タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2024/12/01 スモーカー
力の限り叫んだ思い・触れたら壊れてしまいそう・甘くて蕩けてしまいそう


「スモーカーくんって私のこと苦手?」

 馬鹿どものうるさい喧騒の中静かに落とされた言葉が直接脳をぶん殴ってきて、邪魔してごめんね、と申し訳なさそうにする女に顎が落ちて葉巻も自然と落ちる。慌てて煙で掴んだが、もう吸える気分でもなくなって灰皿にそれを乱暴に押し付けて隣に座る女を見下ろした。図体も態度もでかい男だらけの飲み会のハシゴ途中道端で偶然見かけた女は人が良いせいで調子のいい酔っ払いどもの言葉に断りきれず巻き込まれて、結果おれの隣にちょこんと気まずげに座っていた。そんな女から発せられた言葉は脳を直接ぶん殴ってくるくらいには衝撃的なのに、いまいちそれを理解できなくて固まったままじっと見下ろすことしかできない。そんなおれに居た堪れなくなったのか、またごめんねと謝りながら俯いたせいで髪で顔が隠れて表情も窺えない。

「なんで」

 小さな子どもみたいにそれしか言葉に出せなかった。おれが喋ったから、気まずいはずなのにまた顔を上げて視線を合わせてくれる女にもう一度、なんで、と呟く。

「……スモーカーくん、私にだけ態度違うから。今日のスモーカーくん、酔って機嫌良さそうだったから、私とも喋ってくれるかなって期待して、……だけど、やっぱり、私がいるとスモーカーくん、眉間に皺寄っちゃうし、喋らなくなっちゃうから、……飲み会邪魔してごめんなさい。次からはちゃんと断るから、今日だけ許してね」

 ごめんね、と引き攣った笑みを健気に浮かべて謝る女にさっと血の気が引く。本当に大量出血した時よりもよっぽど目の前が霞んで動悸がおかしくなりそうで、動揺した体は勝手に煙に溶けるし脳がまともに働いてくれない。

「い、いやだ」
「……今すぐ帰るのは無理だよ、水差しちゃう。もうちょっとだけ我慢し、」
「ち、ちがう、いやだ、かえるな、ここにいてくれ、」

 悲しげに揺れる目が瞬いて、頭に思い浮かぶ言葉を手当たり次第に投げるおれを不思議そうに見上げてくるからまた言葉に詰まる。

「わる、悪かった、そんな風に思われてるなんて思ってなかった、おれが全部悪い、お前が謝る必要ない、三十六のいい歳した男のくせに、思春期のクソガキみたいなおれが悪い」
「ししゅんき、」

 道端で見つけた知人を酔っ払いどもが強引に飲み会に巻き込むのを、ただ見守っていたのは欲があったからだ。お前じゃなければ迷惑をかけるなと怒鳴りつけて酔っ払いどもを引きずってハシゴもやめて説教コースだ。でも、お前だったから。じっと黙って見過ごした。一緒にいたかった、ただその欲望のためだけに男だらけのむさ苦しい飲み会に巻き込んだ。せめてたしぎがいたならお前も楽しめたのかもしれないのに。そんなこと、頭から抜け落ちてた。

「お前と、どう話していいのかわからない。嫌われたくなかった。おれはデリカシーがないだのなんだの言われることもあるから、余計なことを言って嫌われたらと思うと怖かった」

 え、と小さな声が聞こえて、情けなくてもぼろぼろと言葉を落としていく。

「余計なことを言わなけりゃ嫌われることもねェと思ってたのに、やっぱりおれは気が利かねェから、結局お前を傷付けて、……くそ、……悪かった、……おれの方こそ、もう二度とお前にそんな思いはさせねェから、……今日だけ我慢してくれ」

 目を見開いて驚く姿に、情けなさすぎて目を逸らす。ねえ、と腕を揺すられて固まる。もう嫌な思いはさせたくないと誓ったばかりなのに返事も出来ずに固まるおれに根気よく揺さぶってくる。油の切れたロボットみたいに首を動かしてようやくまた合った視線に呻く。

「私のこと、苦手じゃない?」

 ああ、と声に出せなくて、それでも頷く。

「私のこと、嫌いじゃない?」

 もう一度。

「……私のこと、好き?」

 カッと体温が上がって、目の前で急に笑顔が咲いて固まる。初めて見る笑顔の直撃に自分でも何を言いたいのかわからないまま口を開いた瞬間、ドッと周囲が爆発するように騒がしくなって反射的に顔を動かして後悔した。そうだ、ここ、酔っ払いの馬鹿たちのど真ん中だった。