タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
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2025/01/15 ロー
さらば、日常・そんなもののために、・命はいつか終わるもの
※なんでも許せる人向け
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瞬いた瞬間、開けた視界に固まる。海辺でぽつんとひとり突っ立っていて心臓がぎゅうっと変な音を立てた。おれはなんでこんなところにいるんだ。コラさんは? ぐるぐると考えてもここに至るまでの経緯を何も思い出せなくて不安になる。覚悟を決めておれを連れ出したコラさんが、早々に諦めたおれよりあんなに熱心だったコラさんが、今更ひとりおれをほっぽりだすはずない。もしかしていつものドジですっ転んで海に転げ落ちたんじゃないのか。不安になって海を睨みつけても波一つ立ってない海は大男なんて落ちてないのがわかる。だけど砂浜を見下ろせばここに来るまでについたんだろう大きな足跡が一人分だけあって、いつものようにおれを抱えて歩いてきた証拠で、……なのに、今ここにはおれしかいない。一歩踏み出せば小さな足跡がひとつ砂浜に増えるけど、コラさんの足跡は増えない。だって隣にいないから。急に消えたコラさんに痛みが走る。皮膚が引き攣った痛みなのか悲しくて心臓が痛んだのかわからない。どうしようもなくなって蹲りそうになった瞬間、じゃり、と砂浜を踏み鳴らす音が聞こえて痛みも忘れて飛び跳ねるように振り返った。
「どこ行ってたんだよコラさん!」
ぶつけた言葉に返ってきたのはコラさんと歳が近そうな女の悲鳴でとうとう視界が滲んだ。コラさんじゃねェ。急に怒鳴りつけた謝罪も忘れて蹲って膝に頭を隠した。だって、顔を見られたら怖がられる。嫌がられる。コラさんが異常で、その反応が普通なのはわかってるけど、コラさんがおれの心を柔らかくしてしまったから、コラさんがどこかに行ってしまった今はその反応に耐えられそうになかった。
「……ろ、……迷子になっちゃったの?」
「……いつも迷子になるのはおれじゃない」
少し遠かったからおれの皮膚には気付いていなかったのかもしれない。ひとりで海辺にいる子どもに優しくしてくれる大人に返事をした。だって、コラさんの足跡はここで消えてるから、帰ってくるならここだし、ここから離れたくない。適当に追い払ってコラさんを待とうと思ったのにじゃりじゃりと砂が鳴る音が近付いてきて身を硬くする。隣に座り込んできた女の人に息を呑んで様子を探っても膝の間に頭を隠しているせいで靴しか見えない。
「いつもコラさんが迷子になるの?」
ふふ、と優しい笑い声が降ってきて、なんでコラさんの名前を知ってるんだと一瞬警戒したけどさっきおれが怒鳴りつけてしまったんだったと思い出す。
「……コラさんは馬鹿でドジだから」
そっか、と頷かれて、その優しい音がシスターを思い出して思わず帽子の影からちらりと盗み見ようとしたのに、ばっちり視線があってさっきよりも小さく丸くなる。目が合った。全然、おれのことなんか怖くないって目で。父様や母様みたいな目でおれを見てた。影だったから、一瞬だったから、皮膚のことはわからなかったのか。ひとりぽつんと座り込んだ子どもに声をかけてくれるような優しい大人だから、あんな目で見てくれて、……でもきっとこの人も、おれの皮膚を知ったら離れてく。医療のことを勉強でもしてなきゃわかるはずもないから仕方がない。医者ですら伝染病だと思い込んでいて治す方法を知らないんだ。普通の人が知らなくておれから離れても不思議じゃない。
「そんなにドジなんだ。私も会ってみたいな」
「…………たまに怖いぞ」
「怖いの?」
「すごいデカくて、ピエロみたいな化粧してる」
「楽しそうな人」
ふふ、と笑われて眉を顰める。おれが悪いけど、窓から子どもぶん投げたりするような男は、迷子だと思った子どもに優しく声をかけてくれる女の人からしたら怖いだろ。さすがに言えないけど。馬鹿正直に言ってコラさんから引き剥がされそうになっても困る。ここから女の人を遠ざけたくてコラさんを怖がってもらおうと思う作戦は失敗してどうしたらいいのかわからない。嘘だ。本当はわかってる。とっとと顔を上げてこの皮膚を見せて、怯えて逃げてもらえばいいんだ。それが一番この女の人を引き離す手っ取り早い方法で、そうしてコラさんをじっとここで待てばいいのに、一度優しい目を向けられてしまったから、あの目が恐怖に変わるところを見たくなかった。この優しい人を無駄に怯えさせたくなかったし、おれも傷付きたくなかった。
だけどこの人はたぶん、おれが大人と集合するまでずっとそばにいてくれる。コラさんがいつここに戻ってきてくれるかわからない今、この人の優しさをこれ以上無駄に奪っちゃいけないと覚悟を決めた。息を深く吸い込んで、深くかぶった帽子をとって、顔を上げた。今度こそ、しっかりおれの皮膚が見えたはずだ。
ぱち、とまつげが揺れて驚いたように目を丸くした女の人の次の言葉が怖くて顔を伏せないようにしながら目を逸らす。悲鳴はいい。でも、バケモノ、だとか、……そういう言葉は聞きたくないな、と、考えた瞬間、帽子は胸元で抱きしめているのに頭に影ができて不思議に思う。反射的に影を確認しようと視線を戻したと同時に頬に触れた温かい感触に喉が引き攣った。
「痛い?」
「……い、いまは、い、たく、ない」
聞かれて、頬に触れているのが女の人の手だとわかる。優しく親指でおれの皮膚の跡をなぞるように触れてきて、固まって動けない。
「う、……うつ、るぞ」
伝染病なんかじゃないのはおれが一番わかってるのに驚きすぎて口から飛び出た言葉を聞いても、女の人は手を引っ込めたりしないしそれどころかもう片方の手もおれの頬に触れてきた。
「うつらないよ。感染病じゃない。治療法だってある。今は苦しいし、つらいかもしれないけど、絶対に治る」
とことん優しかった女の人の優しい子ども騙しの言葉だってわかってるのに、まるで本当の本当のように聞こえてじわりと目玉が熱くなる。
「大丈夫。私の大好きな人の病気も治ったから、君も治るよ。大丈夫だよ」
優しく引き寄せられて帽子が砂浜に落ちた音が聞こえた。視界が真っ暗になって頬だけじゃなくて体中が温かくて柔らかいものに包まれてぎゅうっと抱きしめられたんだってわかる。なァ、大好きな人って誰? お前みたいに、見ず知らずの病気の子どもに優しくしてくれる人? お前はその人に優しくしてもらってる? もし、……もし本当におれの病気が治って、こんな風に抱きしめられてもすっぽり包まれることなんてないくらい大きくなれたら、今おれに優しくしてくれたみたいに優しくするから、おれのことも大好きになってくれる? 馬鹿みたいなことを考えて首を振る。そんなこと、あるわけない。なのに、大丈夫、と抱きしめられながら何度も体を優しく撫でられて、不安と緊張で張り詰めていた糸が切れて意識が遠のいていった。
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