タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2025/01/07 ゾロ
ひた隠した思いが裏目に出て・風に舞い踊る髪・解けたリボン
※なんでも許せる人向け
※ちょっとゾロが可哀想かも?


「……ゾロ、かっこいいね」

 落とされた声はひどく小さかったのに、脳を揺さぶられるほどの衝撃を与えてきて固まる。ちらりと盗み見た言葉の主の視線は、未来から来たおれだなどと宣うジジイがニヤけた面に釘付けで歯を食いしばる。いつだって抜刀できるように手を添えている。だが、全く歯が立たないんだろうってことは、ひしひしと肌で感じて理解をしていた。にやにやと腑抜けた面をしているくせに、纏う何かが底知れなくて身震いをする。認めたくないがきっとアレはおれだ。今のおれじゃ太刀打ちできないのも本能で悟ってしまう。おれ相手に見惚れてるなら認めたくなくてもまだ許せる。でもおれはあんな目で見られたことなんてない。あんな声で褒められたことなんてない。

「お前は相変わらず可愛いな」
「へ、……うわ、うわわ、ゾロ、大人になったらそういうこと言えちゃうんだ」

 なんだそれ。意味がわからない。そいつは確かにジジイだが、おれだって二十一歳で大人だ。エロコックのように気持ち悪い言葉を吐くおれに、戸惑いながらも嬉しそうに微笑んでいる。

「ねえねえ、好きな人変わったの? だから私にも優しくしてくれるの?」
「う゛」

 ずっとやにさがっていた表情が引き攣って変な音が辺りに響いた。ただでさえイレギュラーな状況での異音に、出所を探ろうとして固まる。太刀打ちできないと思った男が片膝をついて胸を抑えていた。なぜ、と考えるのと同時に、なんでそんなこと言うんだ、と震える声で男が聞いて、大丈夫?と心配され首を傾げられていた。なんでそんなこと言うんだ。何がだ。何を言った瞬間あの男が呻きだした? 好きな女が見たことのないほど目を輝かせてたのに釘付けになっていたせいで言葉をきちんと脳で噛み締めていなかった。
 ねえねえ、好きな人変わったの? だから私にも優しくしてくれるの?

「……あ?」

 言葉を理解して頭上にはてなを飛ばす。

「……優しいとなんで好きな人が変わったことになるんだ?」
「? ゾロが好きな子に意地悪するタイプだから」
「う゛」

 放たれた言葉にさっきの男と同じような呻き声をあげて片膝をついた。だけど爆弾を落とした女はおれの方になんか見向きもしない。未来のおれには大丈夫?と聞いていたくせに。振り向きもしない。それどころか片膝をついた未来のおれに視線を合わせてしゃがみこんでやっていて距離を詰めていた。

「わ、……悪かった」

 男が謝って、嫉妬に操縦を奪われていた思考回路を取り戻してさっきの言葉を反芻する。
 ゾロが好きな子に意地悪するタイプだから。
 おれの馬鹿げた習性がバレていて、体温が沸騰する。

「未来のゾロが謝るのは未来の誰かだよ。だって今の私は未来のゾロに意地悪されてないもの」
「違う、おれが謝るべきなのはお前だ。おれはずっとお前だけを愛してる」

 そんなわけがないのに沸騰しきっていた血液が弾けた音が聞こえた気がして目の前が眩む。おれの気持ちがバレていて、未来のおれがおれにできない愛を囁いて、首を振られている。未来のおれが謝るべきは未来のこいつで、今のこいつに謝るべきなのはおれだということを理解してはくはくと口を動かしても息を吐き出すことしかできなくて呻く。

「……うーん、そんなこと言われても困る」
「もう遅いか? ……そうだな、馬鹿なおれはお前をたくさん傷付けた。傷付けた自覚だってなかった。おれだけが楽しい恋だった。今のお前に許してほしいとは言わねェ。それでも、昔のおれにチャンスをくれ。いや、チャンスはずっと貰ってたんだよな、嫌われてもおかしくなかった。仲間として好いてくれてるだけ、贅沢すぎるほど恵まれてた。おれが馬鹿なせいで、遅くなってごめん」
「……未来のゾロは謝れるんだね」

 ふふ、と楽しげな笑い声が聞こえた瞬間どこにそんな気力があったのか飛び跳ねて間に滑り込んだ。無理矢理視界に入ってようやくあった目は驚いたようにまんまるく見開かれていて、その目に見つめられた途端にまた固まる。

「き、……嫌わないでくれ」

 ようやく絞り出した言葉はこいつの望んでいた言葉じゃなく、いまだに自己中心的な言葉で自分で自分を殴りつけたくなった。瞬間、目の前に星が散って後ろから頭をぶん殴られたことに気付く。いてェ、と反射的に文句を言おうとして、未来のおれに初めて感謝した。自分で自分を殴れることなんてない。

「す、…………好きなのに、傷付けて、悪かった、ごめん、」

 間に入った驚きに見開いていた目が瞬いて、困ったように笑われる。いいよ、と受け入れられることも、許せない、と突き放されることもない。ただいつものように困ったように笑われるだけ。あいつに見せてたような輝く目は、割り込んだことによってかき消えた。それでも今のおれにできることは受け入れられなくても、突き放されても、とにかく謝り続けることだけだった。