜ物を入れられてやしないか、と許可なくスキャンする。ただの重度の酔っぱらいだと太鼓判を押すことになっただけの結果にほっとしつつもため息をついてマスターに水を頼んだ。
「ふふ、だいじょうぶ、ありがとう」
「大丈夫そうに見えねェから聞いてんだよ……」
「見ず知らずの人なのにやさしいねえ。私の好きな人にそっくり」
ふふふ、ととろけた目で紡がれた言葉に固まる。見ず知らずの人なんかじゃねェが。顔の判別すらつかないほど酔わせたあの男にまた怒りを沸騰させながら、言われた言葉を頭の中で反芻した。好きな人にそっくり。……何が? 優しいところが。じゃあ、おれじゃない。麦わら屋たちがおかしなだけで、基本的に海賊なんか優しさとは正反対のところにいる。そうか、好きな奴がいるのか。
「好きな奴がいるのに、変な男と飲んでちゃ駄目だろ」
「ふふ、優しいね、……でもいいの、私、嫌われてるから」
「……お前を嫌う奴がいるのか」
そんな生き物、いないと思ってた。……海賊だと知らなければ、お前たちほどのお人よし、嫌われるはずがないだろう。ならこいつが海賊だと知っていて正義感の強い男だから嫌われてるのか? それでもそんなもの取っ払ってしまいたくなるほどこいつは海賊らしくないだろう。
「……どうして嫌われてると思ったんだ」
「……いつも睨まれてるの。最初は私のこと見てくれてるんだなって思って嬉しかったけど、目が合うと、すぐにそっぽ向くの。照れ屋さんなのかな、と思ってたけど、…………私にだけ」
だから、嫌われてるの、と眉を下げて無理に笑う健気な姿に知らない男に心の底から腹が立った。知らない男を想像して、腹立ち紛れにさっきの男みたいに切り刻んでやろうとして、妄想でも止めた。腹が立つが、それでも、こいつが好きになった男だ。切り刻む時はこいつがその男に泣かされて、おれに助けを求めてきた時だけだ。だが、おれにその役目は回ってこない。こいつの船には百パーセント女が悪くても男が悪いと蹴り飛ばすコックもいるし、麦わら屋がクルーを傷付けられることを許さない。おれには出しゃばる理由も権利も、何もない。ただ勝手にこの女を好きになっただけ。
「…………おれはそいつに似てるんだろう?」
「うん?」
優しいところがそっくり、とまた聞いたことない甘い声で囁かれて胸が変な音を立てて締め付けられる。
「……おれに似てるんなら、照れてるだけだ。お前にだけなのは、お前にだけ、照れてるんだろ」
そいつのことを知らないから、本当にこいつを嫌ってる変な男なのかもしれないし、おれのように照れてるだけなのかもしれない。それでも、一瞬でも好きな女を悲しませたくなかった。結果、大嘘つきになろうが敵に塩を送ることになろうがどうだっていい。好きな女が、一瞬でも気持ちが軽くなるならなんだってよかった。
「……慰めてくれようとしてくれるのは嬉しいけど、あなたは私と目を合わせてくれてるから、参考にならないよ」
合ってねェよ。お前が酔っ払いだから焦点が合ってないせいで、隣に座ってから一度だって視線は絡み合ってない。そもそもおれが誰だかわかってない。ふわふわとよくわからないところばかり見てるから、今のおれはお前をじっと真正面から観察することができる。
「……じゃあ、本人に聞いてみろよ。どうして目を合わせてくれないのか」
「私のことが嫌いでも優しいから教えてくれないよ」
「……優しい奴はそもそも睨まねェだろ」
「ちょっと目付き悪い人なの」
「じゃあ睨んでんじゃなくてお前のことじろじろ見てるだけだろ」
「……じゃあなんでそらすの?」
「だから照れてんじゃねェのか」
酔っ払いらしく一周した会話に呆れる。うようよと彷徨う視線は相変わらずおれと噛み合わなくて、だから、いつもよりちゃんと女の目をじっと見つめることができる。そんな風に背中を押して、付き合っちまったらどうするんだ。いいじゃねェか、こいつが幸せなら。本当か? コラさんの呆れたような声が聞こえた気がしてかぶりを振る。いいんだ。別に、こいつが幸せなら。
「……あなたも好きな人と目を合わせられないの?」
「……そうだな、……あんまりにも綺麗だから、おれと混ざったら汚す気がするんだ」
「どうしてそんな悲しいこと言うの? あなたもこんな見ず知らずの女に優しくしてくれる心が綺麗な人だよ」
でもお前は、おれのことを好きになってくれねェんだろ。見ず知らずの男に成り下がってもいいから、そんなに褒めてくれるなら、その目付きの悪い男から乗り換えてくれよ。それは無理なんだろ。じゃあ変な慰めなんかいらねェよ。お前はよそ見なんかせずに、その男と幸せになればいい。泣かされたら、麦わら屋のところが総出でそいつを消すだろう。おれが足を踏み入れるところなんてない。
「ローもいつもおれは優しくねェとかドライだとか変な嘘つくけど優しいし全然ドライなんかじゃないんだよ、あなたも、」
「…………誰だって?」
見ず知らずの男相手にも全力で慰めようとしてくる好きな女の言葉は虚しくなるだけで受け流そうとしたのに固まる。今、こいつ、なに、
「……? 私の好きな人もね、変な嘘つくけど優しいから、あなたも優しいよ」
「……だ、誰だって言った?」
情けなく震える声で、自意識過剰なのかもしれないと膝をつねって落ち着きを取り戻そうとする。酔っ払いで緩んだ口が、ちゃんと聞こうとしなかったおれの耳が、変な奇跡を起こしただけかもしれない。
「?? 私の好きな人の名前知りたいの? 内緒にできる?」
「できる」
「ローだよ、お医者さんしてるの、そういえばあなたのお名前はなんていうの?」
「ロー、」
「ほんと? そっくりさんは名前も一緒なんだね」
うふふ、と嬉しそうに笑って頬を赤らめる女に、酔ってもいない頭がぐわんぐわんと揺らいでカウンターに顔を思い切り打ちつけた。痛い。じゃあ、夢じゃねェ。眠たいの、と酔っ払った女はおれの背中をとんとんと撫でさすって眠らせようとしていて、だけどおれは眠ってる場合なんかじゃない。好きな女の酔った口を滑らせて心を暴いた結果、両思いかもしれねェということに浮かれて、それから心の中で自分を切り刻む。誰だかわからない陽炎のような恋敵じゃなく、しっかり顔のわかるおれを心の中でしっかり立たせて何度も何度も切り刻んだ。浮かれてる場合なんかじゃない。だっておれは、好きな女を傷付けていた。おれが好きな女とろくに目も合わせられない情けない男なせいで、嫌われていると思われていた。最悪だ。
← →