タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2025/03/12 ロー
どこにいけば君に出会えますか・背に残る猫の爪痕・ひらがなで呼ぶ名前
※ちょっと可哀想かも


 浮気か?
 全身をぴかぴかに磨いて現れた恋人にかわいいきれいだと褒めちぎったのは数時間前のこと。おれとの久々のデートのためにこんなに準備してきてくれたんだなと、浮かれていたのが自分だけじゃなかったことに喜んだはずだったのに、今じゃその何もかもが疑惑に思えて仕方がない。クローゼットの前でうんうん唸る姿は、恋人のおれしか見れないはずの薄着で、その中身も当然全部おれは知っている。だが、そんなに悩む姿は初めてで、じわりと背中に冷や汗が浮かんだ。

「どっちの方が好き?」
「………………ひだり」

 くるりとこっちを向いた恋人が手に持っている服を、いつものように悩みに悩んで決める。好きかどうかで聞くのはやめてほしい。中身がお前な時点でどっちも好きでしかない。だが、どっちでもいい、なんて答えが最悪なのは疎いおれにだってわかるからいつも苦渋の決断を強いられている。その苦渋の決断を、ローが好きならこっちにしよ、と嬉しそうに微笑んでいつもおれが選んだ方を身につけてくれる恋人が今日に限って、うーん、と悩み続けていてじっとりと背中が濡れる。いつも、おれが選んだのを着てくれるじゃねェか。なんで。

「…………、うん、……ありがとう、これにする」

 最終判決はおれが選んだ服に決まったようだが、それでも過程がいつもと違っていて不安になる。

「……それ、次のデートのときに着てくれるのか」
「あっ、そういえばローが好きそうな服新しく買ったの。だから次のデートはそれ着ていく予定」

 勇気を出して聞いた質問は、どう受け取ればいいのかわからないまま蹴り返されて受け止め方に迷って黙り込んだ。おれとのデートのために服を新調してくれた。うれしい。楽しみだ。でもじゃあ、……今選んだ服はなんなんだ? あんなに思い悩んで、その日が待ち遠しいと言わんばかりに嬉しそうに垂れたまなじりでひとつの皺も許さないと優しく撫でつけて、……それから、それに合わせる靴を今度は悩み出して、……なあ、じゃあそれは、いつ、誰に見せるんだ?
 だが、浮気だとして、それをこんなにも堂々と恋人のおれに聞くか? そんな馬鹿げたことがあるはずがない。恋人に浮気相手とのデートとの服を選ばせる女がどこにいる。世界のどこかにいたとしても、目の前で楽しそうに浮かれる女がそんなことするわけがない。……じゃあ、なんなんだ。

「…………おれとのデートより悩んでるな」
「幻滅されたくないもん」

 ……そうか。おれはお前がどんな格好で現れようが幻滅しないから、だからおれの時は悩まないのか? 何をしててもかわいいきれいだ愛してると言うしつこい男だもんな。お前のその服を見ることができる幸運な奴は、ちょっとでも変なところがあったら幻滅するような最低なやつなのか? そんな奴となんか、会わなきゃいいのに。そう思うのに、悩んでる姿もどこか楽しそうで、色んな意味で負けている気持ちになってとうとう目を逸らす。

「……そのデートはいつなんだ?」
「あした!」

 着ていく服も、日付けさえも教えてくれる。こんな堂々とした浮気があるのか? だが、デート、を否定しなかった。もちろんおれには明日デートの予定はない。

「………………おれはついてっちゃ駄目なのか」

 浮気デートに同伴して、何がしたいのか自分でもわからない。だけどすぐに断らずに少し悩む恋人がいるから、俯いたまま答えを待つ。いいよと言われても、いやと言われても、どっちにしろどうすればいいのかわからない。

「……うーん、また今度ね。明日はふたりきりで会いたいから」
 ぽっきりと何かが折れた音がした。
「……浮気だ」
「ええ? 浮気?」

 ぺちぺちと裸足で床を踏む音が近付いてきてシーツに顔を押し付けて伏せる。今、情けない顔してるから、見られたくない。おれの背中にぺったり乗っかって肩に顎を乗せながらどうしたのとおれを甘やかす声は優しいのに、酷い女だ。

「ふたりでなにするんだ」
「なにって、……おしゃべり? どうして拗ねてるの?」

 ちゅ、と背中に乗っかった恋人に耳へキスを贈られたって、折れた心は元には戻らない。それどころかこんなことをしてくれるのに浮気をしに行こうとする訳がわからなくて余計に傷付く。

「喋るだけで済むのか」
「?」

 不思議そうな気配が伝わって、まだ境界線を越えようとはしていないことに安堵する。

「…………浮気しないでくれ」
「するわけないでしょ? ねえ、どうしたの? 私、ローのこと大好きなのに」

 即答で否定された言葉に顔をあげる。ごろんと転がって上に乗っかっている恋人を抱き寄せて今度は腹の上に乗せてじっと顔を見つめて嘘か本当かを見極めようとする。ころころと転がされたことに目を白黒させていたのに、何が楽しかったのか頬を緩めて笑いながらおれの顔にたくさん唇をくっつけてくれる恋人の言葉を疑いたくなんかなかった。

「なんで急にネガティブになっちゃったの? これじゃラミちゃんに怒られちゃう」
「……ラミ?」

 よしよし、と頭を撫でくりまわされながら出てきた名前に思考がズレる。

「はじめてふたりでお出かけするから楽しみなの……ってそんなことよりローがどうしてそんなこと心配してるのか教えて? 私、何か不安にさせるようなことした? 伝わってない? ローのこと、こんなに大好きなのに」

 ちゅ、と唇にキスされて固まった。

「ラミと、出かけるのか?」
「? うん」
「いつ?」
「? 明日だけど、それよりローがどうして浮気の心配してるのか教えて」

 ちゅ、ちゅ、と慰めるようなキスの嵐にほんの少し意識が逸れながらもどうにか思考を駆け巡らせる。

「デート、明日なのか?」
「ねえ、話そらさないで」
「ずっと同じ話をしてる」

 うん?とキスを止めて不思議そうに首を傾げながらおれを見下ろす恋人を、ぎゅうっと抱きしめる。

「……ラミと出かけることをデートだって言ってたのか?」
「……えっ、わっ、ごめん、変な勘違いさせちゃった!? ……ん? 待って私がデートって言った? ローが……や、そんなことはどうでもいっか、勘違いさせてごめんね、変に浮かれてたから心配になっちゃったんだよね、ごめんね、浮気なんてしないよ。明日はラミちゃんとお出かけするの」

 おれの胸に抱き寄せられたせいで溺れながら必死に答え合わせをしてくれる恋人を更に抱きしめて安堵の息を吐く。確かに紛らわしい言動をされたが何も悪くない恋人がずっと謝ってるのに、勝手な勘違いをして拗ねてたおれが謝罪の言葉を紡げない。浮気疑惑が宙に消えて気が緩んだせいで涙腺まで緩んだのか、今喋ると涙声になってしまいそうだった。