タイトルを考えるのが死ぬほど苦手
← →
2022/04/02
▼
「おなかすいた」
「……エッ」
そんな、おれがいてクルーを飢えさせることなんてないと自負していたのに。クルー全員に栄養が行き届くようにするのはもちろんのこと、何人か規格外はいるけどそれぞれどれくらいの量で腹いっぱいになるのか胃の大きさだって把握してると思っていたのに。この船のコックとして胃を預かった以上たとえ海を当てどなく彷徨うことになったとしても、飢えを感じさせることは絶対にさせないと誓っていたのに。あまりの衝撃にぐるぐると考え込んで固まってしまっていたけどそんな反省は後回しだ。まずはレディの腹を満たすのがコックとしての務めで。慌てて洗い物の水を止めて声の主を振り返れば、おやつに渡したケーキをつんとフォークでつついて口の中に放り込んでいるところで目を見開く。
「え、あれ?」
もしやさっきのは幻聴だったか? レディの頬が可愛らしく膨らんでもぐもぐと咀嚼しているのはやっぱりケーキで、そしてお皿の上にはまだ半分以上残ってる。どういうことだ? ランチだって今日も綺麗に食べきってくれた。レディの胃の量を考えればケーキは寧ろちょっと多すぎたかな、と思ったくらいだったんだけど。我ながらレディの好みの味付けに作れたとは思うけれど。
「……あっ、そのケーキを気に入ってくれたってこと? 今日はもうそれでおしまいなんだけど、また今度作る時はおかわりもできるように多めに作っておくよ。とりあえず今腹を満たすのは他のものでもいいかい?」
「んん……」
何度か瞬いて頭を働かせて導き出した答えはどうやら不正解だったようで、ごくんとケーキを飲み込んだレディがまたフォークでケーキをつついて不可解そうに唸りながら眉を寄せている。思い悩む姿も素敵だ。だなんて思ってる場合じゃねェ。お腹がすいたと嘆くレディにはコックとしておれがなんとかせねば。
「おなかがすいた、は、ちょっと違ったかも?」
「?」
もぐ、とまた口に頬張って、レディの眉間の皺が解けて美味しいと溢れた本音におれの心も癒されそうになる。違う違う。美味しいって言ってもらえるのは嬉しいけど今はそうじゃない。
「……なんだかこう、……食べても食べても満たされないの」
「?!?!」
由々しき事態すぎる。慌ててレディに近寄って隣に座って手を伸ばして、伸ばしただけで固まる。だっておれはチョッパーのような医者ではないから、レディを見てもいつも通り可愛らしくて美しくて素晴らしいことしかわからない。おれの指先をレディがじっと見つめてもどうしたらいいのかわからず伸ばして固まったまま。ぐるぐるぐるぐる考えるだけだったのにふと指先が熱い何かに触れて飛んでた意識が戻る。戻ってないのかもしれない。だっておれの指先がレディの頬に触れてた。意識が飛んだどころか気を失ってしまって現実のおれは医務室のベッドに寝転がされているのかもしれない。それくらいの衝撃で、反射的に指を引いてしまって夢だとしても勿体無いことをしたと思ってももう遅い。そのまま固まってればレディの柔らかな頬を感じられて天国だったのに。いやいや天国を感じてる場合じゃねェ。レディの悩み事の原因をなんとかしなくちゃいけない時にそんなことを考えるおれ、ほんとダメなやつだ。くそ。
「わかった!」
「エッ」
「サンジくんじっとしてて」
「ハイッ!」
突然レディが満面の笑顔で叫んだと思えば唐突に指令をくだされてレディの言う通りじっと固まる。フォークを置いてごそごそと立ち上がったレディを視線だけで追って、たぶん心臓が止まった。だってレディがおれの膝に乗り上げて胸に背中を預けておれを椅子にして座り込んでいた。
「……は?!?!?!」
「ワッうるさ」
「ごめんエッ?!」
意識が飛んで、戻ってきて、飛んで、戻ってきて、を繰り返してる間にレディの手にはフォークが舞い戻っていたし、おれの前であってレディの前でもある場所にケーキの皿がきちんと移動されていて半分以上あったはずのケーキが三分の一ほどに減っている。エッレディおれを椅子にしておれが本物の椅子同然に意識を無くしてた間に平然と食事を再開してたの?! 何してんのこの人?! エッ?!
あまりの衝撃にまた意識が飛んでる間にレディののほほんとしたごちそうさまの言葉とともにフォークが皿に置かれた音。エッ食い終わってるし?!
「おなかいっぱい!」
「よかった! エッどういうこと?!」
全身をおれに預けてもたれかかって顔を上げたレディとばっちり視線が交わったけど、もうおれには考える力は何も残ってなかった。とりあえずレディの腹が満たされたのは本当によかったけど。
← →